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夢見の良い枕  作者: 劇鼠らてこ
前章
36/59

35話 『魔物と魔獣』


「んー、美味いな……」

「いつも思ってんだけど、お前味覚とかあんの?」


 スクリーンが消え、いつものログハウス。

 高山を吹き抜ける風は、しかし寒さとならない程度に心地いい。 現実での季節は冬だが、(この)世界に季節はないのだろう。 あるいは、止まっているか。

 大きく聳え立つ大樹がさわさわと葉を鳴らし、聴覚からも涼みを送る。


「あー、どうだろうな。 まぁ舌で楽しんでるって感じじゃねぇよ。 どっちかっていうと、誰かの記憶――紅茶が美味しかったっていう記憶を読み取っているみたいな……そんな感じだ」

「つまり、それも夢を見ているようなもんだな?」

「そんな感じ」

 

 相も変わらずどうやってカップを掴んでいるかわからない枕。 そして、どこが口なのか、飲まれた紅茶はどこへやらといういつも通りの様相で、大量の紅茶が消えていく。

 エリザはなんとなく……なんとなくだが、枕が常にどこを顔としているのかがわかるようになってきているようだ。


「現実世界の事も調べないといけませんが……枕さん自体も、調べた方がいい気がしますの。 もしかしたら私達や枕さんも気が付いていない機能があるかもしれませんし」

「あー、マジックアイテムだしな。 こう、実は魔法使える、みたいのねーの?」

「まず魔法がどういう原理で起きてるのかわからねぇんだよな。 シルバーアイズは単語いうだけで魔法使ってたけど、ロザリアはよくわかんねぇ言語使ってたし……。 ランキュニアーの婆さんに至っては使ってるとこを誰も見てねぇ」


 じぃっと枕を見続けるエリザ。 そして、あることに気付いた。

 枕は紅茶を飲みながら喋っている。 紅茶を零す事も吹く事も無く、声が詰まる事も無い。 喉は元からないが、静かに静かに――吸い込まれるように、枕の中へ紅茶が消えていく。


「んなのあたしも知らねえよ。 歴史書なんかにゃただ『魔法』って書かれてるだけだし、あの夢のシルバーアイズ様の言葉は聞き取れねぇし……」

「魔物ってのはどういう存在なんだ? 魔法関係ないのか?」


 そろりそろりと場所を移動し、枕の側面に周るエリザ。 そして目を凝らし、枕の口元? を注視する。


「さぁなー。 魔物ってのは本当に生物かどうかもわかってねぇんだとよ。 わかってんのは死んでも腐らない事と、英雄って呼ばれる奴らが居た時代は他の時代と比べて魔物の数が異様に多い事だけだ。 死んでも腐らないのに何もわかってないのが不思議っちゃ不思議だが……あれ、なんでわかってないんだ?」

「いや、俺に訊かれてもな……。 記憶魔法とか言うのを使って、エルフが隠してるとか?」


 枕に口は無い。 当たり前だ。 だから、紅茶が枕に触れれば染み込むだけのはず。

 果たして、どういう構造に――。


「エリザは学園で習ったりしてねーか? 魔物の仕組みとか」

「ふぇひっ!? え、あ、なんでもないですの!」


 別に悪い事をしていたわけでもないのだが、なんとなく恥ずかしくなって誤魔化すエリザ。 およそ淑女が出すような悲鳴ではなかった事は記憶から消し去ろう。


「あ、ま、魔物……ですの?」

「そもそも俺エリザ嬢が学園に何を習いに行ってるのか知らねーや」

「算術や礼式、世界史等ですの。 礼式は家で済ませてくる子も多いので、基本的には算術と歴史ですのね」


 アイガム王国国立中央学園。 飾り気のないその学園だが、歴史自体はそう古くない。

 元々国内各所にあった学園が合併したのだ。 故に、貴族棟と平民棟が存在している。 両者は滅多な事では関わらない……というわけでもなく、行きたければ行って構わないというフランクな学園の方針により、主に商人の子供が貴族とのつながりを持つために貴族棟に来ることが多い。

 もっとも、母親が大商会の商会長であるエリザの元に来る者など、そうそう居ないのだろうが。


「魔物の仕組み……といいましても、私も多くを知ってるわけではないですの。 私が授業で習った事は、魔物というのは総称である事。 死してなお腐らないという事。 魔物そのものも2種類いるという事ですの」

「えっと? 総称ってどういう事?」

「イヌでもヘビでもトリでも魔獣でも、人間に害をなした動物を全てひっくるめて魔物、と呼んでいるそうですの。 だから、死んでも腐らないのは厳密に言うと魔獣だけですの」

「ほーん」


 だから、例えば畑を荒らすイノシシが出たとして、それが普通の生物であるイノシシでもソレは魔物と認定される。 それならば人間に害をなさない魔獣は魔物ではないと言える、かと言えばそうでもない。 何故なら、人間に害を為さなかった魔獣はまだ一度も発見されていないからだ。


「魔物が2種類いるってのは?」

「1つが自然発生したもの。 もう1つが人為的につくられたものですの。 後者は使い魔と呼ばれるのだと、ミルトさんから伺いましたの」

「造られた……? 使い魔ってテイム……その辺にいる魔物とかを捕まえるんじゃねーの?」

「どうやって捕まえんだよ。 死ぬまで暴れ続けんだぞ? 都合よく魔法使いが傍にいるわけでもねぇし、かといって瀕死まで追い詰めるにゃそれなりの知識が必要だ。 あたしでも見た事ねぇ生物が死に際かどうかなんてわかんねーよ」

「あー……そうか」

「それにお前、あの猫みてーなちっこいのを基準にしてるかもしんねーけど、本来もっとデカいんだぞ? あの夢の最後にちっこいのもでかくなったけど、あれよりもデカいのなんてザラだ」


 歴史書に記されている限りで最大の魔物は30mの蛇の魔物。 時代の英傑が罠を張り、生き埋めにしたとされている。

 そして、その蛇はこのアイガム王国の地下深くに眠っているとも。

 ちなみにその英傑こそが黄昏の王子様だという説があったりする。


「んじゃ造るってどうやるんだ? 粘土みたいに捏ねるのか?」

「わかりませんの。 ただ捕まえる事が不可能な点を省みて、しかし隷属してる魔物を見た研究者が推測を重ね、理由づけしただけだとミルトさんは言ってましたの」

「あ、そゆこと……」


 正確には、造るではなく創る、だ。 使い魔とは名ばかりで、存在を一新するものであるのだから。

 さらに言えば材料も必要。 それこそ、息絶えた魔物の死体とか。


「で、なんだっけ。 魔物の話じゃなくて……そう、魔法の話だ!」

「枕が魔法を使えるかどうかだろ? 言っちまえばこの空間も魔法みたいなモンなんじゃね? お前は無意識に魔法使ってる、みたいな」

「でも俺何も消費してないぞ? 魔法っていうとホラ……魔力とか消費するんじゃね?」

「だから知らねーって」

「ミルトさんならわかるかもしれません……の?」


 世界が白み始める。

 ユリアはテュエルに、エリザはミルトに再度話を聞くという方針で決まったらしい。


 そして、世界が割れた。


段々と色々回収していきます。

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