12話 クラスの女子を整える
「失礼します」
一応礼儀としてお辞儀をして入る。
中学時代の部活動みたいなノリでしてしまう。誰もいなくても、神聖な場所だったから。こうやって毎日練習に臨んでたっけ。今は働かされているし、そもそもここじゃ、男子バスケットボールなんて出来ないけども。
下げていた頭をあげると、サウナの中には大勢の女子がいた。僕のクラスの女子達だ。
「遅いんだけど?」
「暑いし。何回か出入りしたんですけど?」
「忍くん、来ないんだけど?」
クラスの女子たちは汗びっしょりになろうとも、暑さに耐え続けているようだった。席は全て埋まる勢いだ。サウナに来るとは言ってたけど、本当にクラス全員で来ているようだった。
それも、放課後すぐに来てるなんて。張り切り過ぎじゃないかな?
既に座るポジションも決まっているようだった。きっちり間隔をあけて座っている中で、ぽっかりと真ん中だけが開けられている。忍くんが入るのは、ちょうどそこの席なんだろうな。
「早く呼んでくれないかな? 結構限界近いんだけどさ……?」
「いつ来るんだよお……」
クラスの女子たちで人口密度が高まった状態。流石にこんなにサウナ内に人が入っちゃうと、酸素が薄くなってしまうかもだな。調整しておこう。
ロウリュをかけて蒸気を出す。その後で、少しサウナ室のドアを開ける。
「なになに、なにしてんの? ジュワジュワしてるじゃん?」
「これで、少し温度とか湿度とかが調整できるんです。ドアも開けることで少し温度も下げてきますね」
「ふーん。なんか慣れてるんだね」
ロウリュをかけると湿度は上がるけど、一時的に室温が下がる。ドアも空けることで、室温、湿度ともに調整できると思ったけれども、文字通り焼け石に水だな。
今にも気を失いそうな顔をしている女子もいる。そんなになるまで待っていなくたっていいのに。これは、一回皆を水風呂に入れた方がいいかもしれないな。
「あ、あの……。皆さんに提案なんですが、少し涼みませんか……?」
「ん、涼む?」
「どうやってやるのよ、ここはサウナでしょ?」
「いいから早く忍くんを連れて来てよ!」
口々に文句を言ってくる。それでも、僕の役目を全うしよう。
サウナをしている女子たちをエスコートすることが僕の役目だから。
「あの、騙されたと思って、少しだけこちらに来てください」
「騙す……? はぁ、忍くんは来ないっていうの?」
「い、いや、そういうわけじゃなくって」
頭に血が上っているのか、話を聞いてくれない。こうなったら、無理やり誘導してしまうか……。
「こっちに忍くんいるので、ついて来てください!」
「えっ!? なにそれ、それなら早く言ってよ!!」
嘘をついてでも、助けないといけない。サウナの極限状態で猛獣と化した女子たちは、僕を睨んでいる。僕がサウナのドアに手をかけると、すぐに追いかけて来ようと立ち上がってくる。誘導というよりも、すぐに逃げないとひどい目にあわされそうな気もしてくる。少し早歩きで逃げる。
「ちょっ……! 待ちなさいよ!!」
サウナの近くに、それはある。僕は、一目散に入った。一気に入ると、僕でも流石にきついけど、我慢だ。
「なんでお風呂に入ってんだよ!!」
僕の思惑通り、女子たちは追いかけてきた。僕を捕まえようと、一歩湯に足を付ける。
「ひいっ!? 冷たっ!?」
大きなリアクションを取って、最初に入ってきた女子は後ろへ下がっていく。そうなのだ、僕が入ったのは水風呂。サウナには付き物。体温を冷ますためのものだ。このスパは女子に配慮されているのか、水風呂の温度は若干高めになっているようだった。
状況がわかっていない女子が次々と水風呂に入ってくる。
「なにこれ! 冷たっ!……けど、気持ちいいかも?」
「暑かったから、このくらい一気に冷やしてくれるの気持ちいいー……」
「えぇ、いいな。私も入りたいです!」
僕を追いかけてくる目的を忘れてしまったのか、女子たちは水風呂の魅力に気付いたようであった。次々と水風呂へ入ってくる。
「冷たいけど、それがいいー!」
「引き締まるね!」
よしよし、僕の計算通り。
サウナの広さと合うように、何個も配置されている水風呂。最終的には、サウナにいた女子全員が水風呂に入ってしまった。みんなで一気に入ったからか、その分温度もかなり上がっていた。それが。サウナ初心者にとってはちょうどいい温度になったのかもしれない。
「気持ちいい……」
「なんだか冷たいはずなのに、温かい……?」
段々と整い始めてきているようだ。
僕も整い方のコツを教えておこう。
「水風呂では、あまり動かないでいることが気持ち良くなるコツです。身体と水風呂の間に、空気の層が出来るので丁度良く身体を冷やしてくれます」
サウナの楽しみ方の一つ、水風呂を楽しませることに成功したようだった。落ち着いてる女子たちに再度号令をかける。
「そうしたら、水風呂から出てベンチに座ってください。その時間が一番気持ちいいはずです」
「おう」
水風呂が相当気持ち良かったのか、女子たちは僕の言うことをキチンと聞いてくれそうだった。次々と水風呂から上がり、ベンチに腰掛けていく。
「座ったら、力を抜いてみてください。じわじわと身体が温まり始めるのがわかると思います」
「確かに、なにこの感覚……?」
「不思議と身体が浮いているような感覚……。気持ちいい……」
目を瞑っている女子たち。恍惚な表情をしている女子もいる。
「これが整うという感覚です」
「整う……。それ、聞いたことある」
「整うっていうのかー。これ、最高な気分……」
よしよし。
どうにか、クラス全員を整わせることが出来た。サウナの良さをこれでわかってくれたら嬉しいんだけどな。忍くんが来るまでの時間稼ぎだったけど、これだけ気持ち良さそうならしばらくは大丈夫だろう。ベンチで整えてもらって……。
「あれ、みんないる?」
「あ、忍くん! やっと来てくれた!」
「なんか、うちのクラス全員集合してない? みんなサウナ好きの?」
不思議そうであったが、嬉しそうな表情を滲ませていた。




