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怪物が誕生する

私は一人だった。またしても。慣れ親しんだ、冷たい孤独の抱擁が私を包み込んだ。


しかし、今回は違った。


今回は、私には目的があった。

集中した、ただ一つの使命――いつもの退屈な日常を焼き尽くすような使命。


恐怖はなかった。

代わりに、期待と純粋な興奮が混ざり合った強烈なカクテルが私の全身を駆け巡り、挑戦に向けて感覚を研ぎ澄ませた。


追跡のスリル――そして、強烈な対決への期待――私の精神を高揚させた。


さあ、狩りを始めよう。


ゆっくりと、獲物を狙うような悪魔的な笑みが私の顔に浮かんだ。めったに日の目を見ることのない表情だったが、内なる嵐を完璧に映し出していた。


何かが溢れ出すのを感じた。


私の笑みはさらに深まった――ザ・サムシング の笑み――そして、喉の奥からほとばしる力とともに、開いた両手から鮮烈で地獄のような炎の柱が二本噴き出し、不自然な光を放った。


突然の光の中で、私の目が浮かび上がった。

いつもの色ではなく、周囲の荒廃した世界の深い闇の中で、不気味な電光のような赤色に輝いていた。


しかし、私の意識は、この劇的な光景とは裏腹に、ごく平凡なものだった。


浴場を探さなければ。


私は崩れ落ちた街並みを見渡した。私の目は――炎がなくても、体内のザ・サムシング のパワーステアリングのおかげで――異常なほど鋭かった。


遠くに、巨大な建造物が目に入った。


十分な大きさだ。

十分な威圧感がある。

十分なほど廃墟だ。


あれが標的に違いない。


周囲に漂う荒廃と放置のオーラは、肌で感じられるほどだった。そこは寂れたゴーストタウン――災害か、あるいは時の流れの記念碑だった。


人影がないおかげで、静かに近づくのは容易だった。私は廃墟の中の幽霊となり、標的に気づかれないように細心の注意を払った。


こんな場所で一人で行動するなんて、あいつは相当な度胸の持ち主だ。


簡単すぎる。


私は心の中で鼻で笑った。標的の過信は、私の能力に対する侮辱と言っても過言ではない。


さっさと片付けてしまおう。


侵入口を見つけた――窓ガラスが激しく割れた、大きくギザギザの穴。


私は地面を蹴り、音もなく、俊敏な影のようにその穴を通り抜けた。


しかし、着地は優雅とは言えなかった。


私のブーツは危険な割れたガラスの破片の上に落ちた。鋭く、耳をつんざくような「ガリッ」という音が、静寂の中に響き渡った。


「しまった。もっと慎重に行動すべきだった」


胸に熱いものがこみ上げてくるような苛立ちを感じながら、私は独り言を呟いた。こんな初歩的なミスは、自分の品位を損なう。


狩りはまだ始まってもいないのに、もうすでに身を隠す機会を失ってしまった。


一瞬の怒りを必死に抑え込み、目の前の目標に集中した。


彼を見つけるには、彼のエネルギーを感知する必要がある。この広大な場所で彼を見つけるには。


建物の内部は、光さえも飲み込むような完全な暗闇だった。炎を使うのは、忍び寄るにはあまりにも危険すぎる。


代わりに、強化された夜間視力に頼った。これは、私の魂を共有する精霊から授かった超自然的な恩恵だ。そのおかげで、瓦礫や朽ちかけた建築物の灰色と黒の輪郭を、かろうじて見分けることができた。


静寂が支配していた。


重苦しい静寂の毛布が、まるで鼓膜を押しつぶすようだった。


その時――


かすかな音がした。


遠くで、かすかなひび割れ音がした。


私は凍りついた。


突然、鋭い息を呑み、アドレナリンが胸を駆け巡った。彼のエネルギーは感じ取れなかった――しかし、あの音は何だったのか?


