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11元父と母との再会。貴女ならやってくれると信じてた。早く私たちを城へ案内しなさい。お腹が空いて死にそうなの

 世界樹の枝葉がさらさらと揺れ、二人を祝福する拍手のように鳴り響く。二人の世界には温かなスープの余韻と互いの鼓動だけ。


 シチューで胃袋を掴まれた影の騎士団たちが、満足感に浸りながら再び闇へと消えていく。フロラベルの収穫祭はまだ終わっていない。

 目の前には半分に割ってもなお淡い光を放ち続ける月光かぼちゃが、手つかずのまま山積みになっている。


「シチューはあくまでお食事。ここからは、本番のデザートです」


 袖をまくり、再び調理場へと向かったアーレイはまだ作るのかと驚きつつも、作り出す未知の美味への期待を隠せず黙って火をおこし直す。

 フロラベルの手際は一国の令嬢の趣味の域を越えていた。魔法でかぼちゃの皮を一瞬で剥き、中身を裏ごししていく。

 世界樹の根元で採れた新鮮な聖なる蜜と、アーレイが魔法で冷やして作った特製魔導バターを練り込んでいく。


 月光かぼちゃのサクサクパイ。何層にも重ねたパイ生地の間に、スパイスを効かせたかぼちゃのペーストをたっぷりと詰め込む。

 アーレイが加減して放つ炎の魔法で焼き上げると、パイの層が花開くように膨らんで香ばしいバターの香りが夜の森に充満した。


 星屑とカボチャの宝石タルト。先ほど摘んだ星屑ベリーをアクセントに散りばめたタルト。

 かぼちゃの濃厚な甘みと、ベリーの酸味が口の中でダンスを踊る。表面には世界樹の雫で作ったゼリーが塗られ、月明かりを反射して美しく輝く。


 世界樹の恵みのしっとりパウンドケーキ。生地にかぼちゃを丸ごと練り込み、じっくりと焼き上げた一品。

 一口食べれば世界樹の懐に抱かれているような、深い安心感と魔力が全身に行き渡る。


 とろける魔力プリンのお菓子は余ったペーストをエルフの伝承にある虹色鳥の卵と混ぜ合わせ、冷やし固める。

 アーレイの氷魔法が最も活躍した傑作。口に入れた瞬間に消えてなくなる、極上の口溶け。


「アーレイ様焼き立てをどうぞ。今日一日頑張った陛下への特別報酬です」


 フロラベルが差し出したのは、溢れんばかりのかぼちゃフィリングが詰まったパイ。アーレイは慣れない手つきで受け取り、まだ熱いパイを一口齧った。


「熱い。暴力的なまでの幸福感が凄い」


 サクッとした食感の後に月光かぼちゃの優しい甘みが爆発する。アーレイの氷の魔力が熱量に共鳴して心地よく全身を巡り、神経が一本一本解きほぐされていくようだ。


「甘やかしてダメにするつもりか」


「陛下がダメになっても支えて差し上げます。次はタルトも。あーん、です」


「は……フロラベル誰かが見ている……」


 顔を赤くしながらも結局フロラベルの「あーん」を拒むことができなかった。皇帝の甘い魔法の前に完全敗北である。


「……いいなぁ……」


「……俺たちも、あとでお裾分け、貰えるかな……」


 木の上や物陰で影の騎士たちが生唾を飲み込んでいた。フロラベルは見越し、すでに土産用のケーキを人数分、可愛らしくラッピングして用意している。


「騎士の皆さんのデザートもここに置いておきます。しっかり食べて甘い夢を見て」


 言葉が終わるか終わらないかのうちに、お菓子は跡形もなく消え去った。技術がお菓子の回収に使われるという、平和すぎる光景がそこにある。


 帝国の国境検問所。華やかな装飾も失せて泥にまみれた馬車が一台、立ち往生していた。

 中から出てきたのはボロボロの毛皮を羽織ったヴェルデ公爵と、化粧の剥げ落ちた公爵夫人。


「無礼者が私を誰だと思っている!帝国の英雄フロラベルの父である!」


 公爵が兵士に怒鳴り散らす。王国が滅び、財産も領地も失った彼らが縋れるのは自分たちがゴミのように捨てた娘の威光だけだ。

 一頭の巨大な地走りの若木に乗って、フロラベルとアーレイが姿を現した。


「随分と見窄らしいお客様ですわね、陛下」


 フロラベルの冷ややかな声が響く。公爵夫妻は彼女の姿を見るなり、手の平を返したように駆け寄る。


「フロラベル!愛しの娘!探した!」


「そうよフロラベル、貴女ならやってくれると信じてた。早く私たちを城へ案内しなさい。お腹が空いて死にそうなの」


 駆け寄ろうとする二人を、アーレイが放った鋭い氷の壁が遮った。


「一歩でも近づくな。フロラベルから親という特権を奪い、死地へ追放した者たちか」


 アーレイの瞳には殺意が宿っている。公爵は震え上がりながらも、必死に言い募った。


「ひ、皇帝陛下誤解です!追放は娘を成長させるための愛の試練だったのです!け、結果として彼女はこうして大成した。すべては我々の教育の賜物……です!」


「……愛?」


 フロラベルが小さく笑った。足元から、黒い刺を持つ茨が静かに伸び、夫妻の足を絡めとる。


「お父様、お母様。あの日、私に死体すら戻ってくるなと仰ったのを忘れたのですか?貴方たちが与えたのは、愛ではなく飢えと絶望だけ」


「そ、それは……!だが血の繋がりは消えん!我々を養うのは人の道として当然だ!」


 バスケットから真っ黒な色をした不気味な腐食のジャガイモを取り出し、二人の前に放り投げた。


「……?なんだこの汚い芋は!」


「追放された地で最初に口にしようとしたもの。土の味がして、喉が焼けるほど苦い……貴方たちが私に与えた生活の味」


 フロラベルがパチンと指を鳴らすと、夫妻の豪華だった服が瞬時に弾け、無骨な農夫の作業着へと変貌した。


「貴方たちには帝国の北端にある永遠に雪の降るジャガイモ畑をあげる。そこで一生、芋を育てて過ごせばいい」


「な、何を……!?私たちは公爵家だぞ!」


「今の貴方たちは、帝国の最下層の小作人。お父様、仰いましたよね?植物魔法は庭師の真似事だと。ならば庭師以下の仕事で、私への恩を返して」


 アーレイが冷たく追撃する。


「安心しろ。死なない程度にお前たちが蔑んでいた、植物の生命力で活力を与え続けてやる。一生、逃げることも死ぬことも許されず、泥を啜ってジャガイモを育てるがいい」


「ひ、ひいいぃっ!助けてくれ!フロラベル!私の娘だろう!?」


「違いますけど?私は帝国のフロラベル。貴方たちの娘は不毛の地で、とっくに餓死しました」


 背を向けると夫妻は茨に引きずられ、極寒の北地へと強制連行されていった。娘の心を凍らせた報いは、一生溶けることのない氷の農場での重労働という形で返されたのだ。


 帝国の最北端、一年中猛吹雪が吹き荒れる永久凍土のジャガイモ畑。王国の権勢を誇った公爵夫妻が、泥と霜にまみれて絶叫していた。


「冷たい!指が、指が凍りついて動かん!おい誰か火を熾せ!公爵なのに!」


 ヴェルデ公爵が震える手で得意の火炎魔法を放とうとする。

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