777 社畜よ仕事が終わったかどうかしっかりと確認しろ
ダンジョン内に太陽神を叩き込み、その追撃に移った。
俺を含め、将軍たちが全員で追いかけたが、俺のダンジョンに設けたスサノオ神の神域に入った瞬間に神同士の戦いを見て、立ち止まった。
「あれが助っ人の神様かよ」
「……不利だな」
「実力はあります、しかし、能力が足りていませんね」
『ちっ、この雲が邪魔で間に入ろうにもろくなことができねぇぞ』
神同士の戦いは一見互角に見えるが、俺たちの目には受けに廻ったスサノオ神は太陽神の攻勢に十分に対応できていないように見える。
だが。
「決定打不足です、ですが、それも想定内です」
スサノオ神の力では太陽神イスアリーザに決定打を与えることができていない。
スサノオ神の姉はイスアリーザと同じ太陽神であるアマテラス神。
そのアマテラス神を追い立てたスサノオ神の神話の実績と、イスアルとの繋がりを断たれたイスアリーザをこの世界に引き込むことによる弱体化でかろうじて互角。
それでも受けに廻ったスサノオ神は、かろうじて太陽神の誘導を成し遂げている。
「お、お前の母ちゃんすげぇな」
「……」
「本当に、あの神にいい一撃を入れましたね」
『いいなぁ!!あいつ、こんど一戦するか!!』
途中、うちのおふくろが神の横っ面を殴るという珍事を目の当たりにして将軍たちから関心を集めた。
「そろそろです、皆さん準備を」
それを苦笑一つで流して、作戦通りに動いているスサノオ神と俺のパーティーの共闘で、イスアリーザに決定的な隙を作り出したのを見て、それぞれが力を貯めこむ。
「今!!」
北宮とアメリアの合体魔法を放つ瞬間に、俺は飛び出し、その後ろからほかの将軍たちも続く。
『後は頼んだでござるよ。リーダーーーーーーーーーー!!』
「おう!」
太陽神の隙を作り出す作戦を予定通り実行し、南が完璧な状況を作り上げてくれた。
ここで応えねば、男ではない!
氷の中に閉じ込められ、それでも視線をこっちに向け、一刻も早くその氷から脱出しようともがく神を見下ろし。
「唯斬」
落下速度を加えた、さっき不発になった技を繰り出す。
『砕けるでござる!!』
ゆっくりと刃を振り下ろす瞬間が見える。
刹那の時間。
もっと、もっと速くと願い、振り下ろした一撃を躱そうと神がもがいた。
それが不幸にも、千分の一秒差で躱すタイミングを与えてしまった。
振り下ろした刃は無情にも神の片腕を斬り飛ばすだけで終わる。
「まだ!!」
踏み抜いた地面の反動を利用し、筋肉を総動員した強引な燕返し。
片足が氷漬けになっている神では、胴を薙ぎ払うこの一撃は躱し切ることはできない。
「死ねェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
全身全霊の本音を叩きこみ、思いっきり踏み込んだ一撃は。
『死んでたまるかぁ!!!』
深く、深く、太陽神の腹を掻っ捌いた。
だが、それでも。
「しぶとい奴は好きだが、いい加減クタバレや!!」
血をまき散らしながら、無理やり足を引き抜いた太陽神は俺から距離を取ろうと飛びずさる。
先回りして待ち構えていた教官は、本気の殺意をもってして、太陽神の横っ面に拳を振るった。
「鬼神イッパァアアアアアツ!!」
純粋な正拳突き。
だが、教官ほどの鬼が極めた一撃は、純粋な火力を最適な構えで放ったことにより、その威力は類を見ないモノになり。
『!?』
太陽神の首が、曲がってはいけない方向に曲がった。
原型をとどめているのはさすがだ。
だが、これで終わるわけがない。
「終わりです、その身を捧げよ」
鬼の先にいたのはダークエルフの長。
樹王はその両手に持つ杖を槍のように構え、全力で突きを放った。
「ミスティルティン」
その杖は太陽神の心臓付近に深く突き刺さり、刺さった瞬間その体をツタで雁字搦めにした。
『がっあ!?ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!????』
これまでの闘いでは一度も痛みに悶えなかった太陽神が初めて、痛みに悶絶した。
「巨人王!続いてください!!」
「承知!」
その悶絶具合に、効果を確信した樹王は前進する巨人王に後を託した。
「武具開放!暴走術式!!」
迷いなく、太陽神の体を侵し続ける樹王の杖の先を掴み、巨人の王は改悪を施した。
本来であれば制御した状態で正常な動きをしている杖をわざと暴走させる。
『ギィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?』
太陽神の体の中から、ツタが伸び出てくる。
その動き、まともではない。
俺が斬り割いた傷や、教官が殴り折った首からもツタが伸び、うねうねと動き回りながら、太陽神の体を蹂躙する。
『ワ、れ、のから、だ、なお、なおあ、』
太陽神の体を侵し、その再生能力を逆に利用して歪な方向に再生を施そうとしている極悪な武器。
「竜王!」
『待ちくたびれたぜ!!』
激痛に重なる、精神的ダメージ。
これによって、さらに意識を逸らすことに成功した。
あとは、巨人王からのバトンを竜王が受け取るだけ。
俺たちはいっせいに太陽神から離れる。
雷雲の中に隠れ潜んでいた竜王の口元にたまっている膨大な魔力。
『俺の全魔力だ!!受け取れや!!』
その魔力を開放した瞬間。
『グランド・ノヴァ』
音が消えた。
いや、正確には、竜王の攻撃の音によってすべてが掻き消えたと言った方が正確か。
黒と白が螺旋状に入り混じった竜王のブレス。
それがそのまま太陽神を飲み込む。
「うえぇ、エッグゥ」
その怒涛の追撃に、どこかの日本の神がドン引きしていたが、気にしないことにした。
そんな暇はない。
竜王のブレスが着弾したことによって生まれた衝撃に対して踏ん張りながら、俺は異空間に手を伸ばす。
そして引きずりだしたのは、禍々しい棺桶。
いや、封印している物がものだけに見た目が物々しく、中から漏れ出てきているおぞましい魔力によってそういう演出が付与されてしまった物体。
「我、神を殺すものなり!」
その物体の封印を解くため、解除の言葉を紡ぐ。
連鎖的に響く、幾重もの封印の解除音。
ブレスが続いている数秒間に、その封印は解除され、姿を現したのは、いつの日かエヴィアに頼まれた神を殺すことを悲願にした魔剣。
「出番だぞ!起きろ!!お前の目的の神は目の前だぞ!!」
黒々としたその柄を躊躇わず、鉱樹を握る右手とは反対の左手で掴み、そのまま最終セーフティーである鞘からその刀身を抜き放った。
「エヴァンボルグ!!」
抜いた瞬間わかる。
こいつは解き放ってはいけない類の武器だ。
エヴィア自身、対策に対策を重ねて、ようやくまともに〝一回〟だけ振るうことができたと言ってた。
『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!カミ、カミ、カミ、カミ!!』
怨嗟の声を噴出し、その怨嗟の中に歓喜を交え、俺の魂を侵し、そのまま俺の体の支配権を奪い取ろうとする。
「ウッセェエエエエエエエエエエエエ!!黙ってお前はお前の目的を達成しろや!!」
それを一喝し一瞬だけ、黙らせる。
そうでもしないとダメだ。
強引に行かないとまともな手段では使うことも叶わないくらいこいつはじゃじゃ馬だ。
すでに掴んだ左手の主導権を奪われかけ、吸い付くどころか、一体化したかのような感覚を味わいながら、一歩踏み込み。
「オラ!行けよ!!」
竜王の全力ブレスが途切れ、その瞬間に見えたなぜか原型をとどめている神にめがけて投げつけた。
ズルリと俺の左手の全部の皮をえぐり取って、無理やりの投擲。
痛みが襲ってくるが、それよりも先に、投げつけた魔剣エヴァンボルグの行く末の方が気になってしまい、一時、痛みを忘れる。
そのまま行けば、突き刺さる。
俺の投擲は間違いなく、そのまま神の額に突き刺さる。
それを確信した一投。
これで、終わる。
それを確信しようとした瞬間。
「申し訳ありませんが、それはさすがに看過できません」
いないはずの第三者の声が、聞こえた。
白い、三対の翼。
最後に見たその姿は、俺の敬愛する不死者の王との戦場。
なぜ、そこにいる。
『来たか!アイワ!!』
神の歓喜の声が聞こえる。
それよりも先に、何かをつかみ取る音も聞こえた。
なにかなんかじゃない。
俺が全力で投げたエヴァンボルグの柄を平気な顔で掴み取ったのだ。
「なかなか殺意が高いですね」
そしてしげしげとその魔剣を眺めている。
「確かに、この状態の我が神なら死んでもおかしくない代物です。評価します」
アイワのゆっくりと剣身を眺める余裕がある態度に、俺たちはわずかな時間とはいえ攻撃することを躊躇った。
何故なら、彼女の相手は不死王ノーライフがしていたはずだ。
フシオ教官が負けた?
