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第3話 コーニャお嬢様、待ち合わせをする

 俺こと上戸九うえとひさしとコーニャお嬢様……もといコーニャはひょんな事から一緒に落語会へ行く約束をした。昨日までは夢にも思っていなかった事だ。

 何より無口で清楚なコーニャがあんなに嬉しそうに話すところを見る事ができるだなんて。


「それじゃあ日曜日はどこで待ち合わせをしようか?」

「あ……えっと……こういう時はどうしたらいいのでしょう。私お友達とお出かけって殆どした事なくて……」


 さっきまでは笑顔で話していたコーニャだがまたモジモジしだした。

 落語以外の話だと今まで通りなのかもしれない。


「んー、コーニャが行きやすいところでいいよ」

「え……じゃあ校門の前で……」

「え、ここの? ま、まぁコーニャがそれでいいなら……」


 まさか女の子との待ち合わせを学校の校門前でする事になるとは。コーニャはこの学校のすぐ近くに住んでいるからその方が楽かもしれない。まぁ日曜日なら殆ど生徒もいないし揶揄からかわれる事もないか。


「それじゃあ落語会は午後3時からだから1時半に待ち合わせしようか。会場は学校から歩いて20分位の所だし」

「は、はい……。私お友達とお出かけは初めてです」

「そっか……って、俺が友達?」

「え……ダメですか? 落語のお話できる人なんて他にいなくて……」


 上目遣いで見つめてくるコーニャ。推しの金髪美少女にこんな目で見られて頭がクラクラしそうだ。


「光栄です……。コーニャお嬢様」

「コーニャでいいです……」


 俺が照れ隠しにイケボでお嬢様呼びすると、コーニャはまた照れてボソッと返した。


 改めて日曜日に約束を取り付けコーニャを校門まで送る。そこにはお迎えとしてメガネをかけたメイドさんが待ち構えていた。俺はそのメイドさんに何故かキッと睨まれる。まぁ見ず知らずの男がお嬢様を連れて歩いていたら警戒もするか。


「それじゃあ、また日曜日に」

「はい! ……あの……」

「ん?」

「落語の事、内緒に……。あんまり多くの人にお話する自信が……なくて……」

「あ、うん。そんな言いふらすつもりもないけれど」

「でも、沢山落語の話ができたのは本当に楽しかった……。また話したい……」

「ま、まぁ、俺で良ければいつでも」

「それじゃあ……」


 そう言って少しだけ口角を上げた微笑を浮かべてメイドさんと共に去るコーニャ。

 さっきの落語の話を嬉しそうに語る姿も可愛いけれど、ああいうクールな微笑こそコーニャの本来のイメージだ。

 今日はコーニャの色々な面を見る事ができた。そしてまさかのデートの約束……。


 いや、勘違いをしちゃいけない。あくまでコーニャはみんなのアイドル。俺の推し。

恋愛感情を持つなんて御法度だ。

 あくまで共通の趣味を持っただけ。俺にとって落語は趣味とは違うが……。


 だからコーニャが楽しめるようにアテンドに徹しよう。みんなのアイドル、推しへの接待だ。

 それに俺は()()()に操を立てている。俺が金髪美少女を好きになったきっかけの、いつ会えるかもしれない彼女に……。



「こんにちは……」

「うっす……」


 日曜日。コーニャとの約束通り俺は午後1時半に学校の正門へ来た。

 普段制服姿しか見る事のないコーニャの私服姿。清楚な白いワンピースでいかにもお嬢様といった格好だ。

 俺はあまり気合い入れすぎてもと思いいつものパーカーとジーンズで来た。まぁ行き先も落語会だし問題ないだろう。


「あ……セバスちゃん」

「はっ……」


 昨日コーニャを迎えに来たメガネのメイドさんが今日もコーニャの後ろに控えていた。コーニャに呼ばれスッと前に出る。


「私はコーニャ様の専属メイド兼ボディーガードのセバスと申します。本日は行き帰りの道中に危険がないように離れたところから護衛させていただきます。ご了承くださいませ」

「は、はぁ……」


 昨日俺をキッと睨んだのは気のせいだったのか涼しい顔で挨拶をしてくるメイドのセバスさん。

 セバスチャンは執事のイメージだけど、女性のメイドさんでセバスちゃんなのね。本名だろうか。


「ごめんなさい……お父様が絶対連れて行けって……」

「あ、いや、全然いいんだけど」


 まぁ大金持ちのお嬢様が出歩くのに護衛の一つや二つは付くのだろう。

 護衛と言ったら黒服のグラサンの男性SPを思い描くが女性であるセバスさんが兼任するようだ。パッと見は同年代の普通の女性に見えるセバスさんだけど格闘技の経験でもないあるのだろうか。


「上戸様ですね。失礼……」

「ん……?」


 セバスさんは俺の方に近付き耳元に口を近づけてきた。


「コーニャ様に指一本でも触れてみろ。お前を……殺す……」

「ひぃっ……!!」


 セバスさんは小声ではあるが地獄の底から出した怨念の様な声で囁き、何食わぬ顔でスッと俺から離れた。

 怖くて目を合わせられなかったがきっと見たら殺意だけで死んでいたかもしれない。

 セバスさんからしたら大切なお嬢様に近付くどこの馬の骨とも知れない男が俺だ。


「???」


 その様子に目をパチクリさせているコーニャ。きっと何も知らない内に両親やセバスさんにこの様に守られてきたのだろう。


 やはりコーニャと俺は住む世界が違うのだ。改めて変な気は起こさない様にと身を引き締める。


「えと……行きましょう……」

「あ、うん、そうだね。行こうか」


 そうして俺は隣にコーニャと、少し離れて歩くセバスさんと共に落語会の会場へ移動する。

 平々凡々な男子高校生と大金持ちのお嬢様とメイドさんという3人組は間違いなく落語会の客席では史上初だろう。


 せめてコーニャに楽しんでもらおう。それだけを考えて歩き始めた。

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