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第8話 コーニャお嬢様、家まで送る

「九、おめぇはどう思ったい?」

「え?」


 コーニャと話した後、俺に話を振る梅歌ばいか師匠。どう思う……とはまぁ落語の事だろうな。


「良かったですよ。久しぶりに前から落語を聞けて」

「んー、そうじゃなくてよぉ。前と比べてどうとか、あそこがこうだったとか。おめぇからはもうちょっと細かい事を聞きてぇな」

「あー……」


 梅歌師匠はいつもこうだった。俺には落語の感想を細かく聞いてくる。()()()()()()()とはいえ素人の意見がそんなに頼りになるのか。


「相変わらず花魁おいらんが色っぽくて良かったですけどあそこだけ変わってましたね。花魁が九蔵きゅうぞうの告白を聞いてぬし、その話、本当? ってセリフがその話、本当? って変わっていた。もう10回以上は聞いてますけど今回からですか?」

「へぇ……気付いたか。そう、そこだけ変えたんだけどどうよ?」

「まぁ主って無くすほんの一言の違いですけど、それだけで花魁から少女に戻ったって雰囲気になって良かったと思います。流石だなぁと」

「おー、俺の意図に気付いてくれたか。ももなんかちっとも気付かねぇ」

「う……もうー、師匠ー」


 急に話を振られて慌てるもも。まぁ俺もなんとなくそうかなぁと思っただけの感想なのだが。


「はははっ、相変わらず細かく見ているし記憶力もいいな。どうだ、俺の弟子になるか?」

「お断りします。ももの弟弟子になりますし」

「ははっ、そりゃ気まずいか。まぁおめぇには家を継いでもらった方が俺達にはいいか」

「どう……なんですかね。全く考えてませんけど」

「……」


 俺と梅歌師匠のやり取りをコーニャが口をポカンとさせて聞いている。そうだ、コーニャにはまだ()()()を言ってなかったから不思議に思うか。説明するタイミングを逃してしまったので今更言い辛い。


「ま、まぁ、とにかくお疲れ様でした。俺達帰りますんで」

「そっか、じゃあまた来いよ。もちろん嬢ちゃん達も連れてな」

「だってさ、コーニャ」

「……はい!」


 楽屋を出る時に梅歌師匠はももにホール入り口まで送ってやれと言いつけていた。歩きながらももは俺たちに話しかけてくる。


「今日はありがとうね、九くん。えっと……コーニャちゃんにメイドさんも」

「まぁ最近はあんまり行けてなったからな。楽しかったよ。なぁ、コーニャ」

「は……はい……」


 俺に話を振られてコクコクと頷くコーニャ。後ろでセバスさんも頷いていた様に見えたけど気のせいか?


「あっちの方にも顔を出してくれたらいいのに」

「まぁ……普通に学校あるから忙しいんだよ。そうそう手伝ってられないよ」

「上に住んでるんだから顔出すだけでいいのに」

「顔を出すと手伝わされるからやなの」

「……? あっち……? 手伝う……?」


 俺とももの会話を聞いてコーニャが不思議そうな顔をしている。俺の家の事は伝えていないから当然だろう。


「あ、そうだ九くん。まだグッズ残ってるから買っていってよ。せっかくの記念にさ」

「記念って。なんの記念だよ。コーニャいるか?」

「……!! 欲しいです!」


 また食い気味にグイッとくるコーニャ。まぁ俺への記念と言うよりはコーニャが初めて落語を生で見た記念だな。

 ももに連れられ物販コーナーに案内されると残っていたグッズを見せてくれた。


「扇子や手拭てぬぐいは売れちゃったんだけど……はい、CDに本に、ブロマイド3枚詰め合わせ。お好きなのをどうぞ」

「CDや本はともかくブロマイドは流石になぁ……」

「あ……」


 コーニャはCD、本だけでなくブロマイドにも手を伸ばしていた。欲しいのか……。まぁ推しだもんな。落語家のブロマイドに価値はあるのかなぁとも思うが。

よく見たらセバスさんも手に取っている。


「あれ、セバスさんも買われるんですか?」

「……資料用ですが何か?」

「いえ……」


 キッと睨まれたので何も言えなくなってしまった。清算を済ませるとももが会館の入り口まで送ってくれる。


「ホントありがとうね。私が前座でいられるのもあとちょっとだからそれまでにまた来てよ」

「そうだな。考えておく。な、コーニャ」

「はい……」

「セバスさんもね」

「……善処します」


 ももに見送られ会館を離れる俺達。暫く落語の感想を語りながら歩く。こういう時のコーニャは本当に楽しそうだ。


「それでももちゃんの落語の時……、あ……」

「ん、どした?」

「……今はどこに向かっていますか?」

「ああ、とりあえず待ち合わせ場所の学校の方に。コーニャの家はあっちだろう?」

「いえ……その……お送りします」

「へ?」

「だから、上戸くんの家まで……。今日のせめてものお礼に」

「え、いや、いいよ。どちらかと言うと男の俺が送っていかなきゃいけないのに」

「私はセバスちゃんがいるから大丈夫です……。もちろん後でお礼しますが今日はそれ位しかできませんから……。送らせてください」

「え……うーん、まぁ、いいけど」


 使命感にかられた様にグイグイくるコーニャ。こうなったら引かなそうだ。まぁ家の事はいつかは説明しなきゃと思っていたしいい機会かもしれない。


「じゃあお願いできる? こっちの方なんだけど」

「……はい。セバスちゃんも」

「承知しました」


 そうしてコーニャとセバスさんを引き連れて俺の家の方へ向かう。

 俺の家は地域会館から一度学校の方へ向かい反対側。上野駅から徒歩10分ほどの所にあるとある施設の3階にあった。


「ここなんだけど……」

「え……?」


 コーニャがその建物を見て絶句する。

 そう、俺の家は落語家のホームグラウンドである寄席よせの上にある。両親が経営している上野喜雀亭(きじゃくてい)という寄席だ。


 そう、俺は寄席の支配人である席亭せきていの息子だった。

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