第45話 コーニャお嬢様、まだ語り足りない
「そういう事なんだけど……」
「発表会ッスか」
「どうかな? コーニャ」
「部活動発表会……」
俺は落語研究会の部室でコーニャとねねちゃんに部活動発表会に関して説明した。生徒会長がコーニャの落語布教への手助けのために提案したという事は伏せて、あくまで部としての活動の一環として。
俺の話を聞いてコーニャは暫し真剣に考えている。
「……やりたいです」
「本当か?」
「はい……落語を布教するまたとない機会です。私の口から……皆さんの前で落語の魅力をお伝えしたいです……」
「じゃあ決まりッスね。もちろんボクも賛成ッスよ」
コーニャの希望とねねちゃんの賛成により部活動発表会への参加が決まった。そうなると次に決めるのはその内容だ。
「時間はどれ位あるッスか?」
「ええと、資料によると日程は来月の15日と16日の2日間、5、6限目のホームルーム時間を利用してやるらしい。参加部活の数にもよるけどひと部活20分から最大30分かな」
「先輩達は去年見に行ったッスか? 参加率どれ位ッスかね?」
「俺は見に行ったよ。参加は自由なんだけど実は……内申点に関係あるらしいからな」
「なるほどー、そしたらみんな参加はしそうッスね」
そう、うちの高校では文化祭なり体育祭なりイベント参加は生徒の自主性に任せている。強制ではない……が、出席は取る。
テストや通知表には見えない点が付いている……らしい。先生から聞いたわけじゃないが。
だからみんなイベントには積極的に参加して盛り上げる。どうせ参加するなら楽しくやった方がいいからだ。
内申点も取れて、楽しいならいい事尽くめ。なのでうちの高校のイベントは大体盛り上がる。
「私も去年見ましたがとても楽しかったです……」
「部活がもう決まってる連中や、部活に入る気がないやつでも見せ物として楽しむんだよ」
「そしたらその中で興味持ってくれる人がいるかもしれないッスね」
「落語研究会に入らなくても……落語を好きになってくれたら」
「そうだな、それが一番の目標だ」
これから3人で相談して発表会の内容をつめていった。まずは資料を元に落語の簡単な歴史や種類などを説明、途中スクリーンで実際の落語の映像を流し、最後にコーニャが落語の魅力を語るという事になった。
「そういう流れで大丈夫か?」
「私がトリですね……。はい、頑張ります!」
「トリか、そうだな。俺とねねちゃんが前座で盛り上げるよ」
「やるッス! 映像はどうしますか?」
「梅歌師匠がいいです……」
「まぁ梅歌師匠なら初心者にもわかりやすいだろうからな。とりあえず映像使っていいか聞いてみるよ」
早速ももにメールをして梅歌師匠に聞いてもらうと快諾を貰えた。なんならオススメの映像をいくつか用意してくれるという事なのでありがたい。
当日はまず俺とねねちゃんで簡単な落語解説、梅歌師匠の落語映像、そして最後にコーニャが落語の魅力を語る……という流れになった。これで少しでも落語に興味を持つ生徒が増えたらコーニャも報われるってもんだ。
「それじゃあ前半の落語解説も決めなきゃッスね。ぶっちゃけボクは古典落語は殆ど知らないッスよ」
「そこは俺がフォローするからさ。資料は作るからそれを読んでもらえれば」
「なるほどッス。やっぱり寄席の席亭の息子さんとなると落語に詳しくなるッスか?」
「まぁ人それぞれだとは思うけど聞く機会は多いからなぁ。散々聞かされたから覚えちゃってるし。落語のネタにしても歴史にしても」
「そういえば前から気になってましたけど先輩は記憶力いいッスよね?」
「そうです……、上戸くんは細かい事をよく覚えてくれています……」
「ま、まぁ……」
そう。俺は人より記憶力がいい。少し……ではなくかなり。
「まぁそれだけ沢山聞かされたって事だよ」
ただそれを説明するのは難しいから、俺は適当な笑顔で誤魔化した。
○
「あ、ボクはそろそろ行かなきゃッス。それじゃあ発表会の事はまた改めて!」
「ああ、じゃあまた明日」
ねねちゃんは用事があるらしくて飛び出していった。俺はどうしようかなと思ってコーニャは見るとなんだかチラチラこちらを見ている。
「どうした、コーニャ?」
「あ、あの……。梅歌師匠の落語、何を流すか決めませんか?」
「発表会のか。でもまだ時間あるし明日以降でもいいんじゃないか?」
「ええと……そうかもしれないんですけど……」
なんだろう。コーニャの歯切れが悪い。どうしてもいま決めなきゃいけない事だろうか。
「いえ……決めるのは今日じゃなくてもいいんです……けど……」
「けど……?」
「最近Vtuberで落語のお話はできているんですけど、ちょっと自分を抑えているというか……思い切り梅歌師匠の事を語りたい……って……」
「あー、そういう……」
そうか、コーニャはVtuberとして落ち着いて落語の話をしていた。でもそれはあくまで人との距離感を上手くとるための練習で、心を許している相手には思い切り語りたいのか。
コーニャがグイグイと来ても引かなかった俺が相手なら思う存分と話せる。それだけ心を許してくれてるという事か。
「いいよ、コーニャ。思い切り話そう。梅歌師匠の落語はどうしようか?」
「あ、ありがとうございます! えーとですね、1番好きなのは『紺屋高尾』なんですが時間的に長いですよね。ですので『子ほめ』とか、あとは皆知ってる『寿限無』をあの名人芸であえてやってもらったやつとか! でも梅歌師匠だったら!」
それからコーニャには思う存分と梅歌師匠について語ってもらった。結局選びきれず、そもそも梅歌師匠のチョイス待ちなので発表会で流す映像は後回しだ。
それでもコーニャが満足そうなので俺も嬉しい。
楽しく話している内に気が付くともう下校時刻になっていた。
そして落語研究会は明日から暫く部活動発表会に向けて活動していく。落語研究会のためにも、コーニャのためにもなんとか成功させたい。




