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夢見の良い枕  作者: 劇鼠らてこ
前章
46/59

45話 『夏祭に買った金魚が一番長く生きる』

今年最後の更新になります。 それではみなさん、よいお年をー


 膝の上でごろごろなぁーぉと甘える群青と白の体色をした猫。 とはいえ呼吸に伴って上下する身体は所々ボロボロで、見様によっては瀕死の有様に苦しんでいるようにも感じる。

 そしてその膝の持ち主であり、今なおニコニコと猫を撫で続けているおさげ&メガネの少女は現在のエリザ嬢の物とは違う、緑色を基調とした制服を見に纏って……何故かこちらを睨んできていた。 ニコニコ笑いながら睨むって器用な事するなぁ。



「そりゃ、コレはワタシがこっちに居た時の服……つまり、幼年部の制服だからね。 アンタが見た記憶にあるエリザは大体成長しきったエリザか、幼少でも学園にいないエリザばかりでしょ?」

「ん……確かに。 じゃあ……『エリザ嬢の幼年部の制服』」



 恐らく呟く必要はないのだろうが、敢えて口に出した。

 すると、俺の上にぱさりと……今の物よりかなりサイズの小さい、そして目の前の少女と同じデザインをした緑の制服が現れたではないか。


 へぇー、コレがねぇ……。



「……誰の許しを得て、私のエリザの制服を頭から被ってるワケ? %&$$%風――」

「わーった! はいはい消すから!」



 またよく聞き取れない言葉を呟こうとしたので、すぐに制服を消す。

 1単語だけは来とれるんだが、それ以外が意味わからん。



「そりゃそうでしょうね。 そこはアンタの世界の言葉だし……。 ま、ラン婆でも聞き取れないんだから……アンタみたいなただのエロ枕が聞き取れるわけないっしょ」

「……で? なんでここにいるんだ? ロザリア・クロス=クロイツ=クロワ=クローチェ=クロチフィッソ」

「そりゃ私のセリフなんだけどねぇ? 折角毎日毎日エリザとの蜜月を過ごせるんだと思ってラン婆に頭下げて創ってもらった『夢見枕』に、どこの馬の骨とも知れない男が入ってるんだもの。 しかも主導権はソイツに握られてるし」



 なんでもないかのように話していくロザリア。 だが、その言葉の節々には聞き逃せない内容が多分に含まれていた。

 すいませんねぇどこの馬の骨とも知れない男で。 俺も自分が誰だったかなんてほとんど覚えてねーんだわ。



「なんだ、じゃあアンタが遠い異郷の地……エリィクロス共和国だったか? そこに行ったってのは嘘だったのか」

「嘘じゃないわよ。 ワタシはしっかりエリィクロスに行ってるわ。 『夢見枕』製作の代価としてね。 帰ってきたらエリザが自分の虜になってると信じて頑張ってるんじゃない?」

「……どういうことだ?」



 ロザリアがエリィクロス共和国に行ったのは、ランキュニアーの婆さんに『夢見枕(オレ)』の製作依頼をした代価である。 その内容がなんなのかはわからないが、そこはわかった。

 じゃあここにいるロザリアは誰だ? そして、エリザ嬢がロザリアの虜になるってのは……どういう事だ。



「ひゅー、怖い顔できるんだね、アンタ。 どこが顔なのかわからないのに」

「……じゃあどうやって判断したんだよ」

「勘だよ勘。 シックスセンスって奴? ふふん、じゃあアンタの疑問に1つずつ答えて上げるわ」



 得意気な笑みを浮かべるロザリア。 ちなみに手は依然と猫を撫で続けている。



「確かにワタシはエリィクロス共和国に行った。 それはラン婆の依頼だし、元から興味があったからね。 名前的に。 それじゃあここにいる私は誰なんでしょうか! はい、そこの馬の骨」

「そりゃ俺が聞いてんだよ。 あと枕って呼べ」

「ブッブー、時間切れ。 正解は、ここにいる私も紛れも無くロザリアでーす! 肉体はないけどね?」



 ガン無視して進めるロザリア。

 恐らく反応すると調子に乗るタイプなので、ここは聞きに徹するべきだ。

 ランキュニアーの婆さんの溜息が多い理由は大体コイツが原因なのではないだろうか。



「つまり?」

「つーまーりっ! エリィクロス共和国に行ったのは私の本体。 今ここにいる私は、エリザが学園に入園した直前あたりの私の精神って事。 だからワタシがエリィクロス共和国(あっち)で何をしているのかとかは知らないわ」

「……つまりアンタは本体(ロザリア)のコピーって事?」

「正解!」



 自分がコピーであると、あっけらかんと言うロザリア。

 俺もこんな()だからそこまで忌避も感じないが、やっぱり常人のソレではないのだろう。



「そしてもう1つの質問……エリザが私の虜になるはずだったっていうのはー、そもそも『夢見枕(アンタ)』がなんなのかって事から話さないといけないかなー」

「なぁーお」

「……話してくれ。 幸い、お互い時間はあるだろ?」



 相槌を打つように鳴いた猫。 話わかってんのか?



