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儚桜角物語

改変お許しを…!!



「ゆっちゃーん」


お昼休憩。

食堂で並んでいたら後ろから

振り返れば裕希夏ちゃんが手を振っている

水色のランチバッグを持って人混みをかき分けて来た


「お疲れ様ぁ 裕希夏ちゃんもこっちでご飯?」


「まあそんなとこ。ゆっちゃんと一緒に食べようと思ってさ、良い?」


「いいよお、先に席取っておいてくれる?」


「あいよ」


親指を立ててにっかり

昼間の混む時間帯。少し端の二人席を足速に確保した

自分も食券を見せて定食を受け取る

今日の日替わりは塩唐揚げだった


「ありがとうございまーす」


手渡してくれた人にお礼。

こちらも足早に人波を避けながら

席の裕希夏ちゃんはお弁当を広げている

葱やおかかのご飯、ほうれん草の煮浸し、ミニグラタン、トマトにつやつやの卵焼き。スープジャーにはお味噌汁


「わあ、凄い。全部作ったの?」


見ているだけでお腹が鳴っちゃいそう


「流石に冷食もあるけどね 卵焼きは自信作よ」


「いーなー」


「ふふん その唐揚げとなら交換してやらんでもない」


悪戯に笑いながら。乗らない手も無い

席に着いて早速一つ交換

温かいご飯の上へ乗せる


「それじゃ、いただきますっ」


「いただきまーす」


手を合わせて挨拶

早速卵焼き。甘くてふわふわ

噛む度の魚介出汁が旨みが広がる

ご飯の熱で温まった所がまた、風味が増して美味しい

一緒に頬張らずにいられなかった


「あっはは 美味しそうに食べるなぁ、ゆっちゃんは」


裕希夏ちゃんは上品に一口ずつ。

煮浸しを丁寧に摘んでおかかご飯と一緒に食べている

それが何とも、美味しそう。

二つとも作り置きしていると以前話してくれた


「もー、温かいの食べてるでしょう?」


困り顔。

そりゃそうだ、ちょっと見入って箸が止まっていたから


「えへへ でも凄いなあ、こんなに美味しいの作っちゃうなんて」


「少しずつ楽しながら、だけどね?卵焼きだけは毎日焼いてるよ」


「へぇ、私じゃこうはならないや…」


卵焼きは砂糖、醤油、魚介出汁の卵液を高温で。

それがふわふわのコツだとか


「そういえばゆっちゃん、作る話は聞かないわ」


「苦手なんだあ。濃かったり火を通し過ぎたり…特に煮込み料理?が苦手。カレーとか」


味が濃い、欲張り過ぎ

煮物は薄めて食べるが正解、カレーは特にそう言われる

裕希夏ちゃんは『ゆっちゃんらしい』と笑っていた


「そういえばさ?この間の宅飲み。結局燈魔さんの事聞きそびれちゃったわ」


「ああ、確かに」


「ねえ、改めて聞かせてよ。出会いはエレベーターでしょ?再会は?」


そういえばそうだ。

結局職場の愚痴、出来上がった智美ちゃんの話で盛り上がったんだっけ

燈魔は酔った二人の間でにこにこしていたけれど。


「うーんそうだな…」


どの道詳しくは言えない。

色々と事情があり過ぎる


「…花、花屋さん 駅前の花屋さんで偶然ね。」


普段の燈魔。

いつも朗らかに笑っている。

様々な後ろ姿で優しく緩やかに話す彼


花の世話をする姿。

花を『子』と呼び、木を『赤子、お嬢さん』と呼ぶ

燈魔にとってはそれ同然。

慈しむ姿がすっかり馴染んでいる 

当然、鉢を抱えた燈魔も同じ位。


「へえ。確かに、かなり好きみたいだものね?最初、子供みたいな言い方でびっくりしたわ」


「まあね、はは」


出産祝いまで出されそうになった。

数日経っても笑い話に出来るのが幸せ。

これだけは何があっても暫く忘れなさそう


「普段からああいう感じ?なんかゆったり詩的というか…うん、古風っていうか」


「えーと…それは……」


「もしかして、そういう研究してる人?百人一首とかさ」


「あ、そうそう。それっ 専門家みたいな?」


彼の角もそう。

幾らでも誤魔化せる世の中

改めて便利が過ぎる


「しかもあれで確か…四十歳?美魔女ならぬ美魔男(びまだん)ってやつ?優しいし気も利くし、こりゃさっちゃんも羨ましがるわ」


「そういえば合コンだっけ?あれからどうしたんだろ」


「大して言わないって事は…ま、ソユコトでしょ」


お互いにお味噌汁を一口

心做しか塩味が強かった


「あ。そうそう 訊きたい事があってさ?コレ一番聞いてみたくて」


こほん、と咳払い。

前のめりで真剣な眼差しが飛んでくる

 

頭の中で回答を幾つも準備

ちゃんと身構えたかったのに、ぐるぐるする単語達に纏まりが無い

あまりに真っ直ぐな視線が飛んで来る

冷や汗を垂らすか目を逸らしそうになった


「燈魔さんってさ、何処出身?」


「……うぇ?」


素っ頓狂な声を上げてしまった


「まあ、何となく? 同棲してるんだし、知ってるかなぁってさ」


そう言えば知らない。

そもそも故郷という物に無頓着過ぎて、全く話題に出した事も無い

実際、方言もよく分からなかった

あまりにも古風に話すから。


「うーん…知らないなぁ あまり故郷とか拘りなくて」


「ありゃ、まあそっか。引越し繰り返してたんだっけね」


「まあね、ははは」


話している間も箸は進む。

味気ない内にお互い唐揚げが最後の一つ

ゆっくりするつもりが食べ終わってしまった


「ふう、ご馳走様ぁ」


「ご馳走様。やっぱいいわね暖かいご飯」


おかずだけでも違う

そう笑う彼女は最後にお茶を一口飲んでいる

細めている眼はほんの少し遠くを見ている気がした


「一人だとどうしても、自分で作らなきゃ無いもんね」


「それ。アタシもそろそろ良い男見つけなきゃかしら?ご飯作ってくれる彼氏さん」


「大丈夫だよ、裕希夏ちゃんならすぐ見つかるって」


「はは。なら、さっちゃんと合コン行ってみようかな?あ、取り分け要求する奴はNGねっ」


顔の前で爽快なバッテン

言葉より先に吹き出してしまった


「ああ、ますます羨ましいなぁゆっちゃん。それに燈魔さんってなんか…アタシが好きな昔話の人にそっくりでさ?余計にそう思うわ」


「昔話?」


「そ。言い方は幾つかあるらしいんだけど。アタシが教わった名前は『儚桜角物語みょうおうかくものがたり』ってやつ」


『儚い』に『桜』、『角』

空中に文字を書いてくれた


「みょう、おう、かく……うーん、初めて聞いたなあ。どんな話?」


「ああ、話したいけど時間がねぇ……ほら。」


青いベルトの腕時計

12:45。

ゆっくり聞きたいのに、昼休憩の終わりまでもう十分と少ししか無かった

お互いに食べた物を片付け始める


「気になったら調べてみて。あ、専門なら燈魔さんの方が早いかな?」


「んん、そうかも?調べてみるね」 


食器をお盆の中で組み合わせながら。

裕希夏ちゃんはウィンクしながら親指を立てていた


「じゃあアタシちょっと先に行くね。打ち合わせでさ」


「はぁい。お話ありがとう、お昼も頑張ってね」


裕希夏ちゃんは忙しなく、手を振って行ってしまった



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