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778 後には引けない

 

 自分の悪運が最悪の方向に舵を切ったか。


 そうとしか言いようのないほど最悪の戦闘狂が生まれてしまった事実。


 戦いを始めると言葉を放った元熾天使のアイワ。


 来るかと、本能的に身構えたが、一向に切りかかってくる様子はない。


『次郎君!!緊急事態よ!!大陸とイスアルに天使や神獣がいきなり現れてあちこち襲い掛かってきたって!!』

「なに!?」


 だが、何もしていないわけじゃなかった。


 ダンジョン内に響く緊急通知。


 それはせっかく収まりかかっていた戦争が再燃したという最悪の知らせ。


 それが響き渡り、そのあとに聞こえたのは笑い声。


「てめぇ!アイワ!!」


 胸を抱き、顔を下げ、声を抑えるように笑う彼女の様子に教官が怒鳴り声をあげた。


「アハハハハハハハ!!いい!これだ、これが見たかったんだ!!最高の気分ですよ!!老いも若いも、男も女も、人も魔族も関係ない、すべての存在が武器を手に取り戦う!!ああ!最高の光景だ!!」


 誰もが怯え、体を硬直させる教官の怒声など消えていないのか、楽し気にアイワは笑い続ける。


 狂ってやがる。

 聞こえた言葉のどれもが理解ができない。


 いや、理解したくないという嫌悪感が先だった。


 教官のように強者を求めての闘争なら、共感も理解も納得もできた。


 だが、アイワが求めているのは万物の闘争。


 誰もかれもが争うことを是とした世界。


「ああ、最高にいい気分です」


 うっとりと、恍惚とした表情は一周回って色気すら漂い、当人は本気で喜んでいるというのがわかった。


 止めるなんて生易しい気持ちじゃだめだ。


 倒すなんて中途半端な気持ちでも駄目だ。


 殺すなんて不確実な方法もダメだ。


 こいつは。


「滅ぼす」


 この世にいてはいけない存在だ。


 あのガキのような太陽神の方がマシだと思う日が来るとは思わなかったな。


 ビビった気持ちを一瞬で立て直し、前かがみになり、一気に前に踏み込んだ。


「次郎!」


 教官の声が背後に聞こえる。


 わかっています。


 これが無謀だというのは。アイワの実力はフシオ教官と互角。

 そこに太陽神イスアリーザの神力が加わり、素のステータスが上がってしまっている。


 未来視をしても、大半が数合打ち合うだけで、俺は斬り捨てられる未来が写っている。


 戦いを挑んだ段階で、アイワは俺を斬り殺すまで逃がさない。


 教官の警告に止まらず、冷静に戦意を高める俺を見つけたアイワの表情はニタァと美女がするには迫力がありすぎる笑顔だった。


 一手目は、いきなり首か!!


 最初の戦いということで、嬉々として命を刈り取りに来た。


 受けるのはだめだ、受けたら姿勢を崩され、返しの刃で命を刈り取られる。


 であれば避けるしか選択肢はないが、避けるにも方法を選ばねば即死。


 無様に姿勢を崩すような恰好をさらせば胴と首がサヨナラ。


「ここで踏み込みますか!!」

「死中に活あり!」


 未来視で来ることがわかっていても、イスアリーザよりも速い攻撃は見えたとほぼ同時に来る。

 下手に間合いを取るよりもギリギリまで、引きつけて、潜り抜けるように踏み込んで返しの刃で胴を薙ぎ払ったが。


 いつ刃を引き戻したのかわからない速度で防がれ、流されそうになる。


「アハハハハハハハ!!!これを防ぎますか!!いい!さすがはあの不死者の弟子!!」


 それを利用し、逆袈裟で切り返そうとしたが、相手の剣が蛇のように動き始めた。


 巻き取りか!?


 鉱樹は俺の腕に巻き付いているから引きはがされることはないが、代わりに肘とかの関節が逝ってしまう。


 それを防ぐために無理やり切り払うことで巻き取りを引きはがす。


「魔法も中々!!一発で切れませんか!!」


 だが、鉱樹が流れた。


 体が開いて、それを引き戻す時間はない。


 こっちの攻撃速度よりも、相手の攻撃速度の方が圧倒的に早い。


 未来視で把握していた場所に、局所的な次元結界を展開したけど、アイワの神剣が俺の体に触れた。


 鎧は斬れ、反応が遅れていれば間違いなく斬り捨てられていた。


 薄皮が切れてそこから血が流れた。


 間一髪とはこのことか。


「チェストォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 刃は止まったことに安心するな!!