「そうね、たっぷりあるわ。 じゃあまず……『夢見枕(アンタ)』がマジックアイテムだ、っていうのはわかってるわね?」

「ああ。 夢見枕って名前だったのは今さっき知ったがな」

「そもそもマジックアイテムっていうのは『魔法』を物質として具現化・固定化したものを差すの。 じゃあ問題。 『夢見枕』は何の魔法をアイテム化したものでしょーか!」



 似たような話をテュエル・リオテークがしていたな……。

 俺の機能から、何の魔法かを当てろってか。

 んー。



「催眠とか? いや、快眠か?」

「そんな魔法はありませーん! あ、呉俊(くれとし)なら使えるかもね」

「くれとし?」

「シャイニングスター・シルバーアイズの本名。 間宮(まみや)呉俊(くれとし)



 ……イタタタタタタタタタタタタ。

 え、何アイツそんな普通の名前あんのにシャイニングスター・シルバーアイズ(キリッ って名乗ってるの?

 イ、イテぇ!!



「50歳までに私に膝をつかせられなかったら改名させる、って約束だったからね。 死に物狂いで頑張ってたけど、あんな未熟者に負けるほど私は弱くないし……。 50歳の誕生日にラン婆と一緒にこの名前をプレゼントしたってワケ。 ラン婆は杖を渡してたけどね」

「ヒデェ……。 生き恥じゃねぇか……」

「アイツ、方々に「シャイニングスター・シルバーアイズです」って名乗ってるんでしょ? アハハ! お腹痛いわぁ!」

「なーぁ」

「あ、ごめんごめん。 揺らしちゃったね」



 腹に手を当てて身体を揺らして笑うロザリアに猫が抗議の声を上げた。

 シルバーアイズ……一瞬イタい奴かと思ったが……強く生きろ。



「それで、なんなんだ? 俺の元になった魔法ってのは」

「ふっふっふ……その魔法の名前はね」




「『魅了』っていうのよ」



 ロザリアは妖しく笑いながら、そう言った。
















 魅了。 相手の心を惑わして、自分を好きだと思い込ませる……ファンタジー作品において、そのほとんどが禁じられたモノ、あるいは邪悪なモノとして扱われるソレ。

 ソレが俺の正体らしい。


 へぇ。



「あれ、あんまり驚いてないわね」

「いや……そう言われてもな、ピンとこねーし」



 別に俺はエリザ嬢を催眠してるワケじゃないからなぁ。 そりゃ快適さに依存してるケはあるだろうけど……。 え、まさかソレ?



「いや、ソレに関してはアンタの技量ね。 あのだらけきった笑顔や声をエリザから引き出したことは褒めてあげるわ」

「ど、どうも。 てか、さっきからなんで俺の思ってることわかんの?」

「そりゃ私も『夢見枕』だからね。 アンタが主導権を握っているとはいえ、私とアンタは一心同体ってわけ。 一心じゃないか」



 はぇー。

 つくづくファンタジーだな()



「で、魅了ってのは? つか、お前エリザ嬢に何する気だったんだよ」

「そのままの意味よ? 『夢見枕』ってマジックアイテムは、最初の所有者が魂のカケラを『夢見枕』に込めて、渡した次の所有者の心を侵していくっていうアイテムなんだから」

「……何?」



 待てよ……?



「本当なら『夢見枕』を渡したその日から、私はエリザと夜を過ごし続けて……エリィクロス共和国に行っている本体が帰って来た時に記憶を融合して、心身ともにエリザを私の物にするつもりだったのに……。 流石に本体も『夢見枕』の中にアンタがいるなんて想像しなかったみたいね」

「……それは、エリザ嬢本人がお前を拒んでも……魅了できるのか?」

「エリザが私を拒む? 有り得ないわ。 ま、聞きたいことはわかるけど……。 答えは【イエス】よ。 例えもし、万が一にでもエリザが私を拒んだら……私が好きになるような『記憶』や『記録』、甘い言葉や辛い現実を突き付けて……無理矢理私に依存させる。 現実のエリザはココで起こることを覚えていないから、私に植え付けられた『好き』って感情だけが蓄積していく……。 ね、虜になっちゃうでしょ? ま、拒まれるとは思ってなかったけど」