思考が駆け巡る。


安易な捜索は、根本的に間違っていた。


私は即座に床に伏せ、崩れ落ちた巨大な瓦礫の塊――おそらく柱か壁の一部だろう――の陰に必死に隠れた。


かすかな音だったが、紛れもない音だった。


それはレイスに違いない。強力なレイスで、自身のエネルギー痕跡を隠す能力を持っている。


しかし、その存在そのものは前代未聞だった。


私はこの特定のタイプのアスペクトエネルギーに馴染みがなかった。それは異質で、抑圧的で、圧倒的だった。その力は途方もなく、空気を揺るがした。


私は探知能力を使って、その邪悪な力を測った。


私の感覚は二体の強力なレイスを感知したが、その源は一体だけのようだった。


私は仮設のシェルターの安全な場所から、慎重に外を覗いた。


それは一体のレイスではなかった。


私の目と研ぎ澄まされた感覚が確信した――二体の異形の、恐るべき高位のレイスが融合し、その邪悪なエネルギーが増幅され、純粋な破壊の塊となっていた。


その光景に息を呑んだ。


それは私がこれまで見た中で最も強力で、最も恐ろしいレイスだった。


その能力、弱点、そして圧倒的な破壊力について、全く見当もつかなかった。


なんてことだ。


興奮は、冷酷で決意に満ちた宿命論へと変わった。


任務は狩りから、生き残りをかけた絶望的な戦いへと変わった。


殺される前に、殺すしかない。

レンガの壁が、耳をつんざくようなアスペクトエネルギーの爆発音と共に崩れ落ちた。


衝撃波が広がり、破片や石の欠片が死の雹のように四方八方へ飛び散る。一瞬で周囲は、不透明な灰色の塵と砕けた岩石が広がるキノコ雲に覆い尽くされた。


6〜7メートルはあるレイスロード――巨大な節足動物と環形動物が融合した怪物――は、その破壊を瞬時に感知した。


複眼が爆発の中心へ向けられる。


そして、耳を裂くような金切り声と共に攻撃を開始した。


無数の蜘蛛のような肢が触手のように伸びる。剃刀のように鋭い先端が、恐ろしい力で私のいた場所へ叩きつけられた。


床が砕け、クレーターが生まれ、破片が舞い散る。


だが、あの爆発は単なる陽動だった。


ほんの一瞬、決定的な一秒を奪うためだけの。


レイスが地面を破壊した瞬間、私は灼熱の炎の波で反撃し、一瞬で怪物を包み込んだ。


炎がレイスを混乱させている間に、私は強力なアスペクトブラストをその巨体へ直接叩き込む。


轟音。


巨大な節足動物の脚が二本、瞬時に切断された。


黒い液体を噴き出しながら、床を滑るように転がっていく。


だが、勝利を実感する暇はなかった。


切断面から、新たな脚が芽生える。


完全に機能した肢が瞬時に形成され、硬化していく。


……この再生速度。


将軍級か、それ以上。


予想以上に厄介だ。


――神崎シュマの隠れ家・地下深部。


物語は、この対決の標的へと移る。


神崎シュマ。


その名は、近代魔術史における暗黒の脚注として刻まれていた。


この対決を仕組んだ張本人。


彼は生まれながらに、想像を絶する残虐性を持つアスペクトを有していた。


複数のレイスを捕獲し、融合させ、支配下に置き、唯一無二のキメラへと変貌させる能力。


それはブライト・フォージングの、残忍かつ異常な変種だった。


破壊へ堕ちる以前、シュマは天才――だが深く壊れた科学者だった。


彼の誇大妄想は常軌を逸していた。


求めるものはただ一つ。


徹底的な破壊。


シュマは知性、冷徹な無関心、そして強大なアスペクトを持っていた。


