281 上は上で苦労はある
Another side
管理職同士の会議というのが存在する。
中間職、要は部長や課長といった役職の存在たちが、上司と部下を除いて会議をする。
これだけ言うと密会のようにも聞こえるが、実際にそんな話ではなく。
今この場にいる面々はシンプルに意見交換会といった内容で集まっている。
上下関係はなく、同じ立場の存在たちは席に座り、何度目になるかわからないダンジョンテストに関して話し合う。
「ケケケケ。おう、機王。どうよあいつらに深層手前まで潜られた気分は?」
「解答、当初より予定していた期間よりも短かったので驚嘆したが、それだけ。他は想定内であったため問題なく迎撃できた」
『カカカカカ、本丸の前まで攻め込まれたというのに、相も変わらず主は冷静じゃのう』
「解答、本ダンジョンは未完成、最終防衛ラインも現在構成中、よって不死王の言う本拠地への襲撃はまだ先である。よって焦る必要はない」
「言うねぇ機王。あんたが何を言おうがお前のところが一番押し込まれてることには変わらねぇだろが。鬼王も不死王もなんだかんだで中層付近で止めてる。蟲王のアホはくたばったが、樹王と巨人王も似たようなもんだよ。俺に至っては中層にすらたどり着かれてねぇぜ」
「竜王よ、機王を責めてはなりません。彼女の場所にはあのもの達が積極的に挑んでいるのです。他のダンジョンよりも進捗が早いのは仕方ありません」
「違いない。俺のところにも奴らは現れたが、しょっぱなだけだというのに現状が不十分であることを再認識させられた。魔王様の先見の明は確かだったということだ」
ただ、その場に揃っている面々が凶悪すぎることを除いては。
円卓に揃ったのは現将軍たち。
鬼王ライドウ。
不死王ノーライフ。
機王アミリ・マザクラフト。
樹王ルナリア。
巨人王ウオーロック。
竜王バスカル。
蟲王であるクズリが倒れた今、六将軍となってしまっていたがその実力は健在。
剣呑と言うわけではないが、場の空気は物理的にも精神的にも重い。
一般人がこの場に入れば回れ右する間もなく気を失うことだろう。
それくらいに空気に重みがあるが中にいる面々は気にした様子が欠片もない。
先ほどの機王と竜王の会話もそうだ。
この程度の会話、ジャブにすらならないからだろう。
その証拠に、鬼と竜に挟まれているというのに、一番見た目は弱そうな小さな機人は意に介した様子もなく、用意されたジュースに手を伸ばす。
「おいおい、機王さんよ~。そんな甘ったるいものがよく飲めるなぁ」
「解答、自身の体の能力維持には多大なるカロリーが必要であると過去何度も説明したが、それを忘れるとは痴呆が始まった? 竜王」
その少女らしい行動を、お子様かと竜王はからかうがその説明も何度目になるのか。
慣れた仕草でコップを口に運びその果実特有の甘さをゆっくりと味わい。
その後、ゆっくりと返答し忘れずに挑発を置き土産に投下する。
「言うじゃねぇか、久しぶりにヤるか?」
「解答、挑んでくるのなら相手になる」
その挑発に、うっすらと笑みを浮かべる竜王だが、その瞳は喜以外の感情も入り混じる。
その危険な匂いに対して機王は対処することなく、変わらずのんびりとジュースを口に運ぶ。
ヤンキーに絡まれている少女という絵面のはずなのにもかかわらず、むしろ少女の方が好戦的に見えてしまう不思議な光景。
その反応に竜王はさらに好戦的な笑みを浮かべる。
「よしなさい。この場は争う場ではありません。機王も竜王も双方収めなさい」
「そうだ、無駄な話が続くようならば俺は帰る。先の内乱で損失した軍の装備を補充するための作業がまだ残っているのでな」
それに介入できるのもまた同じ立場の存在だ。
ダークエルフをまとめる樹王ルナリア。
巨人族をまとめる巨人王ウオーロック。