 持っていない脳のどこかが切れたような感覚に陥るが、待て。

 どうでもいいことじゃない。 むしろ(はらわた)(これも持ってない)が煮えくり返っているが……そこじゃない。



「……ロザリア。 質問がある」

「ん? 何だね、馬の骨君」



 馬の骨じゃねえ。



「マジックアイテム『夢見枕』は……いくつある? そして、ソレは誰にでも使えるものか?」

「んひひー。 そうよ。 現存するマジックアイテム『夢見枕』は2つ……そして、コレは誰にでも使用可能よ。 使用済みじゃなければね」

「……つまるところ、アイツが……フランツが持っている枕は……」



「ええ。 ジェシカ・ライカップの魂のカケラが籠った『夢見枕』でしょうねぇ。 ラン婆の創ったマジックアイテムだから、呉俊にも感知できない一級品」

「……なるほどな」



 前にも推理したが、5割がた当たっていたらしい。

 リロイのおっさんとシルバーアイズが言っていた「フランツがずっと耐え続けている」ってのも……ジェシカ・ライカップの魅了に耐え続けてる、ってワケね。



「正直、フランツに関してはかなり見直したわ。 エリザを奪おうとする恋敵だとは思っていたけれど……本気で『夢見枕』を使ったら、多分1週間とたたない内に陥落するはずよ? 大分意識を逸らされてるとはいえ、何か月もエリザの事を忘れないのは凄い事だとおもうわ」

「そうなのか? でも、アイツエリザ嬢を大分邪険にしてただろ。 ソレが既に魅了されてるって事じゃないのか?」

「そりゃ起きるときに「エリザが嫌いだ」「エリザが憎い」って感情を植え付けられているからよ。 だから自然と口をついて邪険にするような言葉が出てしまう。 でも、無関心じゃなかったでしょう? 私もここを出れないからエリザの夢で判断するしかないけど、アイツ常に「昔のエリザは何処へ行ってしまったんだ」とか、「エリザ、やめてくれ」とか、結局エリザを想っての言葉に聞こえない?」



 ……そう言われれば……いや、うーん。

 いささか美化しすぎでは。



「もし私がエリザを虜にしたら、エリザは他の一切合財を無視するようになるわ。 大好きなお兄ちゃんも、親友も、両親も。 ただ私に肉体と心を預けて……私はソレをドロドロになるまで溶かしてあげるの」

「……クレイジーサイコレズだな」

「褒め言葉ね。 私はね、欲しい物は必ず手に入れるの。 そのための力だもん」

「……愛は?」

「二の次」



 最低だな。

 コレがエリザ嬢の親友だとは……思いたくない。



「枕が愛を語るの? どうせ転生する前は冴えない童貞ボーイだったんでしょ?」

「……残念だが俺はもう答えを持っているんでね。 それより、聞きたいことは沢山あるんだ……。 その猫の事とかな」

「なーぁーぉ?」



 腋の下を掻かれて気持ちよさそうに前足を伸ばしている猫。

 コイツは結局なんなのか。


 