戦略的な暗殺者である彼は、役立たなくなった仲間を容赦なく切り捨てる。


単独で動く彼に必要なのは、捕獲したレイスの絶え間ない供給だけだった。


それによって、拡大し続ける恐るべき軍勢を維持している。


彼の存在は、ギャングや地下街を支配するベアラー・シンジケートにとって、真の脅威となっていた。


シュマが生み出した呪いは、ライバルの暗殺や作戦妨害に日常的に用いられている。


さらに彼は、他者が使役するレイスを積極的に奪い、吸収し、影から勢力基盤そのものを崩壊させていた。


――人物像:神崎秀馬。


痩せ細り、ほとんど虚弱に見える体格。


それは、長く影の中で生きる者によく見られる特徴だった。


肌は常に青白い。


そして最も印象的なのは、その濃い青色の瞳。


鋭く、計算高く、冷徹。


だがその奥では、紛れもない知的野心が燃えていた。


髪は真夜中のように深く長く、しばしば視線を覆い隠している。


常に影を落としたような男だった。


彼は真新しい黒い制服を身にまとっていた。


忘れ去られた過去の遺物。


厳重警備の核研究施設で働いていた頃の名残だ。


それは、彼が科学者だったことを静かに物語っていた。


年齢は二十代後半。


背が高く、痩せ型。


――神崎視点。


誰かが建物へ侵入した気配を感じた。


アスペクトエネルギーの微かな波紋が、設定していた探知範囲を越える。


だが、それは些細な苛立ちでしかない。


「構わない」


私は心の中で呟き、ゆっくりと笑みを浮かべた。


自信に満ちた、深く悪意を孕んだ笑み。


マサトが始末してくれるだろう。


マサト――私の初期、そして最も成功したプロトタイプ。


将軍級と二体の大佐級霊体を融合させた、私の才能の証明だ。


私は念じるだけで、その巨大なキメラを召喚した。


無言の命令を与える。


周囲を偵察し、不審者を排除しろ。


満足した私は、召喚地点へ背を向けた。


目の前の壁には、無数のモニターが並んでいる。


監視システムからのライブ映像。


この広大な廃墟施設全域に、私自身が設置したものだ。


……これは楽しめそうだ。


その言葉は、自分自身への静かな約束だった。


侵入者など、単なる娯楽に過ぎない。


短く、暴力的な幕間劇。


そして私は、次の創造物を完成させるという本来の仕事へ戻る。


椅子に腰を下ろし、見守る準備を整えた。


狩る者が、狩られる者へ変わる瞬間を。

私の視点:


「ちくしょう!」


鋭く、苛立ちを込めたため息が漏れる。


「こいつを倒す方法を見つけなきゃ。もう逃げ続けることはできない」


絶望的な状況が、必死の思考を加速させていた。


目の前の存在――グロテスクな影の触手と精神的恐怖のタペストリー――は、まるで容赦ない嵐だった。


衝撃波。


突き刺さる影の触手。


そして、恐怖を巧みに利用する陰険な心理攻撃。


私はハリケーンの中の木の葉のように翻弄されていた。


かろうじて適応しているだけだ。


筋肉は不自然な動きに悲鳴を上げ、回避するたびに意志が削られ、受け流すたびに疲労が死装束のようにまとわりついてくる。


「ちょっと手伝ってくれないか!」


私はなんとか言葉を絞り出した。


「お前が欲しがる怒りなら俺にある。今この世界で俺が何よりも望んでいるのは、この忌々しい奴を殺すことだけだ。だから、なぜお前の力を分けてくれないんだ! 楽しんでるんだろう?」


