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第6話「隠されていた真実の輝き」

 城の生活に少しずつ慣れ始めたルミアは、イリスの庇護の下で穏やかな日々を過ごしていた。

 毎日の温かい食事と、イリスが与えてくれる惜しみない愛情は、ルミアの頬にほんのりとした血色を取り戻させている。

 常にうつむきがちだった視線も、今では真っ直ぐに前を向くことができるようになっていた。

 ある日の午後、ルミアは自室の窓辺に立ち、厚いガラス越しに外の雪景色を眺めていた。

 部屋の片隅にある小さな丸テーブルの上には、銀色の鉢植えが置かれている。

 そこには「氷結花」と呼ばれる北の国特有の青い花が植えられていたが、数日前の冷え込みが厳しかったせいで、花びらの端が茶色く変色し、茎も力なくうなだれていた。


『かわいそうに。この暖かい部屋でも、元気が戻らないのね』


 ルミアはそっと鉢植えに近づき、萎れかけた花びらに指先を触れた。

 かつての彼女であれば、植物に触れることすら恐れていた。

 自分の内にある治癒の力を使えば、対象の痛みが自分の身体に流れ込んでくる。

 植物の枯れる苦痛すらも自分に移るのではないかと、怯え続けてきたからだ。

 だが今の彼女の心には、イリスから与えられた温かい感情が満ちている。

 不思議と恐怖は感じなかった。

 ただ、この美しい青い花にもう一度咲いてほしいという純粋な願いだけがあった。

 ルミアが花びらに触れた瞬間、彼女の指先から淡い金色の光の粒子がこぼれ落ちた。


「え……?」


 ルミアは驚いて目を丸くした。

 これまで彼女が力を使うとき、光は常に薄暗く濁った色をしており、同時に針で刺されるような痛みが肌を走っていた。

 しかし今、彼女の指先からあふれ出す光は、春の陽だまりのように温かく、澄み切った黄金色をしていた。

 光の粒子は氷結花の茎を包み込み、茶色く変色していた花びらが、みるみるうちに鮮やかな瑠璃色へと戻っていく。

 うなだれていた茎がピンと張り詰め、蕾だった部分までが一斉に花を開いた。

 部屋の中央に、瑞々しい花の香りがふわりと広がる。

 ルミアの身体には、何の痛みも走っていなかった。

 むしろ、身体の奥底から清らかな力が湧き上がってくるような心地よさすら感じていた。


「ルミア」


 背後から声が掛かり、ルミアは弾かれたように振り返る。

 扉の前に立っていたのはイリスだった。

 彼女の黄金の瞳は、咲き誇る氷結花と、それを包み込むルミアの淡い光を驚きとともに見つめている。


「イリス様……私、何もしていません。ただ、花に触れただけで……」


 力が暴走したのではないかと怯えるルミアに、イリスは静かに歩み寄った。

 イリスは花を見るのではなく、ルミアの顔をじっと見つめ、優しく微笑んだ。


「驚くことはない。それが、お前の本来の力なのだ」


 イリスの言葉に、ルミアは戸惑いの表情を浮かべた。


「私の、本来の力……? でも、私の治癒は相手の痛みを引き受けるもので……」


「それは違う」


 イリスはルミアの手を取り、その手のひらを自らの両手で包み込んだ。


「南の王国で、お前は常に恐怖と飢え、そして極度の疲労の中に置かれていた。魔力や治癒の力というものは、術者の心身の状態に強く影響される。お前は自己を削り、無理やり力を引き出されることで、相手の痛みを『肩代わり』するという歪んだ形でしか能力を発揮できなくなっていたのだ」


 イリスの指が、ルミアの手首の脈打つ部分をそっと撫でる。


「だが、ここにはお前を脅かす者は誰もいない。十分な食事を取り、温かいベッドで眠り、心が安らいだことで、お前の力は本来の姿を取り戻した。お前の力は、決して痛みを伴う呪いのようなものではない。対象の生命力そのものを根本から再生させる、美しく神聖な光なのだ」


 ルミアはイリスの言葉を反芻し、再びテーブルの上の氷結花を見つめた。

 生命力に満ちて咲き誇る花は、ルミア自身の心の再生を象徴しているかのようだった。


『私の力は、人を……命を傷つけるものではなかった』


 ずっと忌み嫌い、隠そうとしていた自身の力が、実はこれほどまでに温かく優しいものだったという事実に、ルミアの胸の奥が熱くなる。

 彼女の目から、安堵の涙が静かにこぼれ落ちた。

 イリスはルミアを引き寄せ、その背中を大きく温かい手で包み込む。


「お前はもう、誰の痛みも背負わなくていい。その美しい光は、お前自身を、そしてお前が大切にしたいと思うものだけを照らせばいいのだ」


 イリスの軍服の肩に額を押し当てながら、ルミアは声を上げて泣いた。

 それは悲しみの涙ではなく、長年自分を縛り付けていた呪縛から解放された、喜びの涙だった。

 イリスの力強い腕の中で、ルミアはようやく、自分という存在を心の底から肯定することができた。

 窓から差し込む雪明かりが、抱き合う二人の姿を淡く照らし出していた。

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