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普通の日々、肆

行き当たりばったりあるある


色々描写を前後させる



「でさあ、営業部の男連中がさぁ なーんかしつっこいなぁと思ったのぉ。そんで聞いてみたら、いっちゃんしつこいヤツの元カノに似てるーとか言っちゃってぇッ」


「なんですかそれぇっ 関係ないでしょぉ、見苦しいですぅっ 元カノが何だって言うんですかぁ女々し過ぎですよぉ」

 

二人がすっかり出来上がってる

智美ちゃんは半端に残った缶を揺らしてご機嫌

明日香さんは半目で少し饒舌。毒舌で良いかもしれない


「あー、そりゃアタシでも引くわあ 元カノ恋しいなら復縁しちまえってな」 


裕希夏ちゃんは顔を赤らめもしてない

彼女はいつも一番飲むし強い

本人曰く、飲み比べで負けた事が無いんだとか


「でもさ、本当に酷いし不思議だね。どうして元カノと比べるんだろ」


自分のチューハイ缶を傾けながら。

洋梨の甘い香りが鼻を擽る


「逃した魚が大きいんだろうさ?ま、未練タラッタラって事よ」


「全く未練がましぃですっ 女らしさ求める前にぃ、まず男らしさを突き詰めるのが道理でしょぉっ」


冷静な裕希夏ちゃん

それを他所にばんばんと机が叩かれる

久しぶりだなあ、なんて。

ここまで騒ぐのは滅多にない

成り行きで誘われた燈魔はほろ酔いの二人に挟まれている


「賑やかや 今の姫君 活きが良い」


コップへ丁寧に水を注いでいる

時々肩が当たるのも気にしない。それよりは水が大切みたい

静かに少しずつ嗜んでいた


「姫君だってキャーッ もーアテシもさ、甘酸っぱい恋したいよぉっ 営業部の男なんかゴメンだけどぉ」


「恋愛って言えばさ、ゆっちゃんと燈魔さん何処で知り合ったのよ 前に言ってた彼氏って…燈魔さんだっけ?」


裕希夏ちゃんを合図に視線が集まる

冷や水でも背中に入ったかと思った


「あ、アテシもそれ気になってたぁ でもさぁ?同棲でしょお、結構前から付き合ってたんじゃなぁい?」


「あまりお話しませんものねぇ そこはどうなんですか東坂さぁんっ 燈魔さんも詳しく聞かせなさぁいっ」


「明日香さん、飲みすぎ…っ」


智美ちゃんも食い気味ですっかり話題の的

言い訳を考える

たった数秒でさえ延々と長い

そして凝視もされる

三人の注目をそれだけ煽ってしまった



『早く逃げ─────』


脳裏に焼き付く光景

暗闇が呑み込んでいく

突き飛ばされた感触、痛めた手足。

今でも、はっきり思い出せるあの感覚

身体の芯が震えて仕方ない、絶叫なんかじゃ収まらない恐怖

心臓が凍りそうになる


正直になんて話せない

経緯だってめちゃくちゃ過ぎてきっと信じないだろうし


「真由里殿 包み隠さず 構わぬか?」


一応、燈魔に目配せ。

返った笑みでさえ余計に誤解を招いた気がする


「顔合わせ 巡り合わせの ひと時よ 初の合わせも 幼子なれば」


「わあ、ちょっと、わあっ」


気遣いに歓声が黄色く上がった

酔った人達にそんな話題は肴でしかない

心細い暗闇でずっと構ってくれていたお兄ちゃん

本人から出会いをゆったり話されるだなんて。

嘘みたいな本当が顔を真っ赤に染め上げた


「えーロマンチックぅ エレベーターで声掛けてくれてたとか?最高じゃぁんっ」


「うぇ、あっ うん。そうそう、そうっ 閉じ込められちゃって」


「しかもあのショッピングモール?結構怖いで有名じゃん。よく子供一人で行ったよね」


現実味の補填が効いた

お酒も手伝って都合がいい。

上手い具合に話も逸れた


「うん。お遣いだったの 乗ってたら急に…あれ?あそこ、そんな昔から怖いの?」


「そうですねぇ ずっとあんな場所でしたよぉ。東坂さん、ご存知なかったんですか?」


明日香さんが小首を傾げる

本当にニュースで知ったから驚いた。

出身は四国の方、ある程度までは関東のココ

友達も居ないし深くは関わらない


「昔の事は…転勤族で。近所付き合いも無いし、ここに帰ってきたのも偶然っ まさか廃墟になってたなんて」 


実際そんな学生時代だった。

だから彼氏ともそれで何度か別れそうになった

淡白すぎるって理由だけれど


「なんてゆーかあるよねえ、運命ってさぁ」


智美が缶の残りを飲み干しながら

達観した顔付きが少し可笑しかった

皆でからからと笑いながら時計を見る

時間は二十二時過ぎ。あっという間に三時間は経っていた


「あら、もうそんな…お暇しなければいけませんねぇ」


「だなぁ、終電も間に合うし」


「あーんもう帰るのぉ、やだぁっ」


口々に手荷物を仕舞いながら。

ゴミまで持ち帰ろうとするのだから優しい

置いていって良いと言えばお礼の言葉で返される


「真由里殿 帰りとならば 見送りを」


燈魔も彼女達の支えになりながら立っていた


「公園まで行くよ 燈魔も来てくれる?」


「論無くよ 先に行っては くれまいか 子らが少々 呼んでいる」