返ってきたのは、頭の中に響く狂気じみた笑い声だけだった。


見えたのは「何か」の笑み。


目から目まで裂けるように広がった、あの不気味な笑顔。


悪魔は怒りと殺意を持つ器に力を与えるはずだ。


だが、そいつは俺の命にも、誰の命にも興味がない。


望んでいるのは混沌と血だけだ。


その瞬間、致命的な隙が生まれた。


分厚く棘だらけの触手が毒蛇のような速度で襲いかかり、防御を貫いて右腕を突き刺す。


爆発的な激痛。


腱が裂け、骨がほとんど切断されるような、ぞっとする音。


レイスが触手を引き抜くと、鮮血が噴き出した。


私は激痛に耐えきれず倒れ込む。


大量出血と落下の衝撃で意識を取り戻した時、恐ろしい現実が私の世界を粉々に砕いていた。


口の中には金属のような恐怖と血の味。


荒い呼吸を整えながら、私は再び怪物を見上げた。


奴は攻撃命令を待っている。


まるで処刑人だ。


「お前はとんでもなく醜い。もううんざりだ」


もし、あの“何か”を引き出せたら――。


私は地面を蹴った。


猛スピードで飛び出し、怪物の頭部へ強烈な蹴りを叩き込む。


速すぎて、怪物は私の存在を認識することさえできなかった。


アスペクトを操り、肉を引き裂き、無数の四肢を切断する。


黒い液体が空中へ噴き出した。


抑え込んでいた怒りが、その瞬間、一気に解放される。


私は怪物の頭上へ跳び上がり、集中した炎の爆発をチャージした。


「さっさと死ね!」


最後の一撃。


圧倒的な破壊。


私は蓄積したエネルギーのすべてを解き放った。


眩い光が怪物の頭部から噴き出し、そのまま爆発する。


断末魔のうめき声が響いた。


だが――まだ終わっていない。


空気は依然として振動し、残留した暗黒エネルギーが漂っていた。


私は荒い息を吐く。


肺が焼けるように痛む。


舌には血とオゾンの味がこびりついていた。


あの攻撃の反動で全身の骨が軋み、肋骨にはズキズキと痛む痣が浮かび上がっている。


やがて紫と黒に変色するだろう。


……この狂った科学者を見つけなければ。


奴がレイスロードの軍勢を世界へ解き放つ前に。


あるいはもっと最悪な形で、俺だけに向ける前に。


奴には明確な目的がある。


恐るべき力がある。


そして何より、その力を躊躇なく行使する覚悟がある。


私はすでに、奴の支配領域の奥深くへ踏み込んでいた。


「――よくやった。感心したよ。そう言わざるを得ない」


声が重苦しい沈黙を切り裂く。


滑らかで、不穏な嘲笑を滲ませた声。


ゆっくりとした拍手が広大な空間へ響き渡った。


男は細身で、黒いコートを完璧に着こなしている。


周囲が瓦礫だらけだというのに、その服には汚れ一つなかった。


「だが、お前はマサトを殺した。だから、お前を殺さなければならない」


拍手が止まる。


空気が凍りついた。


まるで物理的な重みのような敵意が、私へ圧し掛かる。


気温が急激に下がった。


何気ない表情は消え去り、そこに残ったのは研ぎ澄まされた殺意だけだった。


「待て、お前、自分の亡霊に名前をつけてるのか?」


私は困惑と皮肉を混ぜて問いかけた。


その滑稽さは、ほとんど笑い話だった。


「おいおい、変な奴だな」


しかし、男は答えない。


代わりに、何気なく手を上げた。


次の瞬間、エネルギーが爆発する。


渦巻く影から、三体の新たなレイスが現れた。


どれもグロテスクな傑作。


恐怖そのもの。


生々しく凝縮された力を脈打たせている。


一体目――四本腕の巨獣。


二体目――宙を舞う昆虫型。


三体目――顔のない人型生物。青い炎に包まれていた。


どれも独自の能力を持ち、危険な存在感を放っている。


「逃げることも、身を守ることもできない」


男は落ち着いた声で告げた。


「お前はもう圧倒的に不利だ。ここでは全てが私のルールに従う。そして当然、お前も例外ではない。私はアスペクトエネルギーの流れを、この空間そのものを、出口を、そしてお前の運命を支配している」


彼は軽く手首を振った。


それだけで三体のレイスが解き放たれる。


空間そのものが歪み、私は攻撃の中心へ強制的に配置された。


逃げることも避けることもできない。


レイスたちは急がなかった。


流れるように私を包囲し、完璧な連携で攻撃を開始する。


青い炎。


凶暴な打撃。


鋭利な肢による切り裂き。


私の防御は瞬時に崩壊した。


……もう終わりだ。


これは戦いじゃない。


処刑だ。

「お前みたいな奴は、熊にとってのノミみたいなもんだ。ただただイライラさせるだけだ」


彼はそう言いながら、目の前の光景を冷めた興味で眺めていた。


「私には目的がある。破壊すること。現在の精神秩序を再構築し、真に自由なものへと作り変えることだ。人々は私を恐れ、私の才能を認めている。それなのに――それでもなお、お前のような者を送り込んでくる」


彼は小さく息を吐いた。


「哀れな暗殺者。弱々しいアスペクトを持ち、何の技量もない。これは侮辱だ。私の知性に対する侮辱だ。私は本当に人間が嫌いだ」


声は低く、純粋な苛立ちと憎悪に満ちていた。


だが、その口調だけは異様なほど冷静で、論理的だった。


彼の顔は変わらない。


虚ろで、完璧な仮面。


鋭く冷たい目だけが、私をじっと見つめている。


まるで、やかんが沸騰するのを待つかのような気楽さで、私の死を待っていた。


私など、やがて消し去られる取るに足らない計算に過ぎない。


――くそ、何かを使うしかない。


さもないと死ぬ。


こいつは本当に厄介だ。もう我慢できない。


これ以上何を望むんだ!


乗っ取れ。


さっさとこのクソ野郎を殺せ!