いや、そんなはずはない。
ところどころ怪我を負いながらも、失った片手以外は失った部位がない。
教官相手に無傷で完勝できるほどアイワに実力があるのか?
『アイワ!何をしている!!早く!これをどうにかしろ!!』
「楽しみの時間を阻害してまで呼び寄せたから何事かと思いましたが、ずいぶんと苦戦しているようですね」
そんな疑念を払しょくするのは、この場に呼び出された当人の言葉だった。
アイワは樹王の攻撃によって、半身を木々に侵食されて、人としての原型を失いつつある神の姿を冷めた目で見降ろしている。
『そんなことはどうでもいい!!この我が命令しているのだ!!』
その感情を読み取る気がない神は、周囲を敵に囲まれた敵地に勝手に呼び出した部下に対して労わる気持ちなど欠片も持ち合わせていなかった。
能面のような表情に、凍てつく視線。
「そんなこと、ですか」
そして静かに呟いた、アイワは。
「では、契約違反ですね」
『え』
片手に持っていた魔剣エヴァンボルグで太陽神の心臓を貫いてしまった。
信じられないと目を見開くイスアリーザの顔を無感情の目で見つめるアイワ。
「あなたの下にいるのは、あなたが戦場を用意してくれるからです。あなたが負ければこの戦いは終わり、私は戦いに興じることができなくなります」
刺した理由を淡々と説明し、そして神殺しの魔剣の本領をその身の中心に浴びた神は、パクパクと呼吸を忘れたかのように口を開けたり閉めたりするしかできなかった。
「私、言いましたよね?契約を忘れないで下さいと、私の楽しみを邪魔しないで下さいと」
グッと力を込めて、より深く神の体に魔剣が突き刺さり、致命傷になった段階で、アイワは魔剣から手を離した。
支えを失った神は、ダンジョンの地面に横たわるように倒れこむ。
「ああ、安心してください。あなたの代わりには私がなります」
そして、太陽神は徐々に光になる。
「そして、この世界に戦乱をもたらします」
その光はアイワの体に吸い込まれるように、溶け込み、その変化はすぐに現れる。
「黄金の翼?」
三対だった翼が四対になり、その全ての翼が黄金色だった。
「ああ、これが神の力ですか」
神の力を吸い取った。
いや、簒奪したんだ。
失った腕も再生し、握ったり開いたりと確認し。
最後に神を殺したという実績を果たし、その力の残滓しか残らぬ魔剣を拾い上げ。
「なるほど、これはいい」
一瞬で燃え上がらせ、禍々しい様相から一転、神々しさを感じさせる逸品に鍛えなおした。
「これなら、存分に戦い続けることができます」
俺も良く浮かべる、三日月のような笑み。
「ああ、神よ、初めてあなたに感謝します。これで、私の戦場は永遠となる」
本当に心の底から感謝すると言わんばかりに、狂った美しい笑みをアイワは浮かべた。
「やべぇ」
思わず、そう口ずさんでしまうほど、背筋に流れる冷や汗が止まらない。
嫌な予感がビンビンに鳴り響き、逃げろと本能が叫ぶ。
だけど、逃げることはできない。
「では、最初の戦いを始めましょう」
なにせ、神の力を得てしまった戦闘狂に目をつけられたのだから。
今日の一言
終わらせる瞬間はしっかりと確認しよう
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現在、もう1作品
パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!
を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!




