282 こんな日もあってはいいのではないだろうか
新章突入です。
絶望っていうのは、本当に無理だと思うことじゃないだろうか。
爆風が頬を叩き、目を細めて巻き上げられた砂埃が入らないようにしながら周囲への警戒を怠らない。
目の前の光景を見て、どうやって攻略するかと思考をめぐらすが即座に実行できるような方法が思いつかない。
何より、頭ではなく、感情の方が先に無理だと思ってしまった。
体がすくむ訳でも、重傷な訳でもないが、体力と負った怪我の具合からここからの打開は無理だと判断していた。
今更だが、機王のダンジョンというのはゴーレムがメインになっている。
いわゆる、ロボットのようなモンスターが多いというのが実情だ。
実際、俺もこの会社でどこのダンジョンに一番多く入っているかと言えば、やはり最初に足を運んだ機王のダンジョンが多いと答える。
なじみ深いというか、最初に取り掛かった仕事だからと色々な感情がある分、ここからやらねばという使命感に似た感情があるのは否定しない。
「はぁはぁはぁ、生きてるか、お前ら」
ゆっくりと呼吸を落ち着かせながら、背に庇う後輩たちの安否を確認する。
「ぶ、無事な部分を探す方が厳しいっすよ」
「うっぷ、ポーション飲みすぎて気持ち悪いでござる」
「ごめん、なさい。しばらくは動けない」
「勝は?」
「私を庇って、今治療してるけど、こっちもしばらくは無理ダヨ」
「と、なるとだ。まともに動けるのは俺だけか」
だが、返ってくる答えは全員芳しくない。
海堂はいたるところに傷を負い、言葉のとおり無事な部分を探す方が困難だ。
幸い重傷ではないのが救いだが、このまま戦っていくには不安が残る。
南はと言えば、怪我自体は少ないがその怪我を避けるために自身と周囲に向けてサポート魔法をかけ続けていた所為で魔力切れ。
それを回復するためにポーションをがぶ飲みしすぎた所為で気分が悪くなってしまっている。
逆に北宮は、ポーションの摂取量自体は少ないが一撃でかいのをもらっているため、まともに動けない。
勝はゴーレムの攻撃から咄嗟にアメリアを庇って気絶、アメリアが比較的軽傷で済んでいるが、シンプルに考えてパーティーとしての機能はほぼ止まってしまっていると言っていいい。
そんな状況にまで追い詰められた馴染みのダンジョン。
俺たちは今、壁にぶち当たっていた。
その壁は、精神的な意味合いもあるが、文字通りの意味もある。
「来るぞ! 少しでもいい! 身をかがめて防御の姿勢を取れ!!」
数百メートル先に立ちはだかる高さ二十メートル以上はあるのではないかと思われる壁が左右の果てまで続いている。
城壁。
そんな言葉が似合うような鋼色の壁の上部がわずかに光ったと思うと、肌でびりびりと感じるような魔力が迫ってくる。
「コォォォォォォォォ」
それは魔道具によって放たれた魔砲。
一発一発が中級以上の魔法の威力を誇る魔力の砲弾が、何百という砲門から一斉に俺たちめがけて放たれた。
第七十層。
調子よく進めていた俺たちの足は、今目の前の砦によって完全に止められていた。
痛む体など無視して、呼吸を整え接続した鉱樹から高速循環し純度を高めた魔力を受け取り、その魔力を鉱樹の刃に流し込み疑似的な巨大な刃を生み出す。
「チャエストォォォォォォォォ!!」
横一文字でその魔砲の雨を切り裂く。
「はぁああああああああああああああ!!」
ただ、その一刀だけで治まるような嵐だったらこんな苦労はしていない。
何度も切り裂いて軋み始めている体にムチ打ち、その後続で放たれた砲弾から、後ろで身動きの取れない仲間を守るために魔砲の嵐に対して俺は剣戟による鉄壁を見せる。
魔力によって構成された刃は質量がなく、その分振り回すのは容易い。
だが、その反面物質的な強度は依り代になっている鉱樹には圧倒的に劣り、刃が欠けるたびにその刃を魔力で補填しなおさなければならない。
「!? 次郎さん! 投射機の音ダヨ! ゴーレムが来る!!」
「っち!!」
おまけに飛んでくるのは魔砲だけではない。
アメリアがこの爆撃地と変わらない着弾音の中から発射音と飛来音を拾い、もう一つの脅威を教えてくれる。
何もこの魔砲だけなら足を止めず、無理やり突き進めばいいだけのこと。
北宮と南に防御魔法を展開してもらい、それで強行突破だってできた。
だが、そんなことは敵もさせてはくれない。
当然、この砲撃の隙を埋める策も存在する。
「ゴーレムだからできる荒業だよなぁ」
全身舞った砂埃で汚れ、煤けてしまっている顔を歪ませ飛んできた巨大な球体のいくつかを切り捨てるも、俺たちを直接狙ってきたものは少ない。
