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無口で清楚なコーニャお嬢様、実は落語の話になるとグイグイくる  作者: 春風亭吉好
俺とコーニャお嬢様との、意外な共通点
4/11

第4話 コーニャお嬢様、はじめての落語会

 俺こと上戸九うえとひさしと、お嬢様であるコーニャと、そしてそのお供のメイドさんであるセバスちゃんという謎の組み合わせで落語会へ向かう事になった。


 道中でコーニャは落語会への期待を膨らませつつも緊張しているようだ。元々無口ではあるのだが緊張している様子を表情から感じる。


 本当なら軽く話を振って和ませたいところではあるが少し後ろを歩くセバスちゃんの視線が怖くて俺も何も話せないでいる。


 平々凡々な男子高校生、緊張しているお嬢様、殺気を放っているメイドさんというそんな異様な3人組を待ち行く人達がチラチラ眺めていた。


「おっ、着いた。ここだな」

「……こちらが……」


 そんなこんなで落語会の会場へ辿り着いた俺達。

 多少時代がかった地域会館。落語会はこういった地域の施設で公演される事も多い。

 お嬢様であるコーニャはこんな施設は入った事がないのだろう。感動しているのか驚いているのか、目を少し見開いて会館を見つめている。


「あ、そうだ。チケットは2枚分しかないんだけどセバスちゃんの分はどうしようか」

「私は当日券を自分でお支払いします。コーニャ様が見える位置ならば立ち見でも結構です。……それと貴方にちゃん付けで呼ばれる筋合いはありません」

「あ、すいません。じゃあセバスちゃんさん」

「セバスさん!」

「せ、セバスさん!」


 またセバスちゃん……さんに睨まれてしまった。完全に嫌われているな。

 3人で会館の2階へ上がり会場である小ホールへ向かう。50人ほど入れば一杯のこじんまりとしたホールだ。

 ホールの扉の外に備え付けられた受付には俺にチケットをくれた桃子……もとい、春家はるやももがいた。


「よっ!」

「あ、九くん。来てくれたんだね。お友だ……」


 ももは俺から視線をズラすと絶句していた。そりゃそうだろう。きっと俺の友達の男子高校生が来ると思っていたはず。

 それが連れてきたのは見慣れないお嬢様とメイドさん。どちらに驚いたのだろうか。もしかしたら両方かもしれない。


「あ……えと……はじめまして……」

「お初にお目にかかります」


 ももを目の前に緊張した様子で挨拶するコーニャと、あいも変わらずメガネをクイっと上げて挨拶をするセバスさん。


「ふーん……」


 そんな2人をももはいぶかしんだ様子で眺めると、俺に耳打ちしてきた。


「九くんも隅におけないねぇ。どっちが彼女?」

「ち! 違うぞ! と、友達……なのかな。隣の席で、たまたま落語を見たいって言ってたコーニャお嬢様と、そのお供のメイドさんだよ!」


 説明は間違っていないはず。ももはそれから二マーっと笑うと俺の肩をバシバシ叩いてきた。


「あーはっはっ。そりゃそうか。朴念仁の九くんにこんな素敵なお嬢様とメイドさん……?の彼女ができるわけないと思ったよ」

「朴念仁は余計だっての」


 何故か嬉しそうに笑うもも。昔から表情のコロコロ変わるやつだ。ひとしきり笑ったももは緊張しているのかモジモジしているコーニャに向き直る。


「私は春家もも。この九くんとは幼馴染なんだ。今日は来てくれてありがとうね。落語が好きなんだ?」

「あ……えと……動画で見て……ももちゃんも……」

「え?私も見てくれたの?ありがとうー。嬉しい」

「あ……」


 ももは喜んでコーニャの手を取りブンブンと振る。お気に入りの落語家に手を触れられドギマギしているコーニャと、そんな様子をギロッと睨むセバスさん、そして何も気にせず手を握り続けるもも。

 まだチケットの精算をしていないお客さんがパラパラ並び始めたので要件を済ませなくては。


「あ、もも。チケットは俺とコーニャの2枚分は貰ったやつで入ろうと思うけど、メイドさんの分の当日券ってあるかな?」

「あ、ごめーん。席は完売しちゃって。立ち見で良ければ当日料金で入ってもらえるけど」

「そうなんだ。セバスさん、どうです?」

「ええ、私は立ち見で構いません。コーニャ様を見守るだけですので」


 メガネをクイっと上げて答えるセバスさん。そこは嘘でも落語を聞くと言って欲しかったが。


「じゃあ九くんとコーニャちゃん……だっけ? はチケットに書いてある席に。メイドさんは申し訳ないけど1番後ろで立って見ててね。それじゃあ入り口はあっちだから。あ、後ろの方どうぞー」


 俺の持ったチケット2枚をもぎり、セバスさんの当日料金を受け取ると後ろのお客さんの応対をするもも。

 案内された入り口から入り俺とコーニャは指定席へ。セバスさんは最後列に立っている。

 後からパラパラ入ってきたお客さんはみな最後列のセバスさんにギョッとしている。なんか……すいません……。


 やがて開演の5分前には客席が一杯になっていた。ふと隣を見るといつも無口なコーニャが更に押し黙っていた。


「……」

「コーニャ、緊張しているのか?」

「あ……えと……はい……。プロの落語を生で見るのは初めてで……」

「まぁ落語は気楽に見るものだからさ。怖い顔せずに笑って、な?」

「は、はい……。上戸くんは……」

「ん?」

「落語……結構聞いてるの……?」

「俺はまぁ……幼馴染が落語ってのもあるし……」

「あるし……?」

「うちが……」


 ブーーーー


 言いかけた所でブザーが鳴った。開演の合図だ。CDから出囃子がかかりステージの幕が開く。

 先程まで受付にいたももが舞台袖からスタスタスタと歩いてきて高座に正座してお辞儀をする。


「えー、一席のお付き合いを願いますが」


 これからコーニャにとっては生で初めて見る、俺にとっては()()()()()久しぶりに見る落語会が始まる。

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