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無口で清楚なコーニャお嬢様、実は落語の話になるとグイグイくる  作者: 春風亭吉好
俺とコーニャお嬢様、オチケンを作ろうとする
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幕間その4 メイドのセバスさん、実は 後編

 セバスさんに連れられて秋葉原の某メイド喫茶へ入った。本職のメイドさんとメイド喫茶というのは不思議な気分だ。


「どうぞ、お好きな物を頼んでください。私はブレンドを」

「どうも。あ、じゃあオレンジジュースください」

「かしこまりました。ご主人様、お嬢様」


 注文を受けて戻っていくメイド喫茶のメイドさん。そして俺の目の前には本職のメイドさんであるセバスさんがいる。


「それで、セバスさん……」

「はい、知られたからにはあらぬ誤解があってはいけないので説明します」


 なんか最近もこんなシチュエーションあったな。俺は偶然女性の秘密を知ってしまうスキル持ちなのか。


「以前コーニャ様と一緒に落語会へ行った時……」

「ああ、梅歌ばいか師匠の」


 そう、コーニャが初めて生の落語会を観た時にセバスさんも付き添いで来た。もちろんこの人も初めての落語会だろう。


「あの時に初めて落語を観て感服いたしました。今まで興味もなかった世界でしたが、その至芸に脳を刺激され、そこにはめくるめく江戸の世界が広がり……」

「ええ、梅歌師匠は名人ですからね」

「それからいくつかの落語を聞く様になり、落語家の配信チャンネルを見て、落語家同士の掛け合いも楽しむ様になり……」

「なるほど、落語だけでなく落語家を好きになったと」


 確かに落語をやるだけが落語家の仕事じゃない。テレビでの大喜利おおぎりの番組や、最近は配信番組などで落語家同士のトークなどそんな掛け合いを楽しむファンも多数いる。


「そんな時に出会ってしまったのですよ……『オレカタ』に!」

「な、なるほど……」


 『オレカタ』とは『オレの語りをキミにだけ聞かせたい』の略称である。

 つまりセバスさんは落語家同士の掛け合いにハマる内に、何故か落語家が主役のBL的アニメに手を出してしまったと。


「流れはわかりますが、いきなり『オレカタ』にいくとは段階飛んでますね。結構マニア向けの作品だと思いますけど。アニメとか好きだったんですか?」

「い、いえ! アニメなんてそんな! 別にこれまで『テニスの堕天使様』とか、『サムライナイツ』とか、『キャプテン颯』とかそんなアニメとか全く知りません!」

「あ……そうですか……」


 いまセバスさんが自爆して列挙した作品は漏れなくその筋のお姉様方が熱狂したものばかり。しかも結構昔の作品もある。俺より少し歳上くらいと思っていたけれど一体何歳なのだろうか。


「と、とにかく!」

「は、はい」

「今日の事はくれぐれもご内密に。コーニャ様にも知られていませんので。できたら忘れてくれますように」

「は、はぁ、善処します」

「善処でなく必ずです! 何やらコーニャ様と落語の部活を作られた様で。本来であればコーニャ様に近付く男は排除しようと思っていましたが……」

「そんな事を考えてたんですか?」

「コーニャ様は神宿かんじゅくグループの宝ですから。ですが貴方がもし今日の事を内密にしてくださるなら、部活の範囲でコーニャ様に近付く事は見逃しますので」


 セバスさんがこれまでコーニャと一緒にいる俺を殺意の混じった目で見ていたのはそういう事だったのか。そして今日の事を内緒にするなら見逃してくれると言う。

 特に言いふらすつもりもなかったし関係が緩和するならこちらにとっても願ったりだ。


「わかりました。そんな事でよければ」

「ありがとうございます。それでは……」


 そうしてスクッと立ち上がりメイド喫茶の出口へ向かおうとしたセバスさんだが、一度立ち止まりこちらへ振り返る。


「あ、そうそう……」

「はい?」

「もし今日の事を話したら……殺しますよ!」

「ヒィッ!」


 そしてこれまで以上の殺意を込めて睨まれた。結局関係性は変わらないではないか。


「言いません! 誰にも言いませんから!」

「お願いします。それでは」

「さ、さようなら……あ、伝票」


 セバスさんはお会計をせずに立ち去った。俺は年齢不詳のメイドさんの分の会計を払いメイド喫茶を出る。


 人の秘密を知ってしまう事は決していい事ではないと改めて思い知る1日だった。

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