表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神商天秤 〜黄金の秤を継ぐ者〜  作者: エピファネス
第十二章 楚天動乱編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

218/220

第二百十四話 偏り

 歪みは、均等ではなかった。


 これまで散在していた遅延は、徐々に形を変え始めている。各所で起きていた小さな揺れが、互いに影響し合いながら、ある一点へと流れ込むようになっていた。


 それは偶然には見えない。


 だが、意図と断じるには、まだ根拠が足りない。


 その曖昧さが、判断を鈍らせていた。


 報が入る。


「前方第三補給線、遅延が累積。輸送が滞りつつあります」


 第三補給線――主道に並行する形で設けられた中規模の輸送路である。主幹ではないが、負荷を分散するための重要な支線だ。


 呂明は即座に地図を思い浮かべた。


 主道、側道、河川、補給拠点。それぞれが結びつき、一つの網として機能している。その中で、第三線は“余裕”を担う位置にあった。


 本来ならば、多少の遅延があっても問題にはならない。


 だが――


「どの程度だ」


「半日分の滞りが出ております」


 半日。


 無視できない数字である。


 呂明は、わずかに視線を落とした。


 連鎖が、ここに集まっている。


 橋での遅延。側道でのぬかるみ。誤った優先順位。すべてが微細なものであったはずの歪みが、第三補給線に集中している。


 偶然か。


 それとも――


「……切り離すか」


 思考が走る。


 第三線を一時的に遮断し、主道へ負荷を集約する。そうすれば管理は容易になる。流れも単純化され、再構築は早い。


 だが、その代償として主道への負荷は増大する。


 わずかな逡巡。


 そして、決断。


「第三補給線を閉じる。主道へ集約しろ」


 命令は、即座に伝わる。


 伝令が走り、旗が上がり、指示が波のように広がっていく。


 各隊は従い、第三線の輸送は停止され、物資は主道へと流し込まれる。


 一時的に、流れは整う。


 複雑だった構造が単純化され、指示は通りやすくなり、無駄な往復も減少する。


 兵たちは安堵する。


 将たちもまた、事態の収束を感じ取る。


 だが――


 重くなる。


 主道に流れ込んだ負荷は、目に見えぬ形で積み重なっていく。


 一つ一つは問題ではない。


 だが、量が違う。


 車輪の軋みが増える。


 馬の息が荒くなる。


 兵の足取りが、わずかに鈍る。


 それでも、止まらない。


 流れは続く。


 だが、その内部で、確実に余裕が削られていた。


 呂明は、それを感じていた。


 判断は間違っていない。


 むしろ最適であるはずだ。


 複雑さを削ぎ、管理を容易にし、遅延を収束させる。


 だが――


 何かが、違う。


 天秤を思い浮かべる。


 均衡を測る。


 数は、安定を示す。


 だが、その針が、わずかに重い。


 沈んでいる。


 理由は分からない。


 だが、確かにある。


 呂明は、目を細めた。


 視線の先で、主道の列がゆっくりと進んでいる。


 整っている。


 乱れてはいない。


 だが――


 軽くはない。


「……寄せられたか」


 その言葉は、ほとんど無意識に漏れた。


 歪みが、ここに集まっている。


 いや――


 集められた。


 その可能性が、初めて明確な形を取る。


     


 丘の上で、その変化を見ている者がいた。


 呂南衡は、主道へと流れ込む列を静かに見つめている。


 第三補給線が止まった。


 想定通りである。


 複雑さに耐えきれず、単純化を選ぶ。


 それは合理であり、同時に――誘導でもある。


「……寄せたな」


 小さく呟く。


 分散していた負荷が、一点に集まる。


 それは管理しやすい。


 だが同時に、壊れやすい。


 これまでの歪みは“広がり”であった。


 だが今、それは“重さ”へと変わる。


 主道が、すべてを抱える。


 その状態で、さらに一手を加えれば――


 呂南衡は、目を閉じた。


 思考の中で、流れをなぞる。


 どこを押せば、どこが歪むか。


 どこを断てば、どこが止まるか。


 そして、静かに目を開く。


「……次だ」


 声は小さい。


 だが、確かな意思を帯びていた。


     


 六十万は、進んでいる。


 整いながら。


 削られながら。


 その流れは、なおも保たれている。


 だが――


 余裕は、確実に失われつつあった。

数ある作品の中から今話も閲覧してくださり、ありがとうございました。


続きが読んでみたいと思えましたらブックマークやイイネをお願いします。

また気に入ってくださいましたら評価★★★★★を宜しくお願い致します。


執筆のモチベーションが大いに高まります!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