 相手を斬り倒すまで止まるな!!


 安心感は自分を殺す。


 それを文字通りに肌で感じ取れてしまった。


 鋭くより鋭利に、概念の補強をし続け斬撃を叩き込むが。


「なかなか」


 受けることを危険と察知したアイワは俺の攻撃をひたすらいなす。


「なるほど、なるほど、なるほど」


 一刀、一刀、すべてを観察され続け。


 俺の技すべてを解析されている。


 次第に、スムーズに受け流され始める。


 なんという学習能力。


 この先に待つのが、俺の最後。


 どの未来視でも、結局は俺の癖をすべて解析され。


「理解しました」


 この一言で、納得され、戦いを終わらせられる。


 完全にかつ簡潔に、最短距離で確実に俺の命を絶つ一振りが見えた。


 待っているのは俺の最後。


 だけど、見えているのなら、できることくらいはある


「おっしゃ!!ドンピシャ!!」


 地面が爆発する。


 正確に言えば、俺が爆発させた。


 足の裏から発動させたパイルリグレット。


 その反動を利用した膝蹴りで、神剣の腹を蹴り上げた。


 剣筋はずれて、俺の体のどこも切らずに、空を切った。


 アイワと目が合う。


 目を見開き、喜び、そしてもっとと戦闘を欲しがる顔。


 その顔めがけて、振り下ろすのは俺の頭。


 女の顔を傷つけるのはあんまり好きじゃないが、選り好みする余裕はない。


 ファーストヒットは俺の頭突き。


 未来視を駆使してようやく引き寄せた一撃。


 それによって生まれる仕切りなおすための時間。


 これ以上は危険と判断して、一気に距離を取る。


「なるほど、なるほど、失念していました。あなたは純粋な剣士ではないのですね。納得しました」


 のけ反った姿勢のまま、ゆっくりと起き上がるアイワの姿はホラーチックで背筋に寒いものが走る。


「はぁはぁはぁ」


 たった数秒の攻防だというのに、全身から汗が流れるほど体が熱い。


 そんな熱さを冷ます光景を見つつ。


「皆さん、見えましたか」

「おう!」

「なんとかと、頭につきますが」

「天晴」

「ふん、やるじゃねぇか」

「……マジであれとヤンの?」


 こっちの戦力に、俺の戦いが見えたかを確認する。


 動きが初見かどうか、それだけで生き残れる可能性は雲泥の差がでる。


 危険を冒してまで、俺が一番槍をしたのはこういうわけだ。


 教官は戦えると判断したか、誰より先に一歩踏み込んだ。


「はぁ、あれをここから出してしまえば勝機はなくなります。なんとしてでも、ここで仕留めないといけません」


 呼吸を整え、最小限の言葉で俺の意志を示す。


 ダンジョンの中に引き込むという過程を経たからこそ、相手はこれでも弱体化しているんだ。


 本領を発揮できるようになったら社長という最大戦力を欠いたこちらでは太刀打ちができなくなってしまう。


「承知しています」

「うむ」

「わかってるっつの」

「……ええぇ」


 若干一名、いや一柱はやりたくないと言わんばかりに拒否反応を示しているが、契約で縛っているため逃がさない。


「竜王は少しでも魔力の回復を、樹王はサポートでお願いします」

「我は?」

「俺と教官で再び踏み込み、傷ついた方が下がり、治療を受けている間の交代要員兼観察要員を頼みます。少しでも情報が欲しいです」

「承った」

「ええーと、俺は人数が足りているようだし、いなくていいよな?」

「おふくろに言いつけますよ」


 戦うことを好む性格のおかげか、こっちが好戦的である間は、逃げる素振りも襲い掛かる素振りもない。


 むしろもっと戦えと戦意を高ぶらせている。


 その姿を見て、逃げ腰になっているスサノオ神の弱味を言ってこの場に留める。


「わかった、わかったよ!」

「それでいいです、あれと斬り合えます?」

「……さっきのガキとはわけが違う。いかさまなしなら、もって十合だ」

「いかさまアリなら?」

「それでも数分が限度だ」

「十分です」


 神をもってしても、斬られる未来が見えている。


「気をつけろよぉ、お前は斬撃の天才かもしれんが、あいつは観察の鬼才だ」


 スサノオ神が冷や汗を垂れ流して、怯えを隠しもせず、アイワの本領を指摘した。


「あいつの観察眼は異常だ。あいつを生み出したのはどこのアホだ。魂の色、体の構造、その全てが戦いのために生まれてきたような構成じゃねぇか。あんな奴を野に放つような阿保が神の中に」