どちらかと言えば〝着陸時間〟の方を稼ぐように俺の攻撃範囲から離れた場所に着弾した球体の方が多い。
その球体は砂埃を舞わせながら、普段なら整然としているはずの機王のダンジョンの景観中でも特異的な砂の地面に降り立った。
時間にて数秒、俺が切り捨てた球体が周囲に着弾したタイミングを見計らってその球体から切れ込みが発生し、その綺麗な球体は瞬く間に人型のゴーレムに姿を変えた。
決して生物ではできないような荒々しい登場の仕方だ。
「海堂、少しでもいい、南たちを守れるか」
「やってみるっす」
「アミーちゃん、北宮と勝をこっちに、拙者が結界を張るでござる」
「大丈夫? 南ちゃん。顔色悪いけど」
「北宮みたいに枯渇したわけじゃなくて、ポーション酔いでござるから緻密な操作が必要な奴ならともかく、なんとか防御魔法は使えるでござるよ。それよりも今は少しでも戦力が必要でござる」
「わかった、私、頑張るヨ!!」
「悪いわね、アミー」
瞬く間に包囲され、ボロボロな俺たちにさらに損耗を強いる編成。
動ける人員をどうにか編成し、俺が動きやすいように動いてくれるが、それでもじり貧だと言える。
どこのSF映画だと言いたくなるような姿で現れたゴーレムはじわじわと包囲を狭める。
その近代的なフォルムのゴーレムのタイプは二種類、両手に大盾を持ち巨大なハサミのようなサイドアームを持つ前衛防御ゴーレムと、両肩に砲塔を備え両手には杖らしきものが備え付けられている後衛砲撃タイプ。
城塞の魔道具が回復するまでの間の足止め、ならもう少し気楽なのだが。
「そう都合よくは、いかないか」
「うげぇ、敵の戦力は無限でござるか」
「それはないと思うがな、南の見立てだと底が見えないってところか」
目の前に敵が迫っているのに、南の視線は周囲ではなく城壁の方に向いている。
それもそのはず、今まさに追加で戦力が投入されようとしている。
多脚型戦車というのを皆は知っているだろうか、無限軌道で動くような戦車ではなく蜘蛛のような形をした巨体が今まさにその城壁を飛び越え参上したのだから。
「迎撃できそうか?」
「迎撃し終わった後は拙者たちはすり潰されるでござろうな、少なくともリーダー以外は生き残れそうにはないでござる。リーダーはどうでござる?」
「体力的にはまだいけるって言いたいところだが、正直わからん。動き回って個人でかく乱しても詰将棋みたいに追い詰められる未来しか見えん」
「となると、やることは一つでござるな」
「ああ」
この階層に足を踏み入れてどれくらいたっただろうか。
体感では一時間は超えたとは思う。
それなのにパーティーはすでに半壊を超えて、壊滅一歩手前。
格闘ゲームの体力ゲージで言うのならレッドゾーンだ。
そこまで追い詰められるまでの間にどれだけのゴーレムを切り捨てたのかと考えるのも嫌だ。
この丸々一つの階層を使い切っただろうと予想できるボス部屋のような城塞。
戦力を分散させるのではなく、集中的に配置した本格的な防御陣地。
その戦闘力を前にして、これを突破できる勇者の規格外さを改めて痛感する。
「俺が殿になる。撤退するぞ」
「今回も赤字でござるなぁ」
「そう言うな、生き返るからって臨死体験するよりはマシだ」
「そうでござるな、北宮は拙者が担ぐでござる。アミーちゃんは勝を、海堂先輩は退路を確保でござるよ」
「うっす!任せるっすよ!」
じわじわと迫りくるゴーレム軍団に対して俺たちの取れる行動は撤退一択。
さすがにこれ以上戦ったら、全滅待ったなし。
俺の判断に誰も反対せず後退しようとするが、それを素直に認めてくれるほどダンジョンは甘くはない。
それでも突破し脱出用のゲートまでたどり着かないといけないんだ。
「武御雷で突破口を開く、あとは突き進め」
疲れたなんて言ってられず、不足気味の魔力をかき集める。
帯電し始める鉱樹を見てゴーレムたちの動きに警戒の色が見え包囲が狭まるのがわずかに遅くなる。
そのわずかな猶予を逃さない。
一気に魔法を構成し、鉱樹に纏わせ特大の一撃をまき散らした瞬間に合図も無しに俺たちは駆け出す。
背後を振り返らず、ゴーレムたちの残骸を尻目に城塞階層から脱出したのであった。
「ああー、何回目でござるか、あの階層から帰ってくるのも」
「あ~四回目か?」
「五回目よ、今回は結構自信があったんだけどまだまだ相手の余力を引き出せてなかったみたいね」
パーティールームに戻った俺たちがしたことと言えば、まず脱力することだった。
ボロボロな体で帰ってきても、魔力体から元の体に戻ればあらかたの傷は治っている。
残るのは疲労と痛み。