「ふーん……冷静だね。 流石は夢金(ゆめがね)出身者」

「……元の世界の話は良いんだよ。 どうせかえれねーんだし。 その猫は……ソイツは敵なのか? さっきエリザ嬢を守ってくれたとか言ってたが……」



 どこまで知ってんだコイツ。

 あー、ダメだな。 思考がシリアスになってる。



 もっと軽い事考えよう。 ……そうだ、何もない所から制服を出せたんだから、元からあるモノを消す事も出来るよな。



 チラ、とロザリアを見る。 それなりの巨乳。 少女にしては良い腰つき。

 そして、翳された掌。


 OK、無駄な事考えてないでさっさと進めよう。



「ま、ソレが正しい使い方よ。 ここは無意識の夢の中。 なんでもできるんだから……シないわけ、ないでしょ?」

「……OK、生々しい話はやめようか。 俺にも妻が居た気がするんでな」

「へぇ。 ま、いいわ。 話を進めましょう。 それで、このコの事だったわね」



 シルバーアイズが渡してきた夢の中ではパンサーに。 他、ミルト嬢の簪をすり抜けたり何もない所から突然現れたりと、非常に怪しい動きをしていたこの猫。

 こいつがなんなのかって話だ。



「ま、アンタが考えている通り……このコはジェシカ・ライカップの使い魔よ」

「……やっぱり、か。 俺の所に眠りに来てたのは……やっぱり情報収集とかなのか?」

「ううん、ただのお昼寝。 ねー?」

「なーぁ」



 ……。

 落ち着け俺。 そう、コイツがエリザ嬢の味方だと決まったわけじゃない。 つかむしろ敵だろ。 魅了とか蜜月とか。



「私はエリザを傷つけたりはしないわよ。 甘く溶かしてアゲるだけで。 

で、この子の行動だけれど……、この家に来た時、明確な目的が在ったのは2回。 1回はエリザが悪夢を見た時ね。 ユリアをこのコが引きつけて、鳥の使い魔が悪夢を見せて精神を壊す、みたいな手法を取ろうと思っていたみたいだけれど……。 アンタがエリザの目を覚まさせて、ソレを防いだってワケ。 アンタがやらなかったら私がやってたわ」

「精神を……壊す……?」

「ええ。 ほら、リロイと呉俊が話してたでしょ? バンボラ・ライカップとリーヤン・ライカップの話。 バンボラ・ライカップの方はわからないけれど、恐らくリーヤン・ライカップはもう人形よ。 中身の壊れた死体。 身体は生きているけれど、既に心は無いわ」



 なんだそりゃ。

 そんな怖い……魔法? をエリザ嬢にかけようとしていたのか。

 待て、その魔法……誰が使ったんだ? ジェシカ・ライカップはやっぱりエルフなのか?



「私のとも、呉俊のとも、ラン婆のとも体系が違うけれど……魔法な事には間違いないわ。 傀儡を扱う魔法と、死体を使い魔に変える魔法。 ジェシカ・ライカップが使える魔法は恐らくその2つね。 陰鬱なモノばっかり」

「……そもそもエルフって何なんだ? 耳が長いわけでもないだろ?」

「ラン婆はハイエルフ、呉俊はハーフエルフ。 でも私は人間だし、ジェシカ・ライカップも人間ね。 じゃあここで問題! 何を以てエルフと呼ぶのでしょうか!」



 こいつテンションのアップダウンが激しすぎる。

 あと質問してんだからわかるわけねぇだろ。

 


「……最初にエルフと人間がいて、エルフの血を継いでる奴をエルフっていうんじゃねぇの?」

「そうですが! さて、では魔法を使うことが出来るエルフと出来ないエルフの違いはなんでしょうか!」



 手法が古い。



「血の濃さか? ……いや、それならなんとしてでも身内の子を残そうとするはず……。 わざわざシャルルー家やオレイユ家みたいに拡散させる必要は無い……」

「おお! 良い線行ってるね! じゃあヒント! 私と呉俊とジェシカ・ライカップの共通項は何!」

「共通項……?」

「同じところ!」



 いやそれはわかってるけどよ。

 ……。 



「別の世界から来た……事か?」

「ざっつらぁーい! 呉俊とアンタとジェシカ・ライカップは同じ世界出身! ラン婆は覚えてないって言うからわからないけど、別世界の住民。 勿論私もね!」


 つまり。



「つまり、エルフだから魔法が使えるんじゃなくて……たまたまランキュニアーの婆さんとシルバーアイズが別世界の住民で、且つエルフだった……ってだけか?」

「そう。 元いたエルフっていうのは、身体能力がズバ抜けていて魔力の感知に長けた……それだけの種族。 それを術にすることは出来なかった。 だからこそ遥か古代から生き続けているラン婆はハイエルフって崇められているの。 魔法を使うことが出来る、ってそれだけの理由でね」

「ハイエルフと、普通のエルフと、ハーフエルフに……違いはないのか?」

「エルフたちからしたら血の濃さとかがあるんじゃない? 私エルフじゃないからわからないけど」



 適当……なんだな。 案外。

 

 話を戻すと、ジェシカ・ライカップはエルフじゃないのに魔法を使えて不思議ー、ではなく、エルフじゃないけど転生してきた人間だから魔法を使えるのは当たり前、って事か。



「そゆことー。 アンタも人間の身体に宿っていれば、魔法が使えたかもね?」

「……俺はこのボディで十分だよ。 エリザ嬢の温かみを全身で味わえるのは(おれ)だけだからな」

「……アンタさっき奥さん居たとか言ってなかったっけ」

「覚えちゃいねー前世の奥さんと、俺を抱きしめてくれる今世の美少女。 お前ならどっちを取るよ」

「今世の美少女だね」



 だよなぁ。



「なぁーぉ」



 で、コイツの話だって。

 どんだけ逸れるんだよさっきから。





夢金ってのに関しては次の登場人物紹介で出ると思いますん

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