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無口で清楚なコーニャお嬢様、実は落語の話になるとグイグイくる  作者: 春風亭吉好
俺とコーニャお嬢様、オチケンを作ろうとする
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幕間その2 北袋天、かく想いし

 私は北袋(そら)。かの北袋グループ社長令嬢。


 北袋グループはあらゆるジャンルにおいてトップクラスの実績を持ち、金融でもNo.2、観光でもNo.2、飲食でもNo.2と全てにおいて2番手の実績……。そう全てNo.2なのです。No.1であり目の上のたんこぶであるのは神宿かんじゅくグループ。


 ですから名門私立の幼稚園に入る時には、お父様から神宿グループの娘とは絶対に仲良くするなと口をすっぱくして言われておりました。


 神宿グループを一方的にライバル視するお父様から聞かされて、同い年で幼稚園に入る神宿グループの娘はきっと嫌な子なのだと、お父様の言う通り仲良くするものかと思っていました。その時までは……。


 そして幼稚園の入園式の日。


「はい、皆さん。1人ずつお名前をお友達に教えてくださいね。ではコーニャちゃん。言えるかな?」

「はい……あの……神宿……コーニャ・鷹桜たかおです……」


 そこに天使がいましたわ。


 眩いばかりの黄金の髪、小鳥のさえずりの様なウィスパーボイス、碧く美しい瞳。絵本で見た様な天使かと思いました。

 なので私の中の仲良くするもんかという気持ちは一瞬で消え去りました。そうして私は吸い込まれる様にコーニャさんに近付きました。


「コーニャちゃん、好き!」

「……!?」


 初めて会ったにも関わらず好きと言ってしまいコーニャさんをビックリさせてしまいました。これが私達の出会い。私は一目見た時からコーニャさんが大好きで、ずっとファンだったのです。今で言う推しですね。


 コーニャさんは今の様に基本的に大人しく無口でした。でもいてくれるだけでその場に花が咲いた様な気持ちになるので私はいつも一緒にいました。


 ですがそんなコーニャさんの意外な一面に気が付いたのは他のお友達と一緒にお話している時。


「コーニャちゃんももっとお話しようよー」

「あ……うん……」

「コーニャちゃん大人しいー。天ちゃんもそう思うよねー?」

「コーニャちゃんはそれでいいの! ね!」

「うん……ありがとう、天ちゃん」

「ふーん、ねーねー、天ちゃんは絵本だと何が好きー?」

「私? 私は白雪姫かしら」

「え!」


 私が白雪姫と言ったその時、コーニャさんはピクッと反応し声をあげました。そして……。


「ねーねーねー、天ちゃん白雪姫が好きなのー? 私も大好き! お祖父様に絵本を読んでもらってからずっと好きなの。 白雪姫は可愛いし、それだけじゃなくて小人さんも大好き。天ちゃんは小人さん好きー?」