双方視線で今にも争いそうな二人をたしなめる。
「ケケケケ、そう怖い顔しなさんな。俺だって本気でヤロウってわけじゃないぜ? なぁ機王」
「肯定、私たちの間ではこの程度挨拶のようなもの、むしろこれで怖気づく方に問題がある」
『カカカカ、確かにのう』
この場にいる存在からしたら漏れ出した物理的に圧力を帯びた闘気など子猫がじゃれあっているようなもの。
それを理解しているのは機王や竜王だけではない。
鬼王や不死王はもちろん、樹王や巨人王も理解している。
「あなた方の場合、その遊びが長引くから問題なのですよ」
ただ理解していたとしても納得はできないということはある。
この場にいる全員があの場の空気が揺らめくような闘気を遊びと言ってのける猛者だ。
なので、そのまま遊びに興じてしまうという心配があるのも事実なのだ。
だからこそ、周囲への被害ではなく遊びに興じて本来の話をないがしろにしてしまう心配がある。
なので彼女もケガではなく時間的損失を危惧している。
仮に目の前の二人が遊びに興じれば会議どころではないは周知の事実、彼女の言葉を否定する輩はいない。
将軍という時間調整の難しい存在が一堂に会す機会など早々に造れない。
なので時間を無駄にしたくないと閉じた瞳で周囲を見回しルナリアはたしなめる。
「待たせたな」
やれやれと首を横に振るバスカルに機王は気にした様子もなくジュースを飲み、マイペースな雰囲気が包む会議室に最後の一人が参加する。
近衛頭、魔王の右腕であり、彼女自身もダンジョンを持つ存在、会社では監督官で通る、エヴィア・ノーディス。
「いえ、約束の時間よりは早いかと」
カツカツと足音を鳴らし最後の空席にその身は座り、この会議は始まる。
「さて、ダンジョンテストの報告会を始める。進捗状況は報告書にまとめてあるから前のモニターを見ろ」
将軍たちと同等の立場でありながら将軍をまとめるようにエヴィアは会議を進める。
体のサイズもあってか、将軍たちの前に存在するディスプレイはサイズが違うが、日本の技術を使う近代的な会議を次郎が見たらどんな反応をするだろう。
そんなことを考えるわけもなく、エヴィアは話を進める。
「現状、ダンジョンテストの進捗率は昨年想定したよりもかなり遅れている。予定していた進捗状況の六割といったところだ。加えて、進捗状況にも偏りが出ている」
将軍たちの前のモニターにグラフが表示され、改善状況の進捗と攻略状況の進捗。
双方と共に各ダンジョンと比較した場合も表示される。
『嘆かわしい話じゃ。この数値も一つのパーティーが大半叩き出している数値。とても喜べる話ではないの』
「肯定、加えて他のダンジョンと比べて進んでいると言われる、私と鬼王、不死王この三つのダンジョンの進捗率は悪くないと言った程度。それでもスケジュール的には遅れている」
「俺んとこのダンジョンに至っては、本当にやる気あんのかってレベルだぜ?ぜんぜん来ないったらありゃしない。暇で暇で仕方ないぜ」
その数値に誰もが不満を隠そうともしない。
魔王の提案したダンジョンの強化計画。
それ自体に反論する者はいなかったが、一年目の結果がこれでは期待値も下がってしまい不満もこぼれる。
彼らの予想ではもっとダンジョンは攻略されている予定だった。
そして、自らにはない発想で強化されるのだと期待すらしていた。
なのに結果はこのざまだ。
一部を除いて期待外れだというのも仕方ない。
言い方は悪くなるが、何せここは勇者の原産地。
強者が大量に発掘されるものだと見込んでいたのにもかかわらず、箱を開けた結果がこれだ。
「エヴィア、この際だから言わせてもらうが、たかが人間を増やしただけでこの数字を挽回できるとは思えん。ダンジョンテストもタダで行われているわけではないんだぞ」