その二つを癒すのはこうやってのんべんだらりとするほかない。
各々定位置で飲み物を飲んだり、クッションに顔をうずめたり、椅子にもたれかかったりと疲れた体を少しでも休めようとしている。
かく言う俺も椅子に座りその背もたれに体を預けている。
「すみません、途中で気を失ってしまって」
「仕方ないヨ! 私を庇ってたんだから。謝るなら私、ゴメンネ」
「いやいや、誰も二人を責めないっすよ。次に生かせばいいんっすよ次に!」
そして自然な流れで反省会に持っていくのが普段の俺たちなのだが、今回はそういう展開ではない。
「まぁ、対策はまた次回でいいか。とりあえず、今日は早めに帰って各自体を休めろ。明後日の花見、疲れた状態で参加したくないだろ。報告書も花見の後でいい」
「お! さすがリーダー話が分かるでござるな!!」
「いいんっすか先輩!」
「ま、行き詰まってることだしな。ここいらで気分転換でもしといたほうがいいだろ」
攻略が進まないことで少しモチベーションが下がっているのはわかってた。
だから気分転換がてら、前に言っていた花見をしようとは前から話していた。
「スエラさんたちも参加するんっすよね?」
「ああ、スエラに聞いたら施設の中で桜がある場所があるって聞いてな。そこなら人目を気にせず花見をできるってな。場所も事前に予約できるって話だしな。教官たちにも声をかけてある」
「異世界にも桜があるんでござるなぁ」
「いや、どうもそこの施設を管理している人がこっちの世界の植物が好きらしくてな、桜もその一環らしい」
「へぇ、そうなの。でもなにか嬉しいわね。異世界に行っても桜が綺麗って認められているんだから」
仲間で集まり、特別なことをしようって話になって中心で動くのは北宮かと思ったが、今回は南も積極的に動いてとんとん拍子で話が進んだ。
度々衝突する二人だが、なんだかんだ言って遠慮がない分方向性が合致すればかなり良い連携を見せてくれる。
「マミーもお弁当作ってくれるって! いっぱい来ても大丈夫だよ!」
「はい、僕も当日は頑張ります」
「ヒミクも作ってくれるらしいからな、あんまり無理すんなよ。海堂と俺は当日メモリアが用意してくれた飲み物を会場まで運ぶぞ。大酒飲みが来るから量が半端ないぞ」
「キオ教官が来ればそうっすよねぇ、あ、そういえばなんか娘さんも来るんっすよね? 先輩は会ったことがあるんすよね? どんな子っすか?」
「………カエルの子はカエルだとだけ言っておく」
「え、なんすかその不安になる言い方は、え? あれっすか? キオ教官がそのまま小さくなった感じなんすか?」
「さてな、俺はそれ以上は言えんよ」
「ええ!? それはないっすよ先輩!?」
最近は何かと忙しかったからこうやってのんびりできるときに息抜きをするのは良いと思う。
これから色々と苦労するだろうしな。
俺の言葉に冷や汗を流し頭を抱えどんな子供が来るのかと想像し身悶えている海堂を脇目に、俺は口元を緩め周囲を見渡す。
当日の弁当の内容を勝にリクエストしている南。
花見の日に着ていく服を相談しているアメリアと北宮。
さっきまであんな激戦だったのにもかかわらず、この場の雰囲気は平和だ。
「こんな日がいつまでも続けばいいな」
「ん? 先輩何か言ったっすか?」
「いや、明後日の花見が楽しみだって思っただけだよ」
可能なら、来年もまたこんな光景を見たいと俺はつい思った。
今日の一言
春はなんとなくだが、始まりのイメージがある。
毎度の誤字の指摘やご感想ありがとうございます。
今回の話から新しい章に突入です。
今回の章ではリクエストの多かったキャラの話を色々と混ぜられたらなと思います。
これからも頑張っていきます!!
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
※第一巻の書籍がハヤカワ文庫JAより出版されております。
2018年10月18日に発売しました。
同年10月31日に電子書籍版も出ています。
また12月19日に二巻が発売されております。
2019年2月20日に第三巻が発売されました。
内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。
新刊の方も是非ともお願いします!!
講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズが連載されております。
そちらも楽しんでいただければ幸いです。
これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。




