表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/64

第四十八話 マクスウェルの狂気

若干の残酷な描写あり。

ご注意下さい。


夜の帳が降りた王都、貴族街。三大公爵家やこの貴族街に屋敷を持てない者以外は、大体この広い区画に屋敷を持っている。馬車の行き来が偶にあるくらいで、人通りもなく、街灯が疎らに照らす夜の道。その一角に潜みながら、ブライアン達はその時を待っていた。


「…もう行きます?」


「まだだ。情報提供者が出てきてない」


ブライアンの背後で、王国軍第二部隊のハロルドとヒューゴがそんな会話をひっそりとしている。ハロルドは焦げ茶色の髪をしたワイルド系の、ヒューゴはアッシュブラウン髪をした糸目の、ブライアンの下について2年目の部下達だ。

有事には最前線を駆ける軍人らしく、ブライアン同様に体格の良い彼らは、はっきりと言ってこう言った隠密行動には向いていない。それは他の場所に潜んでいる第二部隊員達にも言えることだ。第二部隊に所属していて、こう言った諜報、隠密系統の仕事に向いているのはブライアンの従者のケビンくらいだろう。ケビンのその容姿と主に暗器を使った立ち回りは、第四部隊から引き抜きが来るほどに有能だ。


「大体隊長。俺らがこんなところで屋敷の様子探って、のこのこ貴族取り囲むのに向いてるわけないじゃないですか。一体何人が突撃したくてうずうずしてるかっ」


そう口にしたのはこの第二部隊、ブライアン直属小隊、通称赤獅子小隊の副隊長、フレデリックだ。珊瑚色の目立つ髪にこれまた赤の虹彩という目立つ容姿をした厳つい男だ。ブライアンの横にいるというのもあり、嫌でも目立つ彼は、その似た色系統な髪色から"赤獅子の片割れ"というなんとも微妙なネーミングをされている人物だ。そして、日の下で暴れ回ることが好きなこの男は、この作戦に大変不満を持っているようだった。

フレデリックの言葉に、ブライアンは眉を寄せただけで、何も答えようとはしない。


「何度も言ってるじゃないですか、フレデリック様。今回の手柄はブライアン様自らが動き、手に入れなければ、あの腹黒い国王陛下に難癖つけられて、望みのものが手に出来ない可能性があると」


ブライアンに代わりそう答えたのは、音もなくブライアン達が隠れる路地の隙間に現れたケビンだ。ケビンはこの場にいる隊員の中で先に挙げた理由から最も隠密向きなので、屋敷内の様子を先行して探らせていたのだ。

下の方で束ねた長い髪を煩わしそうに後ろに払いながら、ケビンはブライアンの元へと歩いてくる。


「そうかもだけどよ…せめて隠密部隊の応援とかさぁ〜」


「おい、フレディ。お前サボりたいだけだろ?」


「…はっきり言って剣もろくに扱えない相手の確保なので、私たちの"素人仕事"でもなんとかなるんですよ。我慢してください、フレデリック様」


「…ケビン。報告」


ごねるフレデリックにそれぞれ声をかけるヒューゴとケビン。そんな少し賑やかになりかけた会話を切って、ブライアンがケビンに短い命令を下す。


「…馬車が1つなくなってました。おそらく、私たちが張る前に情報提供者は出たものと思われます」


ケビンの淡々とした報告に、ブライアンは小さく頷く。


「…突撃しますか?」


「あぁ、状況提供者がいないなら問題ない」


「まぁ、巻き込んでもいいと思いますけどね。あの女なら…」


ハロルドとブライアンの会話に、そう水を差したのはキースだ。自称フェミニストの彼は、今回その情報提供者に直接接触した隊員だ。ストロベリーブロンドの軍人にしては長い、肩辺りまで伸びた綺麗な髪を遊ばせている色男だ。体格は第二部隊内では割りかし細身で、しなやかで筋肉質な体つきなので、強面で有名な第二部隊において、ケビンと双璧を成してモテまくっている。ケビンを異国者と倦厭する女性を考えるなら、圧倒的とも言えるかもしれない。


