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11 王都とニートの嘘(★)

 リーザのもとに一通の封書が届いた。

 封の隅に描かれてあるドラゴンの紋章で、差出人が誰かすぐに分かった。

 

「またか」

 

 短く嘆息を吐くと、ナイフで封筒の口を切り、手紙を取り出す。

 やっぱり差出人はヴァルズ国王だった。



 ヴァルズ王は転生者を高く評価していた。とある一人を除き、転生者は秀でた特殊能力を有していると認識している。そして、リーザの錬金術師としての能力を高く評価していた。

 ヴァルズ国は6人の転生者を抱えている。

 それぞれもかなりの使い手なのだが、リーザの能力とは大きく異なる。

 故にリーザを手中に収めれば、他国を今以上に圧倒できる。

 だから王はラブコールの手を緩めることをしない。一方的に手を変え品を変えて様々な物資を送りつけてくるのだ。



 今回の手紙の内容も『親愛なるリーザへ。この度は……』と続き、どうせヴァルズ国へ仕えないかという内容なのだろう。

 リーザはほんの数行程度、目を通すと、

「何が嬉しくて目立つようなことをしなくてはならないの。折角、ひっそりとお店をしているのに」てな具合でブツブツと言いながら、丸めてゴミ箱に捨てた。



 その時だった。

 コンコンと戸がノックされた。


 ――誰だろう?


 戸を開けると、そこには長い黒髪をした細身の女性がいた。

 背中にはその体躯にはとても似合わない、身の丈を超える大剣を背負っている。


「アイナさん!?」

「お久しぶり、リーザちゃん」


 アイナと呼ばれた女性は美形ではあるが、目が細くやや吊り上がっている為、一見きつそうな性格に見える。

 英雄騎士の一人で、クラスはソードマスター。

 リーザはアイナと何度か話した程度だったが、自分に無いものを持っているアイナのことを、内心、尊敬していた。

 リーザは嬉しそうにアイナの手を取って店内へと案内する。



 アイナは、店内を見渡す。

 棚には調合された薬が、所狭しと並べられている。


「すごいわね。これだけのもの、あなた一人で作ったの」

「はい! 日々、セコセコと研究しまして」


 戸棚から手製のクッキーを取り出してテーブルに並べ、紅茶を注ぐ。


「あんまり上手ではないんですが、良かったらどうぞ」

「ありがとう」


 アイナはひとつ手に取って口に運ぶ。


 口に合わなかったらどうしよう。

 リーザはちょっぴりドキドキしながら、その様子を見守っていた。


「とっても美味しいわ」

「良かった!」



 アイナは紅茶を一口飲むと、改めてリーザに視線を向ける。


「実はね、今日はお願いにきたの」

「なんでしょうか?」


「ヴァルズ王から手紙、来なかった」


 半分だけ読んで捨てた。

 そのことを気まずく感じたのだろうか。

 それにスカウトでやってきたのだったら、どうしよう。

 面と向かってお願いされたら断れないよ。


 焦ったリーザは、猛烈に早口になる。


「えええええと、お手紙はまだのようですが、ななな何か? えーと、わわわ私、英雄騎士とか向いていませんから、スカウトの件でしたら丁重におことわ……」


 アイナはニカリと笑うと、リーザが話し終わる前に、淡々と喋り始めた。


「あのおっさん、まだネチネチとあなたのことをストーカーしているんだね。嫌なんだろ、そういうの。安心しな。あたしがガツンと言っておくよ」


 ――え? スカウト関連ではなかったの?


「あ、ありがとうございます。では、アイナさんのご用件って??」


「なんかね、国を上げて大々的なセレモニーをやるんだってさ。その晩餐会で出されるレシピがあまりにもゴミ過ぎて文句を言ったわけ。私ならこう作るって。そうしたら晩餐会の料理長に抜擢されて困っているのよ。私、ソードマスターって契約で仕事しているのに」


 リーザは急に目を輝かせて立ち上がった。


「アイナさんって、剣も扱えるのに料理もできるんですか!!」

「え? あ、まぁ、それなりに」


「すごいです!! 強いのに女性らしいところもあって本当に素敵です!!」

「……あんまり褒めるな。照れる。それに、あなただって立派なスキルを持っているじゃない?」



 天は二物を与えずとか言うけれど、まったく嘘だ。

 才能にあふれた人は何だってできてしまう。

 それに引き換え……

 リーザは天井を見上げた。


 ――あいつは……

 いや、可愛そうだ。やめとこう。


「それよかリーザちゃんにお願いなんだけど、聞いてもらえる?」

「えーと、私にできることでしたら……」


「晩餐会の料理、手伝ってもらえないかな?」

「えええええ? ヴァルズ国には腕利きのシェフがたくさんいるんじゃないですか? 私なんてこんなお菓子くらいしか作れませんよ」


「王都の料理人は不器用な奴ばかりで話にならないの。錬金術師で店をしているくらいだからもしかしたらと思って来たんだけど……」


 アイナはもうひとつクッキーを手に取ると、目を閉じて鼻に近づける。そして口に入れる。

 しっかりと味わうようにゆっくりと噛む。


挿絵(By みてみん)


