↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢見の良い枕  作者: 劇鼠らてこ
前章
45/59

44話 『懐かしい祭囃子が聞こえてくる』

物語が傾いてくる


「ん……続きはまた今夜みたいだな」

「え? あ……もしかして、もう朝ですの?」


 スクリーンこそ再生中だが、既に方々から白い光があふれ始めていた。

 どこから、と明確に言う事は出来ないが、真っ暗な空間が白み始めているのだ。


「前回、あなたの情報だけ忘れていたから……今度は、あなただけを覚えてみようかしら? 起きた私は(あなた)に意思があることはわかっても、あなたの人柄……枕柄? は覚えていなかったし……」

「それが出来るんなら世話ないけどよ……。 エリザ嬢が何度も試して、結局できなかったんだ。 だったら、今日また一緒に寝る事とかペイティに調べて来たこと聞くとか、そういうの覚えて帰った方がいいんじゃねぇの?」

「ふふ……誰かわからない意思、より……実際に話して、同じ時間を過ごした意思、の方が信用度も信頼度も格段に上なのよ? ね、エリザ?」

「わ、私ですの? ……えと、私は……枕さんの事、忘れたくはないですの」


 白む。


「おー……そりゃ嬉しいっていうか、ありがてぇんだけど……でもエリザ嬢は俺なんかの事に構う前に、寝る前に自分が決意した事を優先した方がいいと思うぜ?」

「どっちも大事ですの! フランツの事も……枕さんの事も」


 そして、世界が白く染まった。











 エリザは目を覚ました途端、左肩に圧迫感がある事に気が付いた。

 つい最近、似たような……それでいて、もう少し小さくて硬いものを押しあてられていた覚えもある。

 アレは親友だったか。

 半覚醒状態の頭で、コレがなんだったかを思い出す為にエリザは腕を動かした。

 

 そして、耳元で吐息を聞いた。


「んぅ……」

「ひゃぇ?」


 聞く者によっては甘い吐息。 だが、その声は自身のよく知るモノ。


 乃ち、母の――、


「エリザぁ……思い出そうとしてはダメよ……この微睡に頭まで浸かりなさい。 起きなくていいの。 甘い感覚の中で……直感に全身を委ねなさい……」

「ひぃっ……!?」


 動かそうとした手は上下から柔らかいモノに挟まれて、微動だにしない。

 さらにはネグリジェ越しに臍の下あたりを触られ、摩られる。


 いつかの親友を彷彿とさせる手つきではあるが、こちらの方が断然巧み……って。



「無理ですの!!」

「あらぁ? 逆効果だったかしらぁ?」

「お母様のせいで何も思い出せませんの! もう一回寝て、枕さんに(・・・・)――」

「ふふ……枕さん?」



 エリザは自身が頭を置いている枕が、仄かな温かみを持ち始めた事に気が付いた。

 

「ま……枕さん……? 枕さん……枕さん……」


 エリザは口を動かし続ける。 そうでもしなければ、忘れてしまうかのように。


「枕さん……?」

「……ふふ」


 その様子のエリザからそーっと離れるセシリア。

 そのまま音も無くベッドを降り、音も無く移動し、音も無くドアを開けた。


 そこにいたのは、今まさにノックをしようとしていた、という風体のユリア。 中指を浮かせた拳が宙を叩こうと言う所で止まっており、その喉が動こうとして、


「ね?」


 小さな声と共に立てられたセシリアの人差し指に、止む無く黙る事となった。


 そのままユリアの肩を押しながら、するすると部屋を出ていくセシリア。 ユリアもまた後退しながらだと言うのに一切の音を立てず、開けた時と同じようにセシリアによってドアは静かに閉められた。


「枕さん……」

 

 エリザが「枕さん」と呟くたびに、エリザの抱く(・・)枕が熱を発する。

 既にエリザは枕に意思がある事に気付いていた。 だが、それ以上が出てこないのだ。


 ここではない場所で、誰かと話していた。

 とても楽しかった事を覚えている。 自分の言葉すらも覚えている。


 だが、誰が……何を言ったのか。 いや、どんなヒトだったのか……それが思い出せない。


「もう少し……もう少しですの……」

「エリザ」

「ひょわぁ!?」


 いきなり耳元で声を掛けられて飛びあがるエリザ。

 そこにはセシリアが居た。 エリザは知らない事だが、先程出て行ったはずのセシリアだ。 エリザが視線を巡らせれば、ドアの所には目をつむったまま立っているユリアがいる。


「ほら、コレを飲みなさい?」

「え……?」


 セシリアが差し出したのは、ティーカップ。

 鼻をくすぐる香りが、ソレが紅茶であると知らせてくれる。


 ついさっきまで嗅いでいた匂い――。


「ほら、速く飲まないと学園遅れちゃうわよぉ?」

「あっ……わ、忘れてましたの! ……んぐ」


 学園に遅れるくらいギリギリであるのなら、紅茶など飲んでいる暇はないのではないか。

 そんなことを想いながら、エリザはその紅茶に口を付けた。


 口を付けて、勢いよく顔を上げた。 反動で傾くティーカップ。




「思い……出しましたの!!」



 びしゃあ!