その瞬間、意識が途切れた。


目を開けると、現実の認識が崩壊していた。


私は二つの意識を抱えていた。


私自身の意識。


そして、耐え難いほどの怒りを湛えた凶暴な捕食者の意識。


頭蓋骨の内側で、狂気じみた笑い声と、「殺せ! 殺せ! 殺せ!」という叫びが絶え間なく反響している。


その声は耐え難かった。


飢えが私を蝕み、そして――支配した。


私はただの傍観者になった。


主体性を奪われたのだ。


浴場は血に染まっていた。


壁から滴り落ちる血。


天井から滴り落ちる血。


そして、自分の体からも滴り落ちる血。


背後では血管が浮き上がり、うねりながら武器のように蠢いている。


敵を掴み、締め上げ、突き刺すため、いつでも動ける状態だった。


顔の半分は、悪魔のような異形に変わっていた。


不自然に大きく裂けた笑み。


そこには百本もの剃刀のような牙が並んでいる。


狂気じみた悪魔の笑い声が、私の口から漏れた。


喜びと恐怖が入り混じった笑みが顔に固定されている。


サディスティックで、狂気に満ち、完全に理性を失っていた。


神崎がショックで理性を失った瞬間、亡霊たちは数秒のうちに消え去った。


私は全身に血を滴らせながら立っていた。


目は赤く光っている。


神崎が悲鳴を上げた。


私がゆっくりと近づくと、彼の融合した亡霊たちは自らを引き裂き始めた。


血管が肉を裂き、血が体内で爆発する。


「待て!」


彼はよろめきながら後退し、自分の体を掻きむしる。


縫い合わされた亡霊たちは次々に裂け、床に触れた瞬間、深紅の霧となって溶けていった。


私は急がなかった。


彼が私の血に溺れていく光景は、純粋な喜びを与えてくれた。


「私を見ろ、神崎修馬。これが殺人者の顔だ。もしお前が、自分は偉大で、人々がお前を恐れていると思っていたのなら――はっきり言っておく。お前は私に比べれば何でもない」


私の顔は冷たい。


無表情だった。


声には、冷酷さと絶対的な権威だけが宿っている。


神崎の顔は恐怖そのものだった。


彼は床にうずくまり、目で命乞いをしていた。


次の瞬間――血に染まった現実そのものが剥がれ落ちた。


浴場は深い傷跡を残し、永遠に歪んだ姿へ変わっていた。


清田の姿は見えない。


だが、彼はすべてを見ていた。


遠く離れた屋上。


障壁の下に隠れ、蜘蛛の糸のような監視網を張り巡らせた亡霊たちに囲まれながら、黒雲清田は東京へ流れ込んでいく私の狂乱を見つめていた。


「あれは洗練ではない。あれは自己主張だ」


彼の声は冷たく、断定的だった。


部下の一人が唾を飲み込む。


「ボス……報告書には記載されていませんでした」


清田の唇が歪んだ。


「当然だ」


彼は背を向ける。


コートが夜風に揺れた。


「彼女のような力は……」


彼は静かに呟く。


「世界の方が、彼女のために動く」


場面は薄暗い地下室へ移る。


黒を基調とした豪奢な空間。


かすかな赤い光が影を際立たせ、輪郭だけを浮かび上がらせていた。


一人の女が黒い玉座に座っている。


赤い目が暗闇の中で鈍く光った。


「そうね。池に新しい魚が入ったわね」


彼女はゆっくりと笑みを浮かべる。


「彼女が気になるわ。行って探してきて。生きたまま連れてきてほしいの」


場面は再び浴場へ戻る。


私は血だまりの中に立ち、息を切らしながら、無残に破壊された死体を見下ろしていた。


再び場面が変わる。


装飾された部屋。


かすかにクラシック音楽が流れている。


清都はソファに深く腰掛け、くつろいだ姿勢で顎を拳に乗せていた。


片足を肘掛けに投げ出している。


「それで、彼女をどうするつもりだ?」


信頼する部下の一人が尋ねた。


「彼女を手元に置いておくつもりだ」


清都は笑みを浮かべたまま答える。


声には興奮が滲んでいた。


「これまで見てきた限り、彼女には大きな潜在能力がある。武器として使える。そうなれば、彼女を使って残りのギャングを始末できる」


場面が切り替わる。


私は建物から出て、方向感覚を失ったまま道を歩いていた。


全身血まみれ。


怒りに燃える目。


「私が直接彼女を訓練する」


清渡は黒いアスペクトエネルギーに光る指先を見つめながら言った。


「彼女は私たちを必要としている。私たちも彼女を必要としている。だから、彼女を制御するのは問題ないはずだ」


焦点が戻る。


私の目のクローズアップ。


「それに……」


清渡は少し間を置いた。


「彼女には尋常じゃない何かがある。古代の力の源。膨大なアスペクト力。それは私のものより、はるかに大きい」


私の目が赤く光り始める。


瞳孔が収縮し、縦長に裂けた。


「そして、それが彼女を強くするのだ」


場面は再び切り替わる。


清田の顔のクローズアップ。


細められた黄色い瞳。


そして、彼は静かに呟いた。


「権力は好きだ」



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