「間違いない。あなたの腕、最高よ。私のカンに狂いはなかった。助手はあなたしかいないわ。お願いできないかしら?」

「も、もしかして晩餐会のお料理を、二人だけで作るんですか?」


「ゴミはいらない。足手まといなだけだから。できない奴には厨房に立たせないのが私の主義。リーザちゃん、あたしと最高のディナーを作らない? その代わりといってはなんだけど、ヴァルズ王にはまたストーカーをしたら容赦なく叩き切ると脅してあげるからさ」


 そう言うと目を尖らせ、背中の大剣に手をかける。


 ――そこまでしなくていいんだけど……。

 

 リーザはあまりの気迫に、とても断れなかった。


「あ、はい。……私でよろしければ……」と小さく頷いた。



 *


 アイナは馬車と御者を店の前に残すと、一足先に転移石で王都へ帰った。


 アイナが帰ったお店では。

 リーザは身支度を整え終わると、ふと天井を見上げる。


 ――あいつ、どうしよっか?


 リーザは天井に向かって声をかける。


「おーい、シン。なんかね、私、これからヴァルズ国の王都に行くことになったんだけど、あんたはどうする?」



 ボソボソと返事が聞こえてくる


「嫌だ。行きたくない」



 そりゃそうだろう。

 ほぼ追放されたようなものだから。

 悪いことを聞いてしまったと、少し反省するリーザ。



「なんかごめんね。私も行きたくないんだけど、断り切れなくて。メニューの開発から始めるみたいでさ、一週間くらい帰ってこれないけど大丈夫?」


「大丈夫」



 本当に大丈夫なのだろうか?

 シンは生活力皆無だぞ?

 帰ってきた時には干物になっている可能性が大だ。

 そう思ったリーザは、頭を抱えて悩みだした。

 やっぱり断った方が良かったのだろうか。

 アイナの熱意とシンの命を天秤にかけたら、そりゃぁ、もちろんシンの命だ。だって死んだら終わりなのだ。もう帰ってこない。どうしたらいいんだ!?


 天井からボソボソと声がする。


「リーザさん。行ってきなよ。俺は大丈夫だから」


「大丈夫なハズないでしょ! だってあんた、お料理できるの? それ以前に、買い物できるの? おつかいしたところ見たことないんだけど」


 それは無理な注文である。

 おつかいをすれば、6歩で死ぬのだから。


「俺、お兄さんがいるから、大丈夫だよ」


「は? あんたのお兄さんはもう死んでいるんでしょ? あんた、まさか幽霊に助けてもらえると思っているの?? 本当に大丈夫?? って大丈夫な訳ないじゃん!? こうなったら一緒に来なさい!」


「嫌だ!」


「ダメ! 来なさい! さもないと屋根裏一杯に、ニンジンをバラまくわよ」


「嫌だ! やめてよ!」


 リーザははしごを持ってくると天井裏へ入り込み、シンを引っ張り下ろした。


 シンを見ると溜息しかでない。

 なんとも情けない。でも、自分が甘やかしていたからこうなってしまった。

 リーザはシンの肩を力強く握った。


「大丈夫よ。シンは王都に行ったら、沢山の刺激を受けて成長できると思うわ。私はアイナさんの手伝いをする。そしてシンはその間、アルバイトをするの! あんたはちょっとくらい他人に厳しくされた方がいいのよ!」


 いつまでも甘やかしていたら、何もできないまま生涯を閉じることになる。

 自分がシンの人生をダメにしている。

 だからリーザにとって、これは愛の鞭だった。

 


 だが。

 アルバイト――それはニートにとって、まさしく一撃必殺の致死魔法である。

 シンはうずくまり心臓を抑えると、「はぁはぁ」と息を荒げる。


「ちょっ? あんた、大丈夫??」

「……アルバイトをすると……俺、死んでしまうんだ……」



 そんな馬鹿な!?

 こいつ、絶対に甘えている。


 そう思ったリーザは、シンを強引に引きずって店から連れ出すと、馬車の荷台にぶち込んだ。

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