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獣の腹の中

「内なる次元」

「密輸業者の闇市場」とも呼ばれるこの場所は、廃墟となった建物の地下に潜んでいた。


朽ち果てた地表は、地下で行われる秘密の活動を隠すにはうってつけの場所だった。


「ふむ、ここはよく隠されているな」


私は呟いた。


「感心した」


かつて劇場だったと思われる建物の一つに足を踏み入れた。


物音を頼りに、汚れてひび割れた階段を下り、建物の奥深くへと進んでいった。


古い小道具や衣装の残骸が散乱する倉庫を通り過ぎ、ついに最下層、地下室にたどり着いた。


そこでは、分厚く頑丈な金属製の扉を叩く耳をつんざくような音が響き渡っていた。


私はしばらくそこに立ち尽くした。


「ノックなんて馬鹿げてる」


「扉が開いた瞬間に殺される」


考えをまとめる間もなく、ドアの向こうから声が聞こえた。


「誰だ?」


その声は細く、かすれていて、全く予想外だった。


地下組織のメンバーから、こんな声を聞くとは夢にも思わなかった。


驚きと戸惑いの中、私は答えた。


「えっと…私です。」


冷や汗が噴き出すほどの緊張した沈黙の後、ドアが開いた。


下を見ると、そこに小柄な男が立っていた。


鼻が長く曲がっていて、丸眼鏡をかけていた。


彼は不安そうで、もしかしたら私を見て怯えているのかもしれない。


その様子を見て、私は居心地の悪いほど自己意識過剰になった。


「きっと新米だろう」


哀れみと皮肉が入り混じった気持ちで、私は彼の横を通り過ぎながら思った。


そして、目の前で起こったことは、驚くべきものだった。


そこは路地と建物が迷路のように入り組んでいて、どれもこれも「怪しい商売」を物語っていた。


老朽化したアパートがいくつか見え、おそらく国内で最も指名手配されている者たちが潜んでいるのだろう。


通りには邪悪な亡霊や、あらゆる種類の狡猾で危険なアスペクト使いがうようよしていた。


権力や利益のために持ち場を捨てた裏切り者たち、

用心棒として働く大柄な武装したチンピラたち、

そして、他の場所へ追いやられるほどでもない取るに足らない小悪党たち。


履き古したブーツの下の土には、古びたビールと血の悪臭が漂っていた。


目に見えない、しかしはっきりと「よそ者」と叫ぶ標識が、私の体に刻まれているのを感じた。


このコンクリートジャングルに潜むあらゆる悪党にとって、私は真っ赤な標的として烙印を押されているのだ。


私は戦う覚悟だった。


しかし、奇妙なことに、誰も攻撃してこなかった。


誰も私に睨みをきかせたり、止めようとしたりしなかった。


その時、ふと気づいた。


この場所では、入り口を通り抜ける勇気、あるいは単なる力さえあれば、誰も私に手を出さないだろう――少なくとも今は。


「必死に見えるな」


背後から声がした。


「必死な人間はこだわらない」


「ついて来い」


振り返ると、暗い路地裏に消えていくマントだけが見えた。


私は後を追った。


狭い路地に入ると、影の威圧的で好奇心に満ちた視線と目が合った。


私は怖くも怯むこともなかった。


自分の力は分かっていた。奴らが正面から来るなら、いくらでも相手になれた。


マントをまとった人物は地下室の扉の前で立ち止まった。


私が彼女の目の前に立つまで、彼女は何も言わなかった。


「仕事はここよ。」


彼女はそう言った。顔はマントの下に隠れていたが、敵意は全く感じられなかった。


彼女は私を先にドアから入れ、それから後からついてきて、後ろでドアを閉めた。


火を灯すと、床を這いずり回るレイスたちが見えた。


それらは下級のレイスで、危険な存在ではなかったが、数が多かった。


「仕事は簡単だ。」


薄暗く湿った地下室に、背後から声が響いた。


「下級のレイスを捕らえて、クロクモ会に届けろ。」


「監視ツールとして使うんだ。」


「簡単なはずだ。」


最後の言葉には、強い皮肉が込められていた。


「仕事が終われば報酬を払う。」


そして、その最後の簡潔な言葉を残して、彼女は歩き去った。


彼女の足音が、上へと続く石段にこだまする。


「待って!」


私は叫んだ。


「黒蜘蛛会って何者?どこにいるの?」


彼女は階段でぴたりと立ち止まった。


ゆっくりと振り返った彼女の表情には、信じられないという思い、苛立ち、そして露骨な軽蔑が入り混じっていた。


「黒蜘蛛会を知らないの?」


私が答える間もなく、彼女は軽蔑するように言葉を続けた。


「何も知らないくせに、よくもまあこんなところへ入って来られたわね。」


彼女は鼻で笑った。


「黒蜘蛛会は、裏社会を牛耳る三大ギャングの一つよ。」


「暗殺の腕前で知られているわ。」


「縄張り意識が強く、極度の偏執狂な集団なの。」


「最も暗く、最も強力なアスペクトの一つとも関係があるのよ。」


「本部はインナーサークルの南西の角にあるわ。」


「必要な情報は以上よ。」


そして、現れた時と同じように、彼女は忽然と姿を消した。


ゆっくりと、計算高い笑みが私の顔に広がった。


それは、厄介な事態を予感させる笑みだった。


「思い通りに事が進んでいる」


