第39話 コーニャお嬢様、小さな落語勉強会へ
コーニャのVtuber配信は思いの外うまくいった。チャンネル登録者は5名。全く宣伝していないからそんなものだ。
あとはこれから本格的な配信をする為に宣伝をしたい。別に売れっ子Vtuberになりたいわけではないが、コーニャが楽しく落語の話をできる様にある程度の視聴者は欲しかった。
「それで相談なんだけどさ」
「はいはい、コーニャさんの事ね」
「え、なんでわかったんだ?」
「九くん最近そればっかだもん。ちょっぴり羨ましいよ……」
「何言ってるんだ。ももが困っていたっていつでも助けてやるぞ」
「……ッ。そういうとこ!」
「は?」
俺はいい宣伝方法はないかと幼馴染であり、落語家の前座であるももを呼び出していた。何故かちょっとプリプリしているけれど。
とりあえず俺は部活動の一環としてコーニャがVtuber配信を始めた事を説明した。
「なるほどねぇ……。コーニャさんが好きな事を落ち着いて話す練習も兼ねてVtuberねぇ。面白いこと考えるね」
「ねねちゃんって後輩のアイデアだけどな。何百人、何千人とか見る様な大規模にはしたくないけどさ。俺達身内とか、たまたま検索した人しか見てない様なのもな。何かいい方法ないかな」
「つまり視聴者が多くならない、けど少なすぎない様な宣伝をしたいわけね……あ!」
「どうした?」
「コレコレ、見てよ」
ももが何か閃いた様でカバンからチラシを取り出して俺に見せてきた。
「春家もも落語勉強会……?」
「そ、私が毎月ネタおろしをさせてもらってる勉強会」
ネタおろしというのはその日初めてかける落語の事を言う。
そして勉強会というのは何も教科書やノートで勉強する事じゃない。ネタおろしのネタだったり、久しぶりのネタなどを挑戦する落語会を勉強会と言う事がある。
「勉強会始めたんだ?」
「二ツ目に向けてネタを増やしたくてね。師匠からはあくまで小さい小屋で、常連さんだけにならいいって許可もらったの」
「あー、前座は師匠の許可がないと勉強会もできないんだよな。それはそうとこれとコーニャのVtuberがどう関係が……?」
「そうそう、あまり宣伝できず、でも少しは見てもらいたいっていうのが私の勉強会に似てるなと思って。私の会は会場が師匠の知り合いが経営する居酒屋でさ。SNSで宣伝はできないからそこの常連さんにチラシを配ってるだけでやらせてもらってるの。それでも毎回20人はお客さん来るんだよ」
確かに宣伝しすぎず、でも固定客は欲しいという意味では似たようなシチュエーションだ。ももの勉強会のチラシを見るとちょうど次の日曜日の開催となっている。
「もうすぐじゃん。あ、もしかしてここで宣伝を?」
「そー、私の勉強会でそのVtuberの宣伝チラシなりを配っていいよ。SNSに書いたりする様な人達じゃないし。その中で興味もってくれた人が見てくれるかもしれないよ」
「おお、それいいアイデアだな!」
「ほんと? じゃあチラシを配るついでに見に来てくれる?」
「行く行く!」
「はい、じゃあ九くんとコーニャさんお2人予約ね。お1人様1,000円とワンドリンクになります。ちょうど予約があと2人で埋まったんだよね」
「なんだよー、客引きかよ」
「宣伝協力したいってのは本当だよ。じゃあ日曜日待ってるからね」
それから少し雑談してももと別れた。俺は一応コーニャに事の顛末をメールで説明し予定を確認した。
『本当にありがたいです。あとももちゃんの勉強会も楽しみです。行かせていただきます』
コーニャも予定は空いている様で2人でももの勉強会へ行く事になった。
○○○
日曜日。ねねちゃんに作ってもらったVtuber宣伝のチラシを持ってももの勉強会へやってきた。
チラシは『毎週月曜日と水曜日の20:00配信』というスケジュールと配信URLを載せた簡素な物だ。配信スケジュールは無理のない範囲でみんなで相談して決めた。
勉強会の会場は『やなぎ』という居酒屋だ。梅歌師匠の知り合いが経営しているらしい。
居酒屋というとおじさん達が集まる様な感じかと心配もしたが半分カフェみたいなオシャレな雰囲気だ。これならコーニャを連れても安心だ。
「結構オシャレなお店だな」
「き、緊張します……」
「まぁ思ったより入りやすそうなお店で良かったよ」
「よっ、お二人さん。早いねぇ」
「なんだ、ももが受付してるのか」
「そ、私が受付して、私が高座に上がる。使わせてもらってるお店の人に迷惑かけられないからね」
「なるほどな。じゃあチケット代と……はい、チラシ。よろしく頼むよ」
「うん、他のお客さん達に配っておくよ」
「ももちゃん……。頑張って……」
「ありがとうコーニャさん。じゃあカウンターで飲み物受け取ってね」
チラシをももに渡しカウンターでドリンクを受け取る。未成年だからもちろんソフトドリンクだ。
こういった居酒屋やカフェの会ではお店の売り上げの為にドリンク付きが殆どだ。
「いらっしゃいませー。あ、いつもありがとうございます!」
受付の方からももの声が聞こえる。お客さんがパラパラ入ってきたが普段の寄席より若いお客さんが多い。もものファンの人達だろうか。
「落語のVtuberだってー」
「面白そうだね。今度見てみようか」
チラシを見た女性のお客さん達が話してるのが聞こえる。
「う、嬉しいです……」
「見てもらえるといいな。お、そろそろ始まる時間かな」
居酒屋のテーブルを組み合わせて作った簡易的な高座。テーブルを端に寄せて椅子を並べた20席程の客席が埋まった。高座と客席の距離は寄席よりもはるかに近い。
これから春家ももの小さな勉強会が始まる。




