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無口で清楚なコーニャお嬢様、実は落語の話になるとグイグイくる  作者: 春風亭吉好
俺とコーニャお嬢様との、意外な共通点
5/11

第5話 コーニャお嬢様、ももの落語を聞く

 某区民会館での落語会。多くはお年寄りの方々、他にはもものファンであろうか30代〜40代のおじさん達が10名ほど、そして男子高校生の俺とお嬢様のコーニャとメイドさんのセバスさんというカオスな客席。


 開演して幕が開くとまずは前座ぜんざであるももが高座に上がる。

 寄席よせや落語会ではまず開口一番で前座が落語をする。真打が上がる前に雰囲気を作り客席を温めるためだ。

 そこに名人級の落語や爆笑は求められない。笑いやすい雰囲気になれば御の字だ。


「えー、ご来場誠にありがとうございます。春家はるやももでございます。本日はお父さん……パパ……じゃなかった、師匠の独演会という事で……」


 ももが梅歌ばいか師匠の会で前座に上がる時のみに使う掴みネタだ。周りのお客さん達はクスクス笑っている。

 本来前座は挨拶だけをしてスッと入らなければならないがこういった独演会では多少の掴みネタは許される。

 なんで俺がそんなに落語に詳しいかは……まぁおいおいだ。


「プッ……フフフ……」


 隣の席のコーニャをチラッと見ると前のめりになって口を押さえて笑っている。余程集中しているのだろうもも以外は全く目に入っていないようだ。


小児しょうには白き糸の如しなんて事を言いまして……」


 ももが落語の本題に入った。この入り方は……。


寿限無じゅげむかな」

「子ほめじゃねぇか」


 前の席の落語ファンのおじさん達がネタを予想している。1人目のおじさんが正解。

 落語は本題に入る前にお決まりのフリがある。子供が出てくるネタならさっきの『小児は糸の如し……』から入るなど。

 寿限無でも子ほめでも使うフリだがももは子ほめというネタを持っていない。なのでこれから寿限無をやるのだろう。


『どうも隠居さんこんちはー』

『おお、はっちぁんかい。どうしたい?』

『いや、実はね。あっしのところにガキが産まれたんですけどね』

『自分の子供捕まえてガキってやつがあるかい』


 やはりもものネタは『寿限無』だった。

 『寿限無』は落語の中でも前座がよくかけるいわゆる前座噺のど定番だ。教科書にも載っている位なので馴染みが深い。


 『寿限無』といえば寿限無寿限無から始まる長い名前の言い立てがキモだ。

 小さい頃にももとこの長い名前をどっちが先に覚えて上手く言えるか競争したっけ。


 結果は俺の圧勝。俺は記憶力がいいのだ。

 それでも今やももはプロの落語家。俺はただの高校生。幼い頃の競争なんて関係ない。立派なもんだ。


『おっはよー。じゅげむ、じゅげむ、

五劫ごこうのすりきれ、

海砂利水魚の、

水行末・雲来末・風来末、

食う寝るところに住むところ、

やぶらこうじのぶらこうじ、

パイポ・パイポ・パイポのシューリンガン、

シューリンガンのグーリンダイ、

グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの、

長久命の長助ちゃーん。学校行こうー』

『ごめんなさいねぇ。まだうちのじゅげむ、じゅげむ、

五劫のすりきれ、

海砂利水魚の、

水行末・雲来末・風来末、

食う寝るところに住むところ、

やぶらこうじのぶらこうじ、

パイポ・パイポ・パイポのシューリンガン、

シューリンガンのグーリンダイ、

グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの、

長久命の長助はまだ寝てるのよ』


「プッ……」


 『寿限無』の見せ場である長い名前を繰り返す場面で隣のコーニャが堪らず吹き出していた。お嬢様らしく決して大きな口を開けずに上品に笑うコーニャ。

 チラッと後ろのセバスさんを見てみると。


「……」


 無表情でメガネをクイっと上げていた。ま、まぁ付き添いできただけだしな。

 会場のお客さん達も声は出さずともニコニコ笑っている。

 ももの見た目や声色からくる明るさでどうしたって雰囲気は良くなる。後に上がる師匠はやりやすいだろう。


 俺としては……という感想は後で本人に伝えてやるか。


『あーん、あんまり名前が長いからコブが引っ込んじゃった』


 ももが『寿限無』のオチのセリフを言っておじぎをした。会場からは満遍ない拍手がおきる。

 コーニャも控えめにパチパチと手を叩いていた。


「どうだった? 初めての落語は?」

「は、はい……。ももちゃん……可愛くて……。ネットで見るよりずっと迫力が……」

「そっか。それなら次の梅歌師匠はとんでもないぞ。よーく目に焼き付けておけよ」

「……!! は、はい……」


 そうして少し緊張した表情で前を向くコーニャ。

 ももが座布団をひっくり返し高座から降りる。CDからの出囃子の音と共に高座に上がってきたのは本日のお目当て。真打である梅歌師匠だった。


 俺も久しぶりに正面から見る梅歌師匠の高座に少し緊張してきた。

 梅歌師匠が座布団に正座しお辞儀をする。顔を上げて客席を見回す。


「えー……」


 その一言でそこに江戸の風が吹いた。

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