「え、ええと、その」

「あ、やっぱり王子様もいいよねー。王子様にチューしてもらって起きるってステキ! それからそれから……」


 そう、コーニャさんは普段は無口で大人しい。けれども自分の好きな事になるとグイグイまくし立てる様に話す子なのでした。


「ねーねー、天ちゃん。かぐや姫ってステキねー。私はね私はね」

「かぐや姫は私も好きー」

「ほんとー? それでねそれでね」


 コーニャさんは絵本や漫画など物語に思いを馳せるのが好きな様でした。毎日にように私たち友達に好きな物語の話をするようになりました。

 私はコーニャさんとお話できるだけで楽しかったのでずっと耳を傾けていました。ですが……。


「みんな、とりかへばや物語って知ってるー?」

「知らなーい」

「お祖父様に昨日読んでいただいたの。面白いのよー。えっとね、えっとね」

「コーニャちゃんずっと1人で喋ってるー。つまんなーい。私あっちで遊んでくる」

「あ……」


 コーニャさんは話に夢中になると周りが見えなくなり、それに付いていけなくなった友達が少しずつ離れていきました。


「天ちゃん……」

「うん、私は聞かせてほしいな。どんなお話?」

「聞いてくれるの? えっとね、とりかへばや物語っていうのはねー」

「うんうん」


 気が付くとコーニャさんの周りには私1人だけ。

 だから私はより熱心にコーニャさんのお話に耳を傾ける事になり、コーニャさんは私を見つけてはより楽しそうにお話するようになりました。ですが……。


「天ちゃん天ちゃん! 今日はね、アーサー王物語のお話聞いてー」

「えっと、アーサー王?」

「そうそう、昨日お祖父様に教えてもらったの。イギリスのお話なのよー。えっとね、アーサー王っていうのはね」

「うん……」


 毎日仕入れてくる物語を一方的に聞かされる様になりました。コーニャさんとお話するのは好きでした。でもたまには自分の話も聞いて欲しい。子供ながらにそんなストレスが溜まっていく。

 そして他の離れていった子達の様に私も……。


「天ちゃん! えっとね今日はね!」

「コーニャちゃんうるさい!」

「え……」

「いっつも自分のお話ばっかり。たまには私もお話したい!」

「あ……」


 私は感情を爆発させてしまいコーニャさんを怒鳴りつけてしまいました。ずっと溜め込んでいた分ほかの子達以上にコーニャさんを傷付けてしまったかもしれません。

 もう少し大人だったらコーニャさんを上手く導く事ができたかもしれません。

 ただ幼い自分にはそんな言い方しかできなかった。私に突き放されたコーニャさんの表情は今でも忘れられません。


「天ちゃん……」

「コーニャちゃん……フンッ!」


 一度突っぱねてしまったのを素直に謝れずコーニャさんとは距離ができてしまって……。


 それからコーニャさんは人に好きな事を話さなくなり、無口で大人しいだけの子になってしまいました。


 けれど決して暗くなるわけではなく、無口でも微笑んで華やかなのは変わりませんでした。


「あ……天ちゃん……」

「コーニャさん……こんにちは。それじゃあ」

「あ……」


 小学校へ上がり環境が変わっても私はコーニャさんとは口を聞けずせいぜい挨拶を交わすくらい。

 本当はもっとお話をしたいのに。


 それでも私は陰ながらコーニャさんを見守る事にしました。

 見ているとコーニャさんは無口ではありつつもその可憐さからクラスでは人気者になっていました。しかしながら前の様に好きな事を話す相手はいないようで少し周りと距離があるように感じました。


 そのまま中学校まで上がっても関係は変わらず、そしてコーニャさんはお祖父様の作られた高校へ編入されたので私も追いかけ……一緒に編入しました。

 また孤立しないか心配でしたから。そんなに心配なら普通に話しかければいいんですけどね。


「あ……天ちゃん……同じ高校だね……」

「コーニャさん。天じゃなくてソラです!」

「あ……ごめん……」


 高校に入って少しは会話する様になれましたがそれでも素直になれず突っぱねてしまう。拗れてしまったキッカケを掴めずにいました。


「それで、部活って何の部活かしら?」

「落語……なんだけど……」

「はぁ? コーニャさんと、貴方が、落語?」


 転機が訪れたのはコーニャさんと見知らぬ冴えない男が部活を作ろうとした事。

いつの間にか落語というものを好きになっていたコーニャさん。

 これなら……。今まで落語なんてものに興味は全くなかったけれども、コーニャさんがそこまで好きなものの知識を得ればまた話すキッカケができるかもしれない。


「生徒会長、来たぞー」

「いらっしゃいませ。それではまたご教授くださいませ」

「ああ、えっと、今日は何から話そうか……」


 そして今はコーニャさんと部活を作った男から落語に関して手解きを受けている。コーニャさんには内緒で。

 いつかキチンと知識を得て、コーニャさんと対等にお話するために。


 私の推し、今でも変わらない天使と仲良くするために。

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