 彼女の記憶の蓋が開いたと同時。

 より一層大事になった枕に、多量の……しかもそれなりに熱い紅茶が降り注いだ。















 うん。

 まぁ、思い出してくれたならそれでいいやって、うん。


 大々的なセクハラも多分エリザ嬢なら許してくれるだろうからいいやって、うん。


 ……匂い、残らないといいなぁ……。




 さて、全てを思い出した? らしいエリザ嬢は学園に、セシリア母ちゃんはどっかに……多分シオン商会へと行って、今日のベッドメイクはユリア。

 相も変わらず乱暴というか力強い手つきで洗濯されている俺であるのだが、今日に限ってはありがたい。 紅茶に限らず砂糖の入った飲み物ってな匂いが残るんだよなぁ。 前の世界にあった香り付きシャンプーみたいなモンとか香水みたいなモンは『匂わせる前提』の匂いだから良いんだけど、染みついた砂糖と紅茶葉の匂いってな(にお)いってより(にお)いだから、できれば残したくない。


 恐らくユリアもそれがわかってて、いつもより強い力でやってくれてんだと思う。

 

 痛い事には何の変わりも無いがな!



 さて、現実世界の事はそれくらいにして。


 真っ暗な世界。


「……おーい、出て来いよー!」


 呼びかける。 異物感のあるヤツに、ではなく、



「猫ー、ここは安全だぞー!」



 あの時、俺の中に(・・・・)入ってきた猫(・・・・・・)に対して、である。


 エリザ嬢が目を覚ます直前、ボロボロになった群青と白色の猫が俺の中に入ってきたのだ。 直後に落ちてきた(とり)は俺が凍らせた――ってワケじゃなく、勝手に凍ったんだが。 なんだろ、枕の防衛機構なのかな。


 ということで、現在俺の中にはあの猫がいるはずなのだ。

 ジェシカ・ライカップの手先かも知れない、あの猫が。


「猫ー? ……死んでないよなぁ? この空間って死んだりするのか……?」


 ――……。


「む。 そっちか」


 声のした方向に歩いていく……ワケではなく、そちら側にあるものを――ぐいっと引き寄せる!


「オラァ! 一本釣りの()っちゃんとは俺の事よぉ!」


 フィッシュ! じゃ、ないけど……確かに手応えがあった。 手もないけど。

 ふっふっふ……ここは枕の真っ暗な世界! つまり、ここは俺の体内も同然!


 隠れられると思うてか!!



「かむぉーん!」

「――――…………ぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!?」

「ん?」



 猫の鳴き声……? いやいや、確実に人の声だよな……。

 おいおい、あの猫魔獣形態だけじゃなくて、人間にも成れるのか?


 ――擬人化は、美少女である。 前の世界の定理だ。


「大物、ゲェーェェッチュ!」

「ぁぁぁぁあああああああああ!! この、引っ張んなバカ枕! %&%%風弾装填&%$#!」

「うぇ?」


 一層力を込めて引っ張り上げてみれば、あら不思議。

 そこには確かに美少女が。 いや、美少女?


 黒縁眼鏡に、両側に伸ばした黒髪の三つ編み。 

 


「#$%$&全弾発射%$#??#!」



 直接? 見るのは2回目のソイツから――風の塊みたいなのが、発射されて。



「吹っ飛べ、エロ枕!」

「ウボァ!?」



 俺は遥か後方へと吹っ飛ばされた。

 きれーいな放物線を描いて。


 









 一度真っ暗な世界から浮上し、また理没する。

 するとそこには、膝の上に乗せた猫を可愛がる女の姿があった。


「なぁぉぉ……」

「そうねー、エリザのために頑張ってくれたんだねぇ」


 黒縁眼鏡。 一般的におさげと言われるであろう三つ編みを両サイドに垂らし、緑色の制服っぽい服の肩にかけている。

 胸は……そこそこあるな。


「ん? ……あぁ、戻ってきたんだ。 どうだった? 快適な空の旅は」

「景色が変わらんから何も面白くないな。 で? なんでアンタがいるんだ?」




「ロザリア・クロス=クロイツ=クロワ=クローチェ=クロチフィッソさんよ」



 そう、このクソ長ったらしい名前を持つエリザの友人である魔法使いが、そこにいたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。