第19話 生徒会長の北袋天、実は
落語研究会の発足のために必要な最低ラインの3名が揃い、俺は手続きの為に生徒会室へ向かった。
何やら独り言が聞こえたその生徒会室の扉を開けると……。
「ああ、コーニャさん、コーニャさん。今日も可愛かったですわー。そのどんな黄金より綺麗な金髪! 澄んだ瞳! 天使の様な声! 私も漆黒の堕天使なんて言われてますが本当の天使はコーニャさんよ……。ああ、なんで私は素直になれないのかしら。一言、一言、昔みたいに仲良くしたいと言えれば……。私のバカバカ。こんなにコーニャさんが愛おしいのに……。コーニャさん、コーニャさん……」
コーニャの写真にブツブツ語りかけて頬擦りしている生徒会長がそこにいた。なんだこの光景は……。
ちょうど背を向けているのでこちらには気付いていないようだ。見なかった事にして出て行った方が良さそうだ。俺がソーッと後ろ足に歩き出すと。
ドンッ
「あ!」
うっかり生徒会室の机に足をぶつけてしまった。
「だ、誰ですの? って貴方は……! ま、まさか今の見てましたの!?」
「え、えと、まぁ……」
「な、なな、ななな……」
俺が見ていた事を報告すると生徒会長は茹でダコの様に赤面しワナワナと震え始めた。
「いや、コーニャには言わないから!」
「あ、あ、当たり前ですわ! フゥーッ、こうなったら……」
生徒会長は何故か生徒会室の端に立てかけてあった竹刀に手をかける。そういえば生徒会長は剣道部の副部長でもあり有段者だった。その竹刀を上段に構える生徒会長。
「って、何をするつもり?」
「貴方の記憶を抹消します。もしくはその存在そのものを!」
「や、やめてー!」
生徒会長が狭い生徒会室で竹刀を振り回して俺に向かってくる。剣道有段者の生徒会長相手では平々凡々な男子の俺は全く敵わない。ましてやこちらは丸腰だ。
「か、勘弁してくれー」
「五月蝿い! 覚悟!」
余程見られたくないものを見られたのか生徒会長は血眼にして追いかけてくる。俺はあっという間に生徒会室の隅へ追いやられた。
「さぁ、追い詰めましたわ」
「いや、あの、本気?」
「貴方は見てはいけないものを見てしまったのよ。さぁ、覚悟ー」
生徒会長が竹刀を振り下ろす。この人は本気だ。死にはしないだろうがそうとう痛い。この状況を打破する為には……。
「コーニャの写真をあげるからー!」
「は!?」
生徒会長が振り下ろした竹刀をピタリと止めた。適当に口をついた言葉だが助かった……。
「コーニャさんの写真って……。ま、まさか、いやらしい写真じゃ!?」
「そ、そんなの持ってないよ! そうじゃなくて俺だったらクラスで隣の席だし、同じ落語研究会だし、写真なら頼めば撮らせてくれそうかなって」
それは間違いないだろう。隠し撮りはいけないが、俺から頼めばコーニャは写真を撮るくらい快諾してくれそうだ。
「約束ですわよ!」
「は、はい!」
そう言うと生徒会長は竹刀をスッと下ろした。助かった……。
「生徒会長はコーニャと仲良くしたいんですね」
「……誰にも言いませんか?」
「言わないですよ! もう竹刀で追いかけ回されるのはゴメンだし」
「わかりました。一応信じます。見られたからには中途半端な状態よりちゃんと知ってもらいたいですし」
「はぁ。それで?」
「ええ、私とコーニャさんは幼稚園の頃から一緒でした」
「みたいですね」
そこまでの付き合いはなかなか珍しい。俺からしたらももみたいなもんか。でも俺とももは学校は違っている。それ以外で会う事は多いけれど。
「幼稚園の頃のコーニャさんはそれはそれは天使の様な可愛さで。まさにこの世の至宝!」
「まぁコーニャの小さい頃が可愛いってのは容易に想像できますけど」
天使の様なって言ったら今もそうだもんな。今でもあだ名が『金髪の大天使様』だし。
「よっぽど好きなんですね」
「す、好きって……当たり前でしょう。あんな美しい子を好きにならないわけありません。いえ、恋愛とかそういう意味ではないですわよ。なんというか……俗っぽく言うと推しってやつでしょうか」
「わかります」
「は!? まさか貴方?」
「いえ、変な意味じゃなくて普通にファン的な」
素直に答えたらギロっと睨まれた。まぁ俺がコーニャを推してるのと同じ、いやそれ以上に長年推している、1のファンが生徒会長という事か。
「それで、なんで今みたいな関係に」
「それが……あの子ったら好きな事になるとグイグイ夢中になって話すでしょう。それはいいんですけど一方的で、たまには私の話も聞いてもらいたいなと……コーニャちゃん自分の話ばっかりでうるさい、疲れたと突っぱねてしまい……」
「ああ……それで気まずくなっちゃったと」
まぁある程度大人になった今なら友達との距離感を測れるかもしれないが、幼稚園児ならそう言ってしまうのも無理はない。特にコーニャは好きな事になると周りが見えなくなるからな。
「それからあの子は自分の好きな事を相手に話すのを控えてしまい、それどころか人と少しずつ距離を取る様になってしまいました。私も意地を張って謝る事もできずに、でもあの子の事は心配だから陰ながらずっと見守ってきて。この学校にまで入ったのに……」
「え? まさかコーニャを追っかけるためにこの学校に来たの?」
「そうですわよ。あの子が寂しい思いをしていないか、イジメられたりしていないか見張っていないと! もちろんコーニャさんはあの美貌から人気こそあれイジメられるだなんて事はなかった。でもどこか人とは距離を取っていて。私も素直になれずについ突っぱねたりしている内に……」
「ああ、拗れちゃったんだな。本当は仲良くしたいのに」
本当にコーニャが好きで、まさか学校を追いかけてくる程とは。でもその思いは本物でバカにできない。なんとか間を取り持ってやりたいな。
「あの、俺が仲を取り持つ事はないかな?」
「え……いいんですの……?」
「ああ、なんでもできるわけじゃないけど、コーニャとの仲を取り持つくらいなら」
「あ、ありがとうございます。……そうしましたら」
生徒会長は一瞬躊躇いつつも切り出した。