「いいなぁ、彼氏いいなぁ。アテシも明日ぜぇったいいい男捕まえてやるぅッ」


はいはい、と裕希夏ちゃんに慰められてる

智美ちゃんは小柄だから小動物みたい。

明日香さんも肩にそっと手を置いて応援していた


「じゃあ、燈魔。先に出てるよ」


「あい承知」


小さく振る手が賑やかな背中を見送った




「足元気をつけてね、暗いから」


二人の後ろを歩く

裕希夏ちゃんは後ろから付いてきた。前の二人はほろ酔いだからゆっくり。

お陰で普段見る公園や街並みが良く見える

夜の公園も見慣れてるのに、少しだけ新鮮な気分だった


「そういえば、ここ暗いよね。街灯少ないしさ」


かつかつ、と。それぞれの足音を聞きながら

裕希夏ちゃんが周りを見渡している


「というよりさあ、アテシ最初っから気になってたけど」


「東坂さん以外、お住まいじゃありませんよねぇ」


「え」


思わず漏れた声。後ろからも聞こえた


「いやあほら、見てみ?頼りなーい門灯だけじゃん?二階の、真由里ちゃんだけよぉ」

 

「…本当だ」


確かに

生活音も現代らしい無関心のソレと思っていた

昼間は特に誰とも会わない


それでも思い返せば閑静が過ぎる気がする


「まあここなーんも無いしね、コンビニとかスーパーも少し遠いじゃん」


かつ、かつ

階段を降りる

前の二人が少し盛り上がってる

足早に降りきった。砂利の音に変わる

自分もあと数段、裕希夏ちゃんもそう


かつ、かつ

かつ、かつ

かつ、かつ


「…………………あれ」


燈魔かも。

いや、それなら声を掛けてくる

よく呼ばれるからわかる


かつ、かつ

かつ、かつ

かつかつかつかつ


強くネックレスを握り締める


いや、住人かもしれない

誰も住んでいないと言ってたけど、ただ昼寝でもしていて起きたなら。

あまりにもゆっくりで騒ぐ自分達

急かされたっておかしくない

それとも、燈魔が脅かそうとしてる


でも違ったら。裕希夏ちゃんが無防備だ

勢いを付けて振り返る


「ゆっちゃん」


寸前。裕希夏ちゃんが覗き込んで来た


「─────さっきのハンカチ、アタシもちょっと気に入ってるんだ 可愛かったでしょう?何回でも洗濯出来るって店員さんがね。」


「え、あ」


「だから、長く使ってよ。アタシもそうしてくれたら嬉しいな」


手を引かれて一緒に階段を降りる

足音は、無くなっていた


「お二人ともぉ、どうしたんですかぁ?」


「転んでなーい?大丈夫ぅ?」


「大丈夫大丈夫、暗いからゆっくりしてたのよ」


行こう、と背中も押された

数歩歩いてから扉の音。


「あ。燈魔さぁん、足元お気をつけてぇ」


明日香さんの声掛け

燈魔が今、玄関から出てきた


「恙無く 細の気遣い 有り難し」


マイペースに降りながら微笑んでいる

忘れそうだけれど、身体はマネキン

降りる姿も姿勢が良すぎてモデルみたいになっていた


「あーん素っ敵ぃ 燈魔さんカッコイイッ 歳も離れて無さそうで…そいえばおいつくなんですかぁ?」


一斉に視線が集まった

確かに知らない。燈魔の歳

階段を降りきった彼は何度も指折りで数え始めた


「生まるるは 名も無き者の 気紛れや 数うる四十の 人の代」


詩的というより、詩

難しい

小首が一斉に傾いた


「言う手前 時は亥の刻 夜闇かな」


スマートフォンや腕時計を見合わせる

経って五分程度。

いちばん早い電車ならあと二十分


「あ、皆さん急ぎましょう、電車がもうすぐですっ 東坂さん、今日はありがとうございました」


「急ぎなさんなあ、間に合うから。それじゃあここで解散しよ ゆっちゃん、今日はありがとね」


「アテシも楽しかったよっ ありがとねーっ」


去っていく彼女達を笑顔で見送った


「裕希夏殿」


その背中を燈魔は足速に追いかける

裕希夏ちゃんも振り返って燈魔と顔を見合わせる

彼女はほんの少し目を見開いて、それから二人を追いかけた

燈魔もほんの一分としない内に帰って来る


「裕希夏ちゃんに用事?」


「済んだ故 気にせず部屋に 戻られよ」


肩に手を添えられて階段へ

騒いでいたせいか、一気に押し寄せた静寂が足音を大きく聞かせて来る


「ねえ、さっきの話。あれ、いくつって事?」


燈魔の五七五、時には加えて七七

話せばずうっと詩

言葉遣いも古典的。はっきりとした意味までは分からなかった


「今世とは 幾度と重なる 歳月の 千代も数うは 曖昧よ」


「ふぅん…?」


やっぱりふわふわ

輪郭がつかない

公園の樹で"お嬢さん"

祠だって雨風を凌いでも廃れていたから余計。

千代も何処までが本当なのか

正確な年月がハッキリしない


「真由里殿 さあ入られよ 肌に寒い」


考える内に階段を上がりきってしまった


「ああ、ありがとう」


朗らかさに包まれながら、首を傾げて明るい部屋へ帰った

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