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無口で清楚なコーニャお嬢様、実は落語の話になるとグイグイくる  作者: 春風亭吉好
俺はコーニャお嬢様に、寄席体験をさせたい
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第25話 前座勉強会その1、まめ太『まんじゅう怖い』

「ま、まぁとりあえず入ってくれよ。チケットは持って来たよな。それを受付でもぎってもらってくれ」

「はい……あ、その前に……」


 コーニャは喜雀亭きじゃくていに向かってパンパンと手を叩き頭を下げた。神社仏閣じゃないんだから。

 師匠方の中には験を担いで楽屋に入る前に同じ様な事をする人がいるらしいが、客側でそんな事をするのは聞いた事ない。


「九くん、アレって?」

「言っただろコーニャは寄席を妙に神格化しててさ……」

「あー、こういう事。でもいい心がけだと思うよ」


 コーニャの様子を見たももが小声で聞いてきた。まぁ落語家からしたら寄席を敬ってもらうのは悪い気はしないかもだが。


「チケットはこちらにお出しくださーい」


 そよ風が番をしている寄席の受付、いわゆるモギリでチケットを切ってもらう。こうする事で無料のチケットでも擬似的に寄席を体験した気分になってほしいという試みだ。ちなみにももの発案。


「そしたら僕は楽屋へ行きますので。ぼっちゃん達、楽しんでくださいね」

「ありがとう。楽しみにしているよ」

「ははは、お手柔らかに」



 本来の寄席であればいつお客さんが入ってくるかわからないのでずっと人がいる。だがこの前座勉強会の客は俺達だけなので受付のそよ風はお役御免だ。その名の通りそよ風の如く爽やかに楽屋へ戻って行った。


「私も楽屋へ戻るよ。コーニャさんから何をリクエストされるかも楽しみだなー」

「はい……。ももちゃんも頑張って……」

「ありがとうねー」


 ももはコーニャに手を振り楽屋へ戻って行った。俺達も席へつくことにする。準備は手伝ったが俺もここからは客席で楽しませてもらう。


「……」

「コーニャ、緊張してるのか?」

「は、はい。これが寄席……。神々の聖域……」

「だからそんな構える事ないって。大衆演芸なんだから気軽に見てほしいんだよ」

「そ、そうですね……」


 落語への憧れが強いからこそ寄席に構えてしまっているコーニャ。今日の体験で少しでもほぐれてもらえたらいいな。


 寄席には300ほどの席がある。最前列だとお互い緊急すると思ったので俺達は前から5列目の真ん中辺りに座った。

 俺が右端ですぐ左にコーニャ、その左にねねちゃん、左端に小須先生だ。


 チャンチャンチャンララチャンチャンチャン♪


「あ、始まるみたいッスよ!」


 出囃子のCDが流れて幕が開く。前座勉強会最初の演者は三楽亭さんらくていまめ太だ。まめ太が舞台袖から高座に敷いてある座布団に座りお辞儀をする。


「コーニャ」

「はい……」


 今回の前座勉強会は事前の取り決めでリクエスト制だ。予め演者の持ちネタから3つを聞いておき、その場でコーニャがホワイトボードに書いて掲げる。それを見た演者がそのネタをやるというものだ。


 昨日の夜にももからのメールで来ていたまめ太の3つのネタは『子ほめ』『まんじゅう怖い』『転失気てんしき』だ。


『えー、本日はよろしくお願いします。三楽亭まめ太です』


「……」


 まめ太が高座で挨拶をしたところでコーニャがホワイトボードを掲げる。そこには3つの中から選んだ演目が書いてあった。


『あー、はい、そうですね、えーと、十人寄れば気は十色といろなんて事を言いまして……』


 コーニャの掲げたホワイトボードには『まんじゅう怖い』と書かれていた。それを見たまめ太が一瞬セリフが詰まる。やっぱりとっさにはやりづらいか。事前の取り組みとはいえ大変な事をさせちゃったな。


『俺は、俺は……まんじゅうが怖いんだよ〜』

『まんじゅう? まんじゅうって食べるまんじゅうが怖いの?』

『あああ、やめてくれよー。俺はまんじゅうって聞くだけでガタガタ震えてくるんだよ〜』


 まめ太はそのふくよかな身体を使い大袈裟に演じていてそれが独自のおかしみになっている。

 ふと横を見ると小須先生は意外と見守るような視線で、ねねちゃんは古典落語が珍しいのかケラケラ笑っている。

 コーニャは……真剣な目で食い入るように見ている。審査員じゃないんだから。おっと、俺も落語に集中しなきゃ。


『うわー、まんじゅうだー。怖いよー。ハムハム……。まんじゅうー、怖いー。ハムハム……』


 このネタはまんじゅうが本当は好きなのに怖いと偽った男が、友達のイタズラで枕元に差し入れられたまんじゅうを怖い怖いと言いながら食べるという話だ。

 まめ太は食べる事が元々好きなのか美味しそうに食べている。隣のコーニャからもようやくクスクスと笑い声が漏れ聞こえてきた。


『お前が本当に怖いものはなんだ?』

『この後は熱ーいお茶が一杯怖い』


 オチの一言を言ってまめ太がお辞儀をする。出囃子がかかりまめ太が高座から下がる。


「コーニャ、どうだった?」

「はい……この話は絵本では知っていたんですが、見るのは初めてで……」

「それであんな食い入る様になってたのか」

「ええ……聞き逃しちゃいけないと……」

「だけど前座の落語でいきなりあんな風に聞いてたら本番の寄席の時に疲れちゃうぞ。もっと気楽に聞こう」

「!……そうですね……」


 そう、今日はコーニャの寄席へのハードルを下げる為の企画だ。寄席はもっと気楽に聞いてほしい。


 チャンチャンチャンララチャンチャンチャン♪


 次の出囃子に合わせて高座に上がって来たのは扇家おうぎやそよ風だ。その端正な容姿からどんな落語をするのだろうか。

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