第21話 春家もも、幼馴染の相談に乗る
落語研究会を発足した後の休日。昼間は秋葉原ですったもんだがあった。
その後の夕方に俺は上野の某ファミレスで待ち合わせをしていた。相手は幼馴染であり、今は落語家の前座をしている春家ももだった。
「ごめーん、九くん。お待たせー」
「おお、もも。呼び出して悪かったな」
「ぜんぜーん。今日は昼席だけだったし」
「あ、じゃあ寄席から直接……じゃないのか」
いつも寄席へ行く時のももはスポーティーなパンツルックなはず。
楽屋では着物の前座だけれど、楽屋の外でも師匠達の鞄持ちなど動きやすい恰好が好まれる。だから寄席の行き帰りはパンツルックだったはずだ。
それが今のももは派手ではないが可愛らしい服にスカートを履いている。
「どうしたんだ、そんな可愛い格好して」
「か、可愛いって……。そう?」
「まぁ見たまんま言っただけだけど」
「……九くんはすぐそういう事を言う。着替えてきて良かった」
俺が率直な感想を言っただけなのに妙に照れている。楽屋であまり女の子扱いされないのだろうか。今時女の子に可愛いと言う事がセクハラにも繋がるみたいだから控えているのかもしれない。俺も気を付けないと。
まぁ幼馴染である俺とももの間にそこまでの気遣いはいらないだろうが。
おっと本題に入らないと。
「まぁそれはともかく」
「ともかくって! もうちょっと私を褒めてもいいんだよ?」
「いや、とりあえず今日呼び出して来てもらったわけだけどさ」
「そう、それ。急に当日に呼び出すからビックリしたよ。まぁ空いてたから良かったけど」
「ももにしか相談できない事なんだよ」
「え、私に……なんだろ?」
相談を持ちかけただけなのに髪の毛の先をクルクル弄りモジモジするもも。なんだろうこの反応。
「いや、あのコーニャの事なんだけどさ」
「へ? コーニャさん……あー、ふーん……」
そして急に真顔になるもも。なんだろうさっきから。
幼馴染だし、ももにしか相談できない事だから信頼して呼び出したのだ。とにかく本題を切り出そう。
「コーニャに頼まれて落語研究会を作ったんだけどさ」
「落語研究会? ああ、九くんの学校ないんだもんね。というか高校であるところは少ないか」
「まぁ高校生で落語好きって珍しいからな。大学にはよくあるみたいだけど」
「それで? もしかして九くん落語をやる気になった?」
「いや、やる方じゃなくて見て研究して、語り合うの専門というか」
「なーんだ、九くんが落語するわけじゃないんだ。ざんねーん」
「ははは」
最初は変な反応をしていたももともようやく普通の会話になった。
ももは昔から俺に落語をさせたがる。まぁ自分がやっている落語を幼馴染とも共有したいのだろうか。
だが俺はもう落語をするつもりはない。
「それで、私に相談って?」
「そう、落語研究会の活動として寄席へコーニャ達を連れて行きたいと思うんだけどさ」
「行けばいいじゃない。九くんなんか自宅が寄席なんだし」
「そうなんだけど、コーニャが妙に寄席を神格化してて……」
「はぁ?」
そうなのだ。落語が好き過ぎるあまりコーニャは尊敬する落語家の集う寄席を神域とし、その席亭の息子である俺をあろうことか神と崇めた事もある。
そんなコーニャをいきなり真打が何人も出てくる寄席へ連れて行ったら刺激が強いかもしれない。とはいえ落語研究会としては寄席は避けては通れない。なのでそれをももに相談したかったのだ。
「なるほどねー。変な事で悩んでるのね。九くんはコーニャさんの為になんでもやってあげたい訳だ」
「なんだよ、変な言い方するなよ。せっかく落語を通じて仲良くなったから助けてあげたいだろ。友達なんだから」
「そうだねー、九くんは昔から友達の面倒見がいいもんねー。私も面倒見てもらいたいなー」
今度はニヤニヤしながら弄ってくるもも。小さい頃から知ってる腹を割って話せる間柄だけど、こういう時はなんかやり辛い。
「わかった、1ついいアイディアを授けてしんぜよう」
「ホントか? ありがとう! もも神様」
「フォッフォッフォッ。まぁ、その代わり……」
「その代わり?」
「私が困った時は助けてね♪」
ウインクをして言うもも。幼馴染が困っていたら助けるのは当たり前だ。
「もちろんだよ、お前が困ってたら地の果てでも駆けつけるよ」
「い、いやそこまで重い事じゃないけどさ」
「それでアイディアって言うのは?」
「うん、寄席で前座勉強会っていうのはどうかな?」
「前座勉強会……?」




