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無口で清楚なコーニャお嬢様、実は落語の話になるとグイグイくる  作者: 春風亭吉好
俺はコーニャお嬢様に、寄席体験をさせたい
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第30話 コーニャお嬢様、チャーハンを食べる

「それでそれで、ももちゃんのお菊さんが……」


 クーー


 俺の部屋でコーニャと2人前座勉強会の感想を話しているとどちらともなくお腹が鳴った。

 そういえば前座勉強会が終わったのが11時。そして今は12時とちょうどお昼時だ。会話に夢中で昼食の事をすっかり忘れていた。


「お腹空きました……」

「ハハハッ、俺も。簡単なもので良ければ俺が作ろうか?」

「え?」


 コーニャがキョトンとした顔をしている。そんな変な事を言っただろうか。


「上戸くん……料理できるんですか……?」

「え、ああ。まぁ両親とも毎日寄席で働いてて、自分の分くらいは作れたらって覚えたんだけど……」

「……高校生なのに?」

「いや、まぁ、人によるかもしれないけど高校生でも料理できるやついるんじゃないかな。コーニャは?」

「私は……セバスちゃんが作ってくれますし……お手伝いも絶対にさせてくれなくて……」

「なるほど……」


 確かにお嬢様であるコーニャに料理をさせる事はないかもしれない。セバスさんだけでなくシェフも何人もいるのだろうか。


「尊敬です……」

「い、いや、簡単なのしか作れないけどさ。じゃあチャチャっと作ってくるよ。ゆっくりしてて」

「あ、あの……」

「ん?」

「作るところ……見ていいですか?」

「え? ま、まぁいいけど……」


 落語の話をしている時以外は無表情なコーニャだが、僅かに尊敬の眼差しで俺を見つめてくる。

 キッチンで料理をする俺の工程をジーッと観察しているのはなんだかむず痒い。

 まぁ料理をしているところを見るのは滅多にないんだろう。コーニャが楽しいなら見ていてもらおう。


「ほら、できたよ。チャーハン」

「……! す、凄いです……」

「いやいや、チャチャっと炒めただけだからさ。まぁ食べてくれよ。一応食べられる味とは思うけど」

「は、はい……ハムッ……」


 コーニャがスプーンで俺の作ったチャーハンを掬い口へ運ぶ。反応が気になって俺の手は進まない。

 今更だがお嬢様にこんな物を食べさせて良かったのだろうか。普段はセバスさんや一流シェフの豪華料理を食べているだろうに。


「お、美味しい……」

「ホントか!? いや、まぁメイドのセバスさんの料理と比べたら全然だろうけど」

「そんな事ありません……セバスちゃんの料理も確かに美味しいですけど……」

「けど……?」

「上戸くんのは……優しい味……」

「そうか。なんか嬉しいなー、ハハハッ、ハ……」

「……」


 コーニャは言ってからなんだかモジモジしだした。俺も言われて照れ臭くなって無言の間ができてしまう。

 なんだか妙な空気で今更ながら部屋に2人きりなのを思い出す。


「え、えっと、食べながらでもまた前座勉強会の話でもしようか!」

「……は、はい。そしたら……」


 空気を変えるため俺は話を切り替え、そこからは食べながらまた前座勉強会の話で盛り上がった。やっぱり落語の話をする時のコーニャは本当に楽しそうだ。



「今日はありがとうございました……」

「いや、コーニャが楽しんでくれたなら何よりだよ」


 セバスさんが迎えに来る時間になったというので部屋を出て寄席の前で待つ。   

 元々セバスさんには前座勉強会が終わってからみんなで話をするかもしれないから、2時間後に迎えに来てほしいと言っていたそうだ。


「コーニャ様お迎えにあがりました」

「セバスちゃん……ありがとう……」


 メイド姿のセバスさんがやってきた。寄席の前でメイドさんは非常に目立つ。外国人観光客なんかは写真を撮っているがセバスさん本人はどこ吹く風だ。


「おや、コーニャ様。上戸様だけですか? 他の部員や顧問の先生は?」

「2人は前座勉強会が終わって帰ったの……」

「は? そうしたら上戸様と2人で?」

「うん……。上戸くんのお部屋でお話してた……」

「部屋で!? は、はぁー!?」

「ちょっ、コーニャ……」


 やましい事は何もないし、あった事をそのまま報告しただけだがやはりセバスさんの反応が怖かった。

 セバスさんはギロリと俺を睨むと手招きする。コーニャと少し離れたところで詰問される形になった。


「上戸様……まさか部屋でお2人で?」

「いや、流れで、たまたまそうなっただけで!」

「流れで、たまたまお嬢様を部屋に誘いますか!?」

「何もしてません! 落語の話をして、チャーハン食べただけで!」

「何もしてないなんて当たり前です。もし指一本触れていようものなら殺しますよ!」

「は、はい!」

「お嬢様は純粋なのです。あなたを信用している様なので何の疑いもなく着いて行ったようですが……。もしその信用を裏切る事があったら……」

「こ、殺す?」

「バラバラにします」

「バ、バラバラ!?」


 セバスさんは真剣な目でそう言う。本気かもしれない。この人を怒らせないようにこれからはちゃんとしよう。


「セバスちゃん……大丈夫?」

「あ、いえ。上戸様と大事なお話をしていただけで」

「そー、別にバラバラとかないし!」

「バラバラ……?」


 コーニャが不審に思って近付いてきたので誤魔化そうとしたら変な事を言ってしまった。そうだ、こんな純粋な子の信用を裏切る事は絶対にしてはいけない。絶対にだ。


「まぁ今日はコーニャ様が満足された様なので放免とします。落語研究会ができてから本当に楽しそうですし」

「ええ、コーニャに楽しんでもらう為に作りましたから」

「そこに関しては感謝しております。それではコーニャ様、参りましょう」

「うん、セバスちゃん。上戸くん、今日はありがとう……」

「ああ、また月曜日にな」


 セバスさんをお供に帰るコーニャの背中を見送る。

 こうしてコーニャを寄席に慣れさせる為の前座勉強会は大成功に終わった。



 ピロン♪


 その日の夜。俺が部屋にいるとコーニャから一通のメールが届いた。


『上戸くん、今日は本当にありがとうございました。本当に楽しかったですし、次は普通の寄席も行ってみようと思います。その時はまたご一緒に。

 P.S.チャーハン美味しかったです』


 そうだ、前座勉強会を楽しんで終わりじゃない。次は普通の寄席に連れて行かなくちゃ。

 もも達のお陰で今日も素晴らしかったが、本当の寄席をまた楽しんでもらいたい。

 コーニャも寄席へのハードルが下がって前向きになってくれた様で何よりだ。


 ピロン♪


「ん? またメール……ねねちゃん?」


『先輩、部活動の一環としてVtuberとか興味ないッスか?」


「は、Vtuber? どういう事だ?」


 ねねちゃんからの突然のメール。Vtuberと落語がどの様に繋がるのだろうか?

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