第41話 コーニャお嬢様、お母様が帰ってくる
「お疲れ様、もも」
「ももちゃん……お疲れ様です……」
「ありがとー2人とも。疲れたよー」
ももの落語勉強会が終わり片付けていたテーブルが元に戻された。これから希望者はそのまま会場に残りももを交えた懇親会が始まる。
落語だけ見て帰ったお客さんもいたが半分近くはそれぞれのテーブルにつき残っていた。
店員さんから追加のドリンクが配られ懇親会が始まると、ももはまず俺とコーニャのテーブルにやってきてくれた。
「そうだ、Vtuberの宣伝してくれてありがとうな」
「いえいえー、今日のお客さんが見てくれるといいね」
「はい……皆さん落語好きそうですし……」
「そうだねー。この会に来てくれるお客さんはマニアってほどでもなく、ライトに落語を好きな人達だから。コーニャさんの配信も楽しんでくれると思うよ。あ、もちろん私も見るからね。コメントするから!」
「あ……ありがとう……」
ももの言葉に照れながらお礼を言うコーニャ。最初はファン側だったコーニャがこうしてももと自然に絡めている。俺の推しと幼馴染が仲良くしてくれるのは嬉しいもんだ。
「そうだ、今日の『紺屋高尾』どうだった?」
「んー、ガチ感想?」
「う……お手柔らかに」
「いや、初めてで退屈させずに聞かせられるだけで充分じゃないか? そりゃ梅歌師匠とか上を目指したらキリないけどさ。九蔵の必死な想いとか伝わってきたし」
俺と同じ意見だからか隣でコーニャもコクコクと頷いている。
「女性がこういう廓噺をやると生っぽくてかえって良くないって聞くけど、ももには不思議とそういうの感じなかったしな」
「それ……私が女っぽくないからって事?」
「いや、そういうんじゃなくて!」
「う、そ。正直な意見ありがとうね」
そう言って俺の鼻を指でツンと突くもも。なんだかこっちが照れ臭い。ふと横のコーニャを見ると……何故か顔を赤くしてそっぽを向かれた。何故だ。
「ももちゃーん、こっちのテーブルにもおいでー」
「あ、お客さんが呼んでる。ごめん、あっち行くね。2人はどうする?」
「俺達は帰るよ。未成年が居酒屋で長居するのもな」
「そっか、ありがとうね。コーニャさんも。配信楽しみにしてるね」
「ももちゃんも……お疲れ様です……」
ももが他のお客さんのテーブルへ行ったのを見送って俺とコーニャは店を出る。
17時に落語会が始まって今は19時半。そろそろご飯時だがコーニャを誘ってもいいものか……。
「あのさ……」
「あ、あの、上戸くん……」
俺が話を切り出そうとしたらそれと重なる様にコーニャが声をかけてきた。心なしか緊張している気がする。
「あ、あの……今からセバスちゃんが迎えに来るんですけど……あ、今日は車で……」
「そっか、夜だもんな。気を付けて帰らないとな」
「そ、それでですね……」
てっきりさようならで終わるかと思ったらまだ話を続けた。なんだ……?
「遅いのでセバスちゃんと食事をして帰る予定だったんですが……上戸くんもよかったらご一緒に……」
「え……?」
時間的にこれから帰って食事よりは外食という事なのだろう。コーニャが初めて俺を食事に誘ってくれた。セバスさんも一緒だけど……。
コーニャが行く様なお店ってやっぱり庶民が行けない様な高級レストランなのだろうか。でも無駄に浪費する様な感じじゃないし意外と普通のお店なのかも。俺はどうしようか色々と考えてしまった。
「あ、あの……どうでしょうか?」
「あ、うん、行く。行くよ。行って良ければ」
「もちろんです……!」
コーニャが不安気に見つめてきたので安心させるため俺は行く事にした。そうだ、セバスさんもいるし変に意識する必要はない。
それからコーニャがセバスさんに連絡した様で、暫く待っていると近くに高級そうな車が停まった。運転席にはセバスさん。そして後ろに誰が乗っている……?
車に近付くと後部座席の窓が開いた。そこにいたのは綺麗な金髪の女性。
「Bonne soirée」
「えっと、こ、こんばんは?」
女性が英語ではない言葉で声をかけてきた。ニュアンス的に挨拶っぽいのでとっさに返した。多分だけどフランス語だ。金髪でフランス語と言えば……。
「お母様……」
「やっぱり!」
「帰ってらしたのですね……」
「C'est le petit ami dont tu parles toujours ?」
「か、彼氏……ではないです……」
「彼氏って、なんの話をしてるんだ!?」
コーニャのお母さんはフランス語で話しているので話の全容がわからないが、俺が彼氏と勘違いされてるって事か。否定されたのは悲しいけど確かに彼氏ではない。
「Je me demande si j'ai interrompu leur rendez-vous ?」
「もう! お母様、日本語で話して!」
コーニャが珍しく少し大きな声を出した。まぁ親子の間だから自然体なのだろう。って日本語で……?
「あら、ゴメンナサイ。からかっちゃって。アナタがウエトくん?」
「は、はい」
「いつもコーニャちゃんがオセワになってるみたいネ。ワタシはコーニャのmaman。神宿ソーニャ。以後ヨロシュウ」
少し片言で怪しい日本語で挨拶してくれたコーニャのお母さん。
初めて会ったその人はコーニャの様な長く綺麗な金髪、そして高校生の娘がいるとは思えないほど若々しい女性だった。