「あの女、まぁ、まぁ、まぁ拗らせてますよ。もうあれ可愛いってレベルじゃないですもん。口を開けば二言目に必ずマクスウェル侯爵か亡きメルロー子爵夫人への恨み言。女の嫉妬は可愛いけど、女の怨念は怖いですよ〜」


頭の上で手を組みながら、そうげんなりと吐くキースは、乾いた笑いでハハっと笑っていて、いつもの覇気が感じられない。情報提供者に振り回されて、余程疲れたのだろう。


「…まさか、自分の妻に裏切られるとは。あのプライドの高い侯爵が知ったらどうなるかな」


ヒューゴの呟きに、フレデリックが「女ってこえ〜」と小さく嘆くのを聞きながら、ブライアンは無言で屋敷突入準備の合図を下す。



マクスウェルの調査はそれらしい状況証拠は上がるのに、決定的な裏付けが取れず、難航していた。そこでマクスウェル侯爵家に入り込み、情報を得ようとする試みで、キースに侯爵家の侍女を口説かせた。そうして口説けたまではよかったのだが、何故か侯爵家の踏み込んだ話題を聞くと顔を真っ青にする侍女相手に、またしても捜査は進まなくなってしまったのだ。そのタイミングで、予想外なことに自らコンタクトを取ってきたのがマクスウェル侯爵夫人、デボラだった。


『貴方たちの態度次第では協力するのを考えてあげてよ?』


そう面倒な提案をしてきたデボラに、ブライアンは彼女の身の保護と、キースを生贄に差し出し、情報を得たというのがこの作戦の裏事情だ。本来はもっと緻密に罠を張り、追い詰めていくのだが、ブライアンがマクスウェルの件をさっさと解決したいためにとった強行策と言える。


「隊長〜、私の労いの為に今度"妖精姫"会わせてくださいよ〜」


「却下っ」


「早っ!あっでも、俺も社交界の高嶺の花を間近で拝んでみてー」


屋敷の表玄関と裏口、その他周囲を総勢30人程で取り囲みながら、そんな呑気な会話を繰り広げる赤獅子小隊。なかには「帰って酒飲みてぇ〜」と零す輩もいるほど、戦場での緊張感とは程遠い。


「…隊長、皆のやる気が消え失せる前にとっとと終わらせましょう」


そんなハロルドのいい加減な言葉と共に、ブライアン率いる赤獅子小隊はマクスウェル侯爵家、王都屋敷へと突入した。



「王国軍第二部隊だっ!!この屋敷にいる者は抵抗せず、速やかに降伏するようにっ!!」


「おい、ここ戦場じゃねぇから、降伏はおかしいだろ?」


途中そんな締まらない叫びが飛び散りながら、ブライアンは異様な雰囲気の侯爵家を奥へと目指していた。


「…使用人達が1人も見えませんね」


ケビンも同じことに気がついたのか、そんな言葉をブライアンの背後で落としている。

その時、


「隊長っ!発見した使用人、及び侍女が既に事切れてましたっ。外傷がないことから毒物の類かと」


そう叫びながら廊下の入り口方向からやってきたのは今年入ったばかりの新人、グレンヴィル。その報告に、一気に場の緊張感が高まった。そしてそれを聞いたブライアンは、ある可能性に思い当たり、思わず目的地へと駆け出す。


「あら、随分ゆっくりなご登場ですのね?もう殆ど面白い所は終わってしまってよ?」


ブライアンが突撃するように開け放ったのは、侯爵夫妻の私室と思われる2階の1番奥にある大きな部屋。その中心で何かを見下ろしていたデボラ夫人は、ブライアン達に振り向き、頬を押さえながら愛らしい笑みを浮かべていた。癖のない淡い金髪に、真っ青な瞳をしたとても愛らしい人だ。美しいものを好むマクスウェル家らしく、整えられた美しいプロポーションとその蠱惑的な笑みも合わされば、本当にただの美しく魅力的に映る女性であっただろう。

