12 アルバイトをすると死ぬので
「なんだ、キサマ! やる気はあるのか!」
やる気などない。
やる気で仕事をすると死んでしまうのだ。
シンは、顎に黒ひげをたっぷりと蓄えた包丁を握った強面の料理人風親父に首根っこを掴まれ絞めあげられていた。
「てめぇ! なぜ仕事をしない!」
「仕事をしたら死んでしまうんです!」
「ざけんな! この給与ドロボー! ばらして暖炉にぶち込むぞ!」
料理人風親父は、包丁を振りかざしてきた。
それは真っ直ぐシンに向かってくる。
回避不能。
ダメだ。このままでは殺されてしまう。
リーザァー!
お願い! 助けて!
あなたがぶち込んでくれたバイト先で、俺、殺されかけているんだ!
「リーザのバカァァー!!!」
「は? 何がバカよ。いったい、あんた、どんな夢でも見てんのよ?」
シンはキョロキョロと辺りを見渡した。
上下にゆさゆさ揺れながら、景色はズンズン進んでいる。
そうか。自分はいつの間にか馬車の荷台で寝てしまったのか。
リーザはシンが目を覚ましたことに気付くと、
「おはよう、シン。相当うなされていたわよ? 大丈夫? そろそろ街に着くわ。宿屋チェックインした後、あなたのバイト先を探そうと思っているけど、何かやりたい仕事ある?」
ある訳ないでしょ!
このままリーザのペースで進んでいくと、さっき見た夢が現実のものになってしまう。何とかリーザの魔の手から離脱を図らねば。
「あのね、リーザさん。仕事は自分で探すから大丈夫だよ」
「ダメ。どうせ逃げる気でしょ?」
「……逃げないよ。俺、やりたい仕事があるんだ」とボソボソ言った。
「え? そうなの? 何?」
「……は、俳優……」
「は?」
「この世界にはテレビがないから、役者の方が近いかな? 知ってる? ヴァルズ国にはたくさんの劇団があるんだよ」
「そりゃ知ってるけど。でも、どうして? 面接とか厳しいと思うよ?」
「そうだと思う。だけど俺は夢を叶えたいんだ! 俺はかつて俳優を目指していたんだ。だからこれは俺にとってデリケートな問題だから、お願い。一人にして」
リーザは腕を組んで考え込んだ。
もしかして嘘かもしれない。
いや、ほぼ嘘のような気がする。
確率にして、98%以上。
訝し気な目で、じとーとシンを見た。
もし嘘なら、やましい気持ちから視線を逸らすと思って。
だけどシンは、リーザの視線を逸らさなかった。
真っすぐと睨み返してくる。
シンにとっては、これは死活問題。
どうしても譲る訳にはいかないのだ。
根負けしたリーザは「分かったわ、シン。俳優になりなさい。頑張ってね」と言うしかなった。




