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無口で清楚なコーニャお嬢様、実は落語の話になるとグイグイくる  作者: 春風亭吉好
俺はコーニャお嬢様に、Vtuber体験をさせる
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第36話 コーニャお嬢様、部屋に招く

 台東区の某所、俺の家から学校を挟んで反対方向。そこにコーニャの住んでいる神宿《かんじゅく》邸はある。


「うっわ……でっか……」

「お屋敷ッスね……」


 俺とねねちゃんが見上げるはその神宿邸。漫画でよくある様な玄関からお屋敷まで何時間も歩く……なんてそこまで広くはないがちょっとした学校位の大きさはありそうだった。

 歴史を感じさせる佇まいでまさにお屋敷という言葉が当てはまる。


「フフーン、どうだ神宿邸は。ここはあくまで本邸でほかに別邸が多数あるんだぞ!」

「セバスちゃん……!」

「はっ、すいませんお嬢様!」


 何故か自慢気に話すセバスさんを珍しく諌めるコーニャ。確かにセバスさんが自慢する事じゃないよな。


「じゃあ2人とも……いらっしゃい」

「ああ、お邪魔するよ」

「お邪魔しまーッス!」


 西洋風の扉を開き中へ入る。すると中にはメイドさんや執事がズラーっと出迎え……という事はなく誰もいなかった。

 確かにシャンデリアは飾られていかにもなお屋敷なのだが、どこか人気《ひとけ》がなくしんみりしている。


「あれ、意外と人がいないっていうか」

「もっといっぱい人がいるかと思ったッス」

「うん……前はね……」

「大旦那様……コーニャお嬢様のお祖父様がご健在の頃は執事やメイドも沢山いた。だが今の旦那様の代からは方針が変わってな。当時の執事、メイドの殆どは社員として本社に勤めている。この神宿邸を任されているメイドは私だけだ」

「セバスさんが1人で?」

「ここにいるのは殆ど私だけだから……」


 コーニャが少し寂しそうにそう言った。コーニャは無表情の様でいて意外と感情を読み取りやすい。


「あ……お父様とお母様とは仲良しなの……お仕事忙しくて家にあまりいないだけで……」

「神宿グループは日本最大の企業グループだからな。旦那様、奥様は社長、副社長として全国を飛び回っているのだ。なので家でお1人になる嬢様の身の回りのお世話を私に一任されている」

「そうなのか……」


 立ち入って聞いていい事か迷っていると、それを察したのかコーニャとセバスさんが教えてくれた。

 これまではぼんやりとしか捉えてなかったけれど、神宿グループを支えるとなるとコーニャの両親はとんでもない忙しさなのだろう。


「あ、でも……最近は落語研究会のお陰で楽しいよ……」

「そうか……それは良かった」


 コーニャが笑顔でそう言った。その顔を見る事ができただけでも落語研究会を作った甲斐があった。


「ここが私の部屋……」

「し、失礼しまーす」

「先輩、なんか緊張してないッスか?」

「い、いや、別にー」


 本当は緊張している。女子の部屋に入るのは子供の頃にももの部屋へ行った以来だ。

 部屋は広いがお嬢様のイメージにあるような天井付きベットはなく、少し大きめのベッドに勉強机、クッションやぬいぐるみ等いかにも女の子らしい部屋ではある。

 しかしその中でも異彩を放っているのが……。


「おおー、落語家ッスね」

「あ、梅歌師匠のポスター。ほかにも色んな師匠のポスターとか昔の番組表が貼ってあるな」

「お祖父様が好きで……貰ったのもあるの……」

「確かに今では手に入らない物もあるな」


 部屋の壁には現役の梅歌師匠だけではなく、昭和の名人のポスターなどが貼ってある。

 ほかに落語のCDやビデオなどがラックに整頓されていた。お祖父さんに貰った物やコーニャが自分で集めたものがあるんだろう。


「お嬢様、お茶をお持ちしました」

「セバスちゃん、ありがとう……」


 お茶を淹れて持ってきたセバスさんがコーニャの部屋のローテブルにお茶を並べる。上等な紅茶なのだろうか。紅茶とか滅多に飲まないけれど香りだけでいい物というのがわかる。配信を始める前にお茶を飲みながら方針を相談する事にした。


「あ、そうだ。まずはVtuberの名前を決めないッスか?」

「そうだなぁ、コーニャまんまってわけにもいかないしな」

「あ……あの……」

「なんだ、コーニャ?」

「名前は……せっかくなので3人の名前を合わせたのがいいかなって……」

「俺たち3人のって事? コーニャがいいならそれでいいけど、何かアイディアある?」

「実はずっと考えていて……えっと……その……」


 コーニャは恥ずかしいのか暫く赤面してモジモジしていたが、意を決して口を開いた。


「ナイン亭……ネーニャってどうでしょう……?」

「ナイン亭ネーニャ?」

「あー、なるほどッス。上戸先輩の下の名前、九《ひさし》からナイン。ボクのねねからネ。そこにコーニャ先輩を合わせたッスね!?」

「そう……」


 コーニャが恥ずかしそうに頷く。3人の名前を入れるっていうのはVtuberは自分だけじゃなくて、落語研究会3人のものって思ってくれてるんだな。その気持ちが嬉しい。


「いい! いいなコーニャ! そうしようか!」

「ありがとう……」

「よーし、名前が決まったら早速設定していきましょうッス。パソコンはあれッスか? この間作ったデータをコピーしますんで」


 コーニャのパソコンを立ち上げてねねちゃんがVtuberのアバターデータをコピーしていく。


 さぁアバターが出来上がり名前も決まった。ついに配信本番だ。

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