第32話 生徒会長の北袋天、Vtuberを知る
「ぶいちゅーばー?」
ねねちゃんからの提案で落語を語るVtuber配信をする事になった。一応落語研究会の活動の一環としての事なので生徒会室へ確認に来たのだ。
生徒会長でありコーニャの幼馴染である北袋天へ確認するとコーニャと同じ様な反応が返ってきた。やっぱりお嬢様はVtuberとか見ないか。
「えっと、YouTubeとかは見る?」
「ええ、たまには」
「ほら、そこで配信しているYouTuberっているじゃない?」
「ゆーちゅーばー?」
「そこからか……。普段どんなの見てるんだよ」
「どんなのって……英会話やフランス語のレッスン動画や、寝る前のストレッチ動画とかですけど……。他にあるんですの……?」
「ああ……」
なるほど、確かにYouTubeは本人が検索した動画がオススメとして芋蔓式に表示される。もしかしたら生徒会長の家の方で何か制限をかけていて、それに本人が気付いていないだけのかもしれない。
俺は生徒会長にもわかるようにYouTuber、そしてVtuberに関して説明した。そして生徒会長に理解しやすいように英会話レッスン系のVtuberを検索して見せてあげた。
『それではいいですか〜? Repeat after me……Don't watch too much YouTube.これはYouTubeを見過ぎちゃいけませんよって意味ですね〜。それではこの応用で……』
メガネをかけた英語の先生Vtuberである英キャシー。探せばどんなジャンルのVtuberもいるもんだ。
初めてのVtuberを食い入る様にして見ている生徒会長。
「こ、これがぶいちゅーばー。発音もいいですわね」
「そりゃちゃんと技術がないとこういう専門チャンネルはできないだろうからね」
「それで……これをコーニャさんが……?」
「いや、もちろん学生として個人情報の取り扱いには気を付けるし、深夜配信もしない。コーニャに楽しく落語の話をさせたいだけなんだけど……ダメかな?」
「そんなもの……そんなもの……」
生徒会長がワナワナ震えている。この反応は反対されてしまうのだろうか……。
「見たいに決まってるじゃありませんかー!」
「へ?」
「見たい、見たい、見たいですわ。コーニャさんが楽しそうにお話しているところを、我が家で見られるんですのね? 是非やってくださいませ!」
「ああ、良かった。反対されるかと」
「私をなんだと思ってますの。あなたの事はもうそれなりに信用しています。あなたが付いているなら変な事にはならないでしょう?」
「はは、信用してもらえて嬉しいよ。ちゃんと学生の本分を逸脱しないよう気をつけるよ」
「そうしてください。ああ、コーニャさんの配信……」
ウットリしている生徒会長。別にコーニャが顔出しして配信するわけではないのだが……。
まぁそれは関係ないんだろう。コーニャが楽しく話をする場があるだけで嬉しいんだ。それだけコーニャが好きなんだろう。もっと素直になればいいのに。
「じゃあ問題ないかな?」
「ええ。ただし、毎回配信をチェックさせていただきます。問題がありそうでしたらすぐに連絡しますからね」
「見てくれる分にはむしろ心強いよ。それじゃあこれで……」
「お待ちなさい。来たからにはいつものレッスンをお願いします」
「ああ……」
以前に生徒会長から頼まれてから落語の基礎知識を教えている。生徒会長がいつかコーニャと落語に関して対等に語り合いたいというのだ。
プライドの高い生徒会長は中途半端な状態でコーニャと話をしたくはないんだろう。
幼少期にコーニャを突っぱねて以来拗れてしまった2人の関係。それでもコーニャが好きな生徒会長はいまコーニャが好きな落語の知識を得て会話をしようとしている。そんな事を聞いたら協力しないわけにいかないだろう。
「今日は何を聞きたい?」
「禁演落語というのがあると聞きました。どういったものを言うのですか?」
「ああ、それは……」
こうやって生徒会長が知りたい落語に関する質問に答えていく。俺だって寄席の席亭の息子ってだけで落語マニアではない。
それでも人より少しは落語に関して知っているからできる範囲で教えてあげている。
今ならインターネットで調べればわかる事が多いけれど、生徒会長はこうして生の人間の言葉から知識を得る事を大事にしているみたいだ。
こうして30分ほど生徒会長の質問に答えてから俺は落語研究会の部室へ戻った。
「ただいまー」
「どうだったッスか?」
「おお、問題ないって。その代わり毎回配信を見てチェックするってさ」
「天ちゃん……ありがとう……」
コーニャが生徒会長の事を想い嬉しそうだ。もうちょっとしたら2人も対等に話せるかもしれない。
「それじゃあ許可は得たところで……まずはどうしたらいいかな?」
「フッフーン、とりあえずアバターを作るッス!」
ねねちゃんがカバンからノートパソコンを取り出してそう言った。用意のいい事だ。
こうしてVtuber配信の第一歩としてアバターを作る事になった。




