10話 彼は女子
「今日の放課後、一緒にサウナに行こう!」
仲良くなろうと、積極的に忍くんを誘ってみる。好機には攻めていかないと。
僕のサウナ奴隷生活の心が折れないように、せめてサウナ好きの友人が出来れば。
彼は、複雑な表情を向けてきた。「お前、性的犯罪者だろ?」みたいな目をされてもな……。
「……キミとサウナなんて、イヤだけど?」
「ス、ストレートに拒否してくるんだね……。けど、そのくらいの方が気持ちいいけどね!」
「いやいや、なんで笑ってんの? マゾ?」
「いやいや、清々しいのが好きだからさ。サウナって気持ちいいんだよ!」
「……キミから『気持ちいい』って聞くのが『気持ち悪い』んだけど?」
否定的な言葉を浴びせられているけど、忍くんの表情はかなり明るい。やっぱり、こういう軽口を叩き合える関係性っていうのは、男子同士だとドロドロしなくて楽しいな。
「一回行ってみようぜ! 今日の放課後待ってるから!」
複雑な表情を見せて来たけど、きっと来てくれるはずだ。心が通じ合えた気がする。
◇
放課後の教室。
クイクイと手招きをしてサウナへと誘う。
明らかに困った表情をしていたけど、「任せて!」と先輩面して引っ張ってきた。
「今の時間なら、ほぼ人はいないから大丈夫だよ。そもそも、サウナなんて誰も来ないし」
「そうなの……?」
スパの脱衣所も、誰もいない時間帯。
放課後ダッシュはやはり正解だった。僕はすぐに制服を脱いでしまう。パンツも脱いでタオルで前を隠す。チラリと忍くんの方を見ると、恥ずかしそうにゆっくりとズボンを脱いでいた。男同士で遠慮することなんてないのに。
「パンツの前、可愛いのが付いてるんだね?」
「う、うん。こういうの好きだから……」
「……あれ、よく見ると、布面積が少ないような? トランクスとか履かないの?」
「……そりゃ、大人っぽいのも履くよ。……あと、あんまりジロジロ見ないで、恥ずかしいから」
「あ、ごめん」
けど、気になるな。なんというか、華奢な身体なのはわかっていたけど……。
彼は上着を脱いでいく。シャツのボタンを取っていくと、表れたのは胸元を覆うブラジャーだ。
あれれ……?
あれれれれれ……?
頭がおかしくなったのか、脳がバグってしまったのか。女子を見過ぎてしまっているから、変な残像が見えるのかもしれない。天井を見上げて顔を二回三回とこすって、彼を見る。
恥ずかしそうにブラジャーのホックに手をかけているところであった。
「だから、あんまり見ないでって……」
「あ、ご、ご、ごめん!」
嘘だよね……。
いや、本当は女子なんてオチないよね……?
男子の制服着てたじゃん……?
イケメンだと思ったけど、髪型だってショートウルフカット……。その髪型は、女子でもあり得るのか……。
「準備出来たよ」
彼はバスタオルをしっかり上半身に巻いている姿。少し頬を赤く染めて、こちらを見つめてくる。普段は隠されている肌は、透き通るような白さをしている。華奢に見えていたが服を脱いでも、ほっそりとしている。綺麗な鎖骨。そこから少し下へと行くとバスタオルに包まれた、少しばかりのふくらみが見える。
……僕は盛大に勘違いをしていたようだ。彼は女子だ。
あれ、僕ってば、すごい態度で接してなかった?
ヤバくない?