私は独り言ちた。


「さて、お前らクソガキども、誰が俺について来るんだ?」


私は暗い空間を見回した。


埃っぽい隅に、小さな虫のようなレイスがうずくまっていた。


体は乾いた泥のような色をしている。


不気味なほどカニのような脚と、かすかな光を反射する巨大な球状の目。


正直なところ、ぎこちない動きと好奇心に満ちた視線は、ほとんど…可愛らしかった。


「これは簡単なはずだ」


しかし、そうではなかった。


そのレイスは、レベルが低いにもかかわらず、驚くほど俊敏だった。


捕まりたくなかったのだ。


地下室の床を素早く動き回り、私の不器用な捕獲の試みを、いらだたしいほど簡単にかわしていく。


「動き回るのやめろよ、くそが!」


我慢の限界に達し、私は怒鳴った。


「もし今誰かが、俺が小さなカニ虫を追いかけているところを見たら、腹抱えて笑ってるだろうな。」


作戦を変えた。


虫が近づいてきたところで、私は飛びかかり、その上に飛び乗って小さな生き物を押さえつけた。


虫は情けない、甲高い鳴き声を上げた。


「捕まえたぞ!」


「悪いな、でも金が必要なんだ。でも、お前が食事代になるくらいの価値はあるといいんだけどな。」


息苦しい地下室を出て、ひんやりとした暗い路地へと足を踏み出した。


私の目は、不自然なほど鮮やかなピンク色に、かすかに光っていた。


もがき苦しむレイスを抑え込んでいる私のアスペクトの発現の視覚的な兆候。


今度は、影たちはただ見つめているだけではなく、まるで自ら深い闇へと忍び寄っているかのようだった。


私の存在だけで闇が退却するという事実に気づき、私の顔には深い、喜びに満ちた暗い笑みが浮かんだ。


「いつかこいつらは私を恐れるだろう。」


「さて、内輪はどこだ?」


私は通りを急ぐ一人の人影を見つけた。


「おい、お前!」


私の声が夜の闇を切り裂いた。


「クロムノ会はどこにいる?」


通りすがりの男はびくっと身をすくめ、震える声で震える指で道の先を指さした。


「あ、あ、数ブロック先です。」


彼は、いわゆる「内側の円」のすぐ外側に広がる、巨大で威圧的な石造りの建物を指差した。


私は彼にそれ以上何も言わず、彼が指差した方向へ、ただ目的を持って歩き出した。


ようやくその威圧的な建物にたどり着いた時、突然、冷たい圧力が首の後ろに押し付けられた。


私は即座に立ち止まった。


紛れもない銃口の感触だった。


「お前は誰だ?何が目的だ?」


私の真後ろから、低く響く声が聞こえた。


それは、明らかに威圧的で、任務に真剣に取り組んでいる、巨漢の男の声だった。


「クロムノ会の責任者に会いに来ました」


私は、銃によるわずかなアドレナリンの上昇を一切感じさせない、冷静で、完璧なまでに落ち着いた声で答えた。


「彼に何の用だ?」


男が弾丸を装填する音が聞こえた。


「彼に届け物があるんだ」


「彼は私を待っている」


彼は武器を下ろした。


「どうぞ」


警備員を振り返ることもなく、私は建物の中に入った。


それは無骨で簡素なコンクリート造りの建物で、殺風景で近寄りがたい雰囲気だった。


明かりも装飾も家具もほとんどなかった。


私は入り口で立ち止まった。


背が低く、がっしりとした体格で、禿げ頭の男が、漆黒の瞳と細い口ひげを蓄え、暗闇から現れた。


彼は、つい先ほど激しい尋問を終えたばかりのようなオーラを放っていた。


彼は私の目の前に立ち止まり、私が手に持っていた小さくうごめくレイスに視線を落とした。


そして、ゆっくりと、獲物を狙うような笑みが彼の唇に浮かんだ。


「それを自分で捕まえたのか?」


彼はそのレイスの方を指差し、驚きと感嘆の入り混じった声で言った。


「いくらで売るんだ?」


私は単刀直入に切り返した。


彼は再び笑みを浮かべた。


私の大胆さと無礼さに明らかに面白がっているようだった。


「さあ、私のオフィスで支払いを済ませよう。」


私は彼について行き、短く暗い廊下を進み、小さな、頼りないデスクランプだけが灯る小さな部屋に入った。


「あそこの檻に入れてください。」


彼は書類の山から目を離さずに、部屋の隅にある小さな鉄格子を指さしながら指示した。


「これで君の苦労は報われるだろう」


テはそう言って、分厚い札束を私に手渡した。


視線は机の上の書類から動かない。


私は札束をひったくり、ポケットにしまい込み、踵を返して立ち去ろうとした。


「この辺の人間じゃないな?」


彼はようやく顔を上げ、私の歩みを止めた。


「一体何の用だ?」


「恐れられるために来た」


私はそう簡潔に言い放ち、その言葉を薄暗く淀んだ空気に漂わせた。


そして私は部屋を出た。


担当者は何も言わず、ただ私の後ろ姿を見送った。


彼もまた、この街の誰もがいつか理解するであろうことを悟っていた。


私は、決して侮ってはいけない存在なのだと。


夜の空気の中へ再び足を踏み出し、立ち止まってクロクモ会本部の巨大で威圧的な建物を見上げた。


それから視線を街の暗闇へと移した。


「さて、次の仕事だ。」


私の目は細められた。

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