しかし、その足元に横たわる侯爵が力なく身体を痙攣させている様が、彼女の異常さを顕にしている。


「夫人、どういうことですか?侯爵は生きたままこちらに引き渡して頂く約束では?」


ブライアンのすぐ後ろからそう口を出したのはキース。そんなブライアンとキースの横をすり抜け、ケビンは侯爵の元へと駆け寄ると、その容態の確認を始める。


「…遅効性の毒かと。おそらく意識のあるなか、じわじわと聞いてくる、質の悪いやつです」


「あら、流石ですわね。それ、以前からこの人が隠し持っていたものなんですの。何に使う気だったのかはわかりませんが、まさかわたくしにこれを使われるとは思ってなかったみたいよ?虐げた女が逆らうわけないって信じてるなんて、ほんと滑稽だわ」


そう言ってコロコロと鈴を鳴らすような声で笑うデボラ夫人。そんな様子を冷静に眺めながら、ブライアンはじっと目の前の女性から目を離さない。


「…何故殺した」


脅すように低まった、ブライアンのドスの効いた声。それに笑みを引っ込めた夫人は不思議そうに首を傾げながら答えた。


「だって、この人捕まったら全て話してしまうじゃない。わたくしは"罪"には加担しておりませんけど、あの"泥棒猫の娘"のことが表沙汰になれば、わたくしの外聞が悪くなりますもの」


あまりにも身勝手で世間知らずのお嬢様のような夫人の言い分。しかし、彼女の指摘は正しく、アメリアに関する、特に侯爵家での虐待とも取れる所業を証言できるのは、メルロー子爵家を除けば侯爵家の人間以外には誰もいないのだ。

図らずもアメリアの真相が闇に葬られたという事実に、ブライアンは複雑な顔で、より眉間の皺を深める。


「チッ…これ、先に捕らえてる国境警備の奴らを拷問で吐かせて"国家転覆を企んだ"として立証ののち、それを勘づいた侯爵家の集団自殺でよろしいですか?」


舌打ちをしながら、表向きの辻褄合わせを組み立てるハロルドに、ブライアンは「あぁ、」と小さく肯定する。

そこでふと、ここにいるはずのある人物、むしろ一番警戒すべき人間がいないことにブライアンは気がついた。


「…夫人。ご子息はどちらに?」


嫌な予感がした。

耳の後ろがチリッと音を立てるような、何か気がつきかけている、そんな感覚。

そんなブライアンに対して、デボラ夫人は無関心なことを隠しもせず、素っ気ない口調で告げた。


「出かけたわ。遊びにでも行ったのではなくて?あの子もこの人に似て、下賤な血筋の魔女に誑かされ、また手に入らないとなって暴れていたから。憂さ晴らしにでも出かけたのでしょう?本当に、どうしようもない血筋がこうも似るとはね。……気持ち悪い」


「出かけた……ですって?」


ブライアンの言葉を代弁するように、ケビンがそんな呟きを落とす。瞬間、ブライアンの脳裏に最悪な光景が過ぎった。


「ケビンッ、出るぞ!!」


「フレデリック様っ!あと任せますよっ」


ブライアンはケビンを引き連れ、先ほど通った廊下を全速力で走っていく。目指すのは王都の外れ、アームストロング公爵家。


ブライアンはすぐ側まで迫る嫌な感覚に気が付きながら、ひたすらにその足で月夜の道を駆け抜けた。



ようやく書けた第二部隊、赤獅子小隊メンバーに興奮を隠しきれない作者。番外編を書かない限りもう出ない所謂モブ達なのに、設定を嬉々として練り、作り上げてしまう。果たして、こんな設定を欲しがる人などいるのだろうか?…たぶん、いないな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