「パンツ可愛いね」「布面積少ないね」って言ってたよ……。
パンツ、ジロジロ見過ぎてるじゃん……。セクハラが過ぎるぞ……。これはヤバい……。訴えられても、何も言い訳できない……。
「ねぇ、早く行こうよ。サウナ案内してくれるんでしょ?」
「あ、ああー、そうだねー。はははー……」
笑って誤魔化せるものなのか。とりあえず、笑うしかないけども……。
彼は僕の言動はそこまで気にしていないようで、それよりも周りを気にしているようだった。
「人に見られるの恥ずかしいから、すぐ行っちゃおうよ」
「う、うん」
「あれ、どうしたの? ちょっと様子おかしくない?」
「そ、そうかなー……?」
「友達に対してよそよそしくしないでよ。さっきみたいに絡んできたらいいじゃん。ボクに熱波浴びせてよ!」
彼は楽しそうに笑ってる。
僕のことを友達とも言ってくれるぞ。友達……。
「そ、そうだよね!」
変に意識してしまった方が、逆に今までのことが全て罪として被せられる気がする。これは、僕と彼が仲が良いということで突き進むしかない。
「じゃあ、僕がアツアツの熱波かけちゃおうかな?」
「なんか、気持ち悪い言い方だね?」
「あ、ごめんなさい。熱波をかけさせて頂きます」
粗相があったら、即留置場行きだから。誠心誠意気を付けて対応しないと。
「変なの?」
とりあえず要望通り、すぐにサウナへと入る。
もちろん、他の女子はいないから、貸し切りだ。この中へ入ると、僕はプロの熱波師だ。会長の言いつけもあり、放課後はずっとサウナで過ごしている。まだ数日過ごしただけだけれども、熱波の心得は得られたと思う。しっかり満足してもらわないと。
なんでだろうか、サウナへ来ると自然とスイッチが入るのを感じる。熱い気温が僕の理性を緩めてくれるのかもしれない。
「じゃあ、せっかくだから熱波やってみてよ」
「わかったけど、ヤバいって思う前に言ってね。くらくらしてもうダメだって思う前に言ってね。くらくらしてもうダメだって思った時には、かなり危険な状態だから」
「わかった」
彼の要望通り、温度を上げる。熱波を浴びせる用のタオルも準備した。
「あのさ、どうしてボクに話しかけてくれたの?」
「い、いや、何となく似たようなものを感じて」
まさか、男子と間違えていたなんて口が裂けても言えないな。こう見ると明らかな女子だから。とっても女の子。すごく美人な。共学にいたら、モテモテだろう。ミスコンに選ばれても不思議じゃないくらいだ。
「まさかとは思うけど、ボクのこと男子だと思ってた?」
いたずらっぽく笑いながら聞いてくる。正直になんて言えないけど……。ここは、サウナか……。すべてをさらけ出したい気持ちが込み上げてくる。サウナってそんな力がある。
「うん。ごめん。正直に言うと、男子だと思っちゃってた。仲間だなって……」
「そう思ってくれてたら嬉しいな」
「……えっ? どういうこと?」
「ボク、男の子になりたかったんだ」
「……へ?」
「だから、男の子の格好してるんだよ」
屈託なく笑う表情は、まさしく女の子なのだ。天使かと見間違うほどに、整った容姿。もしも許されるならば、抱きしめて撫でまわしたいくらいの父性本能をくすぐるような可愛さがある。もちろん異性としての可愛さもあるから、気持ちの整理がつかなくて爆発してしまいそうだ。
「そ、そうなんだねー……。こんなに可愛いのに」
「それは言われたくないから」
僕はNGワードを言ってしまったようだった。「可愛い」は御法度だな。
「あ、ごめん。いい意味で言ってたんだけどね……」
彼から返事は帰って来なかった。
サウナの中に気まずい雰囲気が流れてしまった。
「……私ね、女子が好きなんだ」
「ふ、ふーん。そういうこともあるよね」
どういう反応をすればいいんだ、これは。
「なんか、サウナだと、なんでも言い合えちゃうね。キミもなにか秘密をもっと教えてよ。フェアじゃないよ?」
「だ、だよねー。秘密、秘密……」
この学園のこと……。それは行ってしまったら本当にまずいヤツだろ。自分自身のことで何かないかな……。
考えていると、彼の方から質問を投げかけてくれた。
「キミはなんで、女学院に転入しようと思ったの」
彼の言う通り、サウナではなんでも言い合えてしまうのかもしれない。僕はするすると本音が出てくるのを感じた。熱波を送るのを止めて、彼の隣へと座る。腹を割って話そう。
「うん……。少し憧れてた気持ちはあったのかも」
「うんうん、わかるけど。女子ばかりの中に入るのって、勇気いらない?」
「せっかくもらったチャンスだと思ったから……」
「ふーん。なんかいいね! やっぱり、キミとは仲良くなれそうかも」
「ありがとう」
本当の友情が芽生え始めて来たのかもしれない。
彼は、少し僕へと近寄ってくる。
「せっかくだから頼んでみようかな」
「うん……? 頼む……?」
「ボクね、男子の身体をね、研究したいって思ってるんだ。男子なんて、この学園には、なかなかいなかったからね」
「そ、それは、この学園ならそうかもだけど……」
「キミと私の中だからいいでしょ?」
「な、なにをするんです……?」
流石に警戒心が出てくる。
「おへそ見せて?」
「へ、へそ?」
何だか抵抗があるけど。せっかくできた友達。ここは快諾しよう。
「いいよ」
「ふふ、さんきゅー!」
彼は僕のおへそをマジマジと見つめてくる。
「良い腹筋してるねー。へぇー触ってもいい?」
「いいよ」
ちょんちょんと人差し指で触ってくる。それだけじゃわからなかったのだろう。がっつりと両手のひらをお腹と背中へやり、挟み込むようにして触ってくる。
「あぁー、かたーい。ベタベタするかと思ったけど、キミの汗はサラッとしてていいね。スポーツしてた?」
「うん。少しだけ。室内で汗をかきまくるバスケットボールをしてたんだ」
「へぇー、カッコイイ! ボクにも教えてよ!」
「いいよ!」
本当に仲良くなれてる気がする。
サウナ作戦、どうなることかと思ったけど、大成功だ。
……彼は女子だったけど。




