第16話 コーニャお嬢様、ポスターを作る
落語研究会の顧問と部室が決まり、後は部員を集めるだけとなった。そんなに多くはいらない。最低1人でもいい。
ただ誰でもいいというわけではない。コーニャが気持ちよく落語の話ができるような、少しでも好きな人が来てくれたらいい。
その宣伝の為のポスター作り。コーニャにイラストを描いてもらったがなんとも前衛的な画風だった。
「あ、あのさ、絵もいいんだけどよく考えたら字だけのポスターも落語っぽくていいかなって」
「……そうですか?」
「そ、そう。コーニャ字は得意? 落語研究会って書いてみてよ」
「は、はい……」
コーニャは筆箱から筆ペンを取り出すとサラサラっと落語研究会と書いた。前衛的な絵とは違い、それは素人目に見ても見事な達筆だった。
「う、上手い。字とか習ってたの?」
「子供の頃から書道を……。でも独学ですが絵の方が好きで……」
「う、うん。絵もいいけどとりあえずは字でいいかなー」
「?」
キョトンとするコーニャだがこのまま押し通そう。
そうして放課後に部室でポスター作り。画用紙にコーニャの達筆で『落語研究会 部員募集中』と書いてもらい、俺がそれっぽく煽り文句を書いた。
「希望者は上戸か神宿まで……と。こんな感じでいいな」
「はい……あの、上戸くん」
「ん?」
「……私がお願いした事ですけど……なんでこんなに手伝ってくれるんですか?」
「なんでって……乗り掛かった船だしな。落語の事で手伝えるのは俺くらいだし。それに」
「それに?」
元々コーニャは推しだった。
アニメやゲームでも金髪のお嬢様キャラが好きで、それが二次元から飛び出してきたと思うようなコーニャ。
恋愛というよりは憧れ。そう、アイドルだ。おの憧れの推しが困ってるなら何でもするさ……とは言えない。
「友達……だろ」
「……! ですね」
コーニャがクスッと微笑んだ。その麗しさに胸を掴まれる。だが邪な気持ちは持っちゃいけない。あくまでお友達であり推しなのだ。
何より俺はあの子に操を立てている。コーニャはあくまで推しなのだ。俺は心にそう言い聞かせた。
「よし、じゃあポスターを貼りにいくか」
「はい……」
俺とコーニャはポスターを何枚かコピーし、廊下にあるいくつかの掲示スペースに貼った。
学園内SNSで宣伝という手もあるが集まりすぎても困る。部員は数人でいいのだ。
ポスターを見て反応してくれる落語好きが来てくれる事を期待していた。
翌日、午前中の授業が終わり昼休み。購買へ行こうと廊下を歩いていると悪友の甚太に声をかけられた。
「なーなー、九」
「ん? なんだ?」
「お前とコーニャお嬢様って付き合ってるの?」
「は、はぁ?」
廊下で甚太がサラッと言い放った。周りには聞いている人はいなかったようだけれども。
「だって最近よく一緒にいるところ見るしさ。あとポスター見たぜ。なんか部活作ったんだろ?」
「いや、まぁ共通の趣味があるだけというか、ただの友達だよ」
「ふーん、まぁ流石に高嶺の花か」
「そうだよ。付き合うなんて恐れ多い」
それはそう。俺とコーニャは落語という共通点はあれど身分が違う。本来なら同じ学校にもいられない間柄だ。
だからコーニャの望みを叶えてあげる気のいいお友達。それ以上でもそれ以下でもない。
「そっか。でも噂になってるから気を付けた方がいいぞ」
「噂?」
「おー、男女問わずコーニャお嬢様のファンって多いじゃん。今まで誰もお近づきになれなかったのに、急にお前が近付いたから……」
「恨まれてる……とか?」
「どうだかな。ま、俺はお前を信じてるからな」
「そうか。ちなみにお前落語とか興味ないか?」
「いや、全く。コーニャお嬢様とお話はしてみたいけどな。あ、俺は便所行くから」
そう言って男子便所へ駆け込む甚太。あいつに言われた途端に周りの視線が気になる。
サッと振り返ると廊下にいた男子のグループ、女子のグループも俺を見てヒソヒソ話をしている……様に見えた。
それから放課後。コーニャには別の用を済ませてから行くと事付けて、時間差で落語研究会の部室へ向かう。
部室のある4階へ向かう階段の周りには、先程廊下で見た様ないくつかのグループが屯っていた。
「あ……来たわ」
「あいつがコーニャお嬢様と……?」
「なんであいつが……」
コーニャファンの連中からの視線が痛い。部員を集める以前に彼らからの恨みを買ってしまった。
彼らの中に落語好きかつ、俺と共存してくれる人はいるだろうか。
「あ……上戸くん……」
「お、コーニャ」
「? 部室に入りましょう」
「おう……」
そこに現れたコーニャは周りの雰囲気に全く気付いていない様だった。
「あ、あのー、入部希望者の人いたら面接するんで順に入ってくださいー」
このまま放置していてもしょうがない。とりあえず俺はその空気を無視して屯ってる人らを順に部室へ招く事にした。




