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第7話 コーニャお嬢様、楽屋を訪ねる

「セバスさん! セバスさん!」

「セバス……ちゃん……?」


 俺とコーニャは腰を抜かし放心状態のセバスさんに声をかけた。梅歌ばいか師匠の落語を浴びて余程のショックだったらしい。


「はっ……ここは……江戸では……ない……?」


 正気に戻りキョロキョロするセバスさん。落語を聞いてここまで江戸にどっぷり浸かっているとは梅歌師匠の高座の凄まじさよ。セバスさんはこの場の誰よりも影響を受けているのではなかろうか。


 まだ夢見心地なセバスさんを起こして3人で楽屋の方へ向かう。本来なら関係者以外は立ち入り禁止の位置にあるが予めももが話を通してくれていた。

 隣を見ると初めて推しに会えるという事でコーニャは緊張しているようだ。


「あ……あぅ……」

「そんなに緊張するなよ。高座から降りたらただの気さくなおっちゃんだから」

「で……でも……ずっと推しでしたし……あんな凄いのを見て……」


 まぁあれだけの高座を見た後だと誰だって緊張しちゃうよな。心なしかこれまで何にも動じなそうなセバスさんも緊張して見える。


「失礼しまっす」

「おー、九くん。よく来たねぇ。コーニャちゃんもメイドさんもありがとうね」


 楽屋の扉をノックしてから開けると既に私服に着替えているももが迎えてくれた。ひと仕事終えてリラックスした様子だ。


 リラックスと言えば楽屋の奥でポチポチとソシャゲをしているのは誰であろう本日の主役である梅歌師匠だった。


「おおっし、レアドロップゲットー。はっはー、高座頑張った甲斐があったぜー……って九か。見てくれよレア素材出たぜー」

「ははっ、楽屋でソシャゲとは緊張感ないですねぇ」

「いいだろ。俺とももしかいないし何を気を使う必要があるんだよ。まぁ今日は来てくれてありがとうな」


 そう言ってポンポンと俺の肩を叩く梅歌師匠。先程あれだけの高座を見せてくれた名人には思えない。

 高座を降りたらゲーム好きの気さくなおっさん。それが名人である梅歌師匠の素の姿だった。

 全ての落語家が普段も着物を着て古風に生きているわけではない。ソシャゲもする人もいればアイドルが好きな人もいる。にしても梅歌師匠はギャップが激しいけれど。


「お、そこの金髪のお嬢さんは……アルちゃん!」

「……!!?」

「完全にアルちゃんじゃねぇか。おめぇの推しの」

「いやっ、推しとか言うのやめてください!」


 いきなり梅歌師匠にアルちゃんと呼ばれ目をパチクリさせて驚くコーニャ。

 ちなみにアルちゃんとは俺のソシャゲキャラの推しであるアルテミス・ルイーナ。通称アルちゃん。綺麗な金髪で俺の癖どストライクなキャラだ。ソシャゲ仲間である梅歌師匠ももちろんその存在を知っている。


 かと言って何も知らないコーニャの前で暴露しないでほしい。別にアルちゃんとコーニャを同一視なんてしてない……はず。

 コーニャも不安そうにこちらを見てくる。


「……えっと……」

「悪い、アルちゃんは忘れて。師匠、紹介しますね。同じクラスの神宿かんじゅくコーニャ鷹桜たかおさん。後ろはそのお付きのメイドさんでセバスさんです」

「……あ、えと……よろしくお願いします」

「……以後お見知り置きを」


 コーニャが顔を赤らめてお辞儀をし、セバスさんはメガネをクイっと上げて挨拶をした。セバスさんは先程の様子から立ち直った様に見えるがまだ少し緊張感も漂っている。


「リアルお嬢さんかよぉ。ハーフ? しかもメイドさん付きなんて九もやるなぁ。残念だったなぁ、もも」

「ちょっ! やめてよお父さん……師匠!」


 急に話を振られて焦るもも。なんで俺がコーニャを連れているとももが残念なんだ?


「クラスにそんな娘がいるなんてそんな漫画やラノベみたいな話もあるんだなぁ。どうだったいお嬢さん。楽しんでくれたかい?」

「は、はい……えと、その……」

「ん、なんだい?」

「もうすっごく、すっごく良かったです。江戸がそこに見えましたー」

「お、おぅ……」


 感想を求められて梅歌師匠にまでグイッと詰め寄るコーニャ。あら、コーニャの癖が出たか。


「配信でずっと見ていましたけど生で見た落語の息遣いは全然違います。吉原の描写が物凄くてしっかりとイメージできました。特に高尾大夫が出てきた時にはそこに本当に花魁がいるようで。もう師匠キレイ!師匠美しい!それから、それから!」

「ちょっ、コーニャ。落ち着けって」

「え……、あ! す、すいません……興奮してしまって」


 俺に止められて我に返りシュンっとなるコーニャ。余程感動したのだろう。梅歌師匠にありたっけの感想を述べていた。

 梅歌師匠も最初は圧倒されたようだったがすぐニコニコしながらコーニャの感想を聞いているようだった。


「ハハハッ、嬉しいねぇ。そこまで楽しんでくれて。落語を生で見るのは初めてだったのかい? そしたら九と一緒にまた通ってくれよ」

「……! はい……」


 梅歌師匠に言われたコーニャはその日1番の笑顔で答えていた。

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