「いたんですよ、ついさっき殺されて力奪われてますけど」

「あのガキいいいいいいいいいいいい!?」


 極限まで鍛え上げられた観察眼に、戦うことを求める精神性……


 うん、はっきり言って混ぜたら危険のコンボだな。


「……いや、でも、ヒミクはアイワだけは神が作り出していないと言ってたな」


 熾天使は神が生み出した至高の天使だ。

 しかし、序列一位のアイワだけは確か、勇者からの成り上がりだったはず。


「スサノオ神、天然の人間であんな存在生まれます?」

「生まれてたまるか!!あんな奴が生まれようなモノなら祟り神や疫病神に貧乏神を総動員して子供のころに仕留めるわ!!」

「奇跡でも?」

「奇跡でも!!……いや、待てよ。奇跡じゃねぇが一つだけ、俺達でもやっちゃいけねぇが禁忌の技であんな精神性をもってあんな化け物生み出せる方法がある」


 スサノオ神は自身が化け物と評するアイワをじっと見つめ始める。


「だが、それはあっちゃいけねぇ。やっちゃいけねぇ、それをやっちまったら、あのガキとんでもねぇことやったことになるぞ」


 自分が気づいたことが現実でないでくれと切に願うようなまなざしでアイワを見つめるスサノオ神はどんどんその表情を険しくしていく。


「マジか、マジか、マジかぁ」


 嫌な予感ほどよく当たるとは言うが、大きく、それはもう大きくため息を吐いたスサノオ神は。


「あんのクソガキィイイイイイイイイイイイイイイ!!!」


 この場の空気を一変させるかのような怒鳴り声をあげた。


「そうだよなぁ!!そうなるよなぁ!!じゃないとあんな魂の色にならんよな!!!おかしいよなぁ!!普通は神の能力を吸収できる天使なんていないよなぁ!!だって天使は天使であって神じゃねぇんだよ!!器が足りねぇんだよ!!でもなんであいつは平気なんだよってずっと思ってたわ!!」


 俺たちが武器を構え警戒し、ニタニタと狂気の笑みを浮かべるアイワと対峙している最中、スサノオ神は地団太を踏み続けた。


「ああ!もう、こりゃ!人間が裁ける案件じゃねぇぞ!!」


 俺たちが知らない情報を、スサノオ神は持っていて勝手に自己完結してしまう。


「おい!さっきから騒いでばかりでこっちにはなんも話が伝わらねぇんだよ!なにかわかったっていうなら教えろ!!」


 その態度に苛立った教官が、スサノオ神に怒鳴った。


「ああ、教えてやるよ!!その図体に見合ったでっかい耳をかっぽじってよく聞けよ!!」


 言いたい内容が相当やばいのか、自棄になっているスサノオ神は一回大きく息を吸った。


「お前さんたちの世界のクソガキはな、神の中でも禁忌中の禁忌!異神転生、異世界の神を使った転生をやりやがったんだ!!それも戦神や闘神の中でも性悪よりの邪神をな!!」


 そして、置き土産にしては盛大にやばい種を残していることを暴露した。


「おや、私の前世をご存じで?」

「知りたくもなかったわ!!」


 それを聞いていたアイワは、興味ありますと首をかしげたがそれに答える気がないスサノオ神は全力で中指を立てて抗議するのであった。



 今日の一言

 引いてはいけない戦いがここにある


毎度のご感想、誤字の指摘ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。


現在、もう1作品

パンドラ・パンデミック・パニック パンドラの箱は再び開かれたけど秘密基地とかでいろいろやって対抗してます!!

を連載中です!!そちらの方も是非ともよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] これ下手すると地球にも被害出るよな…
[一言] あちゃー。 自分の戦力増強に、ルール無用でやらかしていたのが今回の一件ですか。 関係者から見たら、うわぁって話ですねー
[良い点] そりゃ、こんなのが裏ボスとして潜んでいたらあんなIFルートが出来上がってしまうわな。
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