研修を終えた後に続出する退職者。
ダンジョンに挑み、理想に散った者たち。
途中で挫折し、立ち去った者。
理由はさまざまであるが、その勇者としてはあり得ない光景の報告を受けてきた巨人王は今回入ってきた新人に対して苦言を呈す。
人海戦術と言えば聞こえはいいかもしれないが、上がらない質を量で補うことでどうにかしようとする発想だ。
数を揃えるほど予算がかさむ。
それを危惧し巨人王は苦言を口にする。
「わかっている。私とて、なんの策も無しに同じ轍を踏むことはない」
そんな巨人王に対してエヴィアが安心しろ今回は大丈夫だと安易に言うはずがない。
むしろわかっていると言わんばかりに目を鋭くし巨人王の言葉に答える。
ダンジョンテストは国営で行われている事業だ。
いわば税金で行われている。
企業と銘を打ってはいるが、この会社自体が国営企業だ。
元となっている資本金は税金、それを駆使して日本内での貿易をして表向きの顔を作りダンジョンテストを実施している。
その際に動いている額は長寿族だとしても一生を使っても返しきれないような金額だ。
それ故に、彼らの行動は慎重になる。
「テスターに対しての教導、サポートの見直しは当然行なって改善したが、今後も見直しが必要ならその都度変えていく、加えてテスターたちの意識改革にも着手する。巨人王お前には――」
「わかっている、すでに武具の手配は部下たちに通達してある。期日中には納品させる」
この仕事に国家の未来がかかっている。
それ故にこの場にいる誰もが真剣になっている。
「頼む、では次に今後のダンジョン内の変更箇所に関してだが――」
この場で話されるのはそれぞれの保有する軍の予算、そして資材が今後どのように変動していくか。
内乱があり、今の魔王軍は万全と言い難い。
おまけに欠けた将軍を補充できていないことも痛手になっている。
言うならば魔王軍の一師団分の戦力が機能不全を起こしているのだ。
その分の仕事が彼らに回り、余計に動きが遅くなっている。
こうやって会議し、少しでも動きを改善しようとしているが、それでも成果は出にくい。
「そういえばよう、この前の騒動でドタバタしてて忘れてたが、クズリの奴の後釜は決まったのかよ。正直、あいつが治めてた軍が腐ってるのはそろそろどうにかしてほしいところだぜ」
それでもどうにかしないといけないのが、上に立場に立つ存在たちの役目だ。
ダンジョン内の改善のおおよその目安がついたあたりでふと竜王バスカルが思い出したかのようにその話題を投下してきた。
「仕方ないことを言うものではありませんよ竜王。彼らはまとめるべき長を失った群れ。下手に横槍を入れれば内部干渉になり余計面倒なことになりますよ」
蟲王クズリが倒れ、蟲人族と呼ばれる種族の結束力は低下している。
報告には部族同士の衝突もあるという。
まとまりを欠いている奴らの力を充てにするのはさすがにどうしようもないとルナリアはバスカルの話をさらりと流そうとする。
「ケケケケ、だったら俺のところで良い奴を見繕ってそこの頭にしてやろうか?」
ただ、そこで空気を読んで止めるようならここまで捻くれないと言わんばかりに火に油を注ぐようにバスカルは笑いながら提案してくる。
「止めろ馬鹿者、余計ややこしくなる。将軍位が空席なのは問題ではあるが適任者がいないのではどうにもならん」
そんな彼の発言に頭痛をこらえるように額に手を当て、エヴィアはルナリアに加勢し話を終わらせようとするも、まだ彼は止まらない。
「おい鬼王、お前んとこのやつで良い奴がいたろ、あいつはどうしたんだよ」
「ああ? キザンの奴か? あいつは次郎に負けてから自分を鍛えなおすっていって将軍の話を蹴ったぞ」
「ケケケケ、そういえば人間に負けてたな。アイツ、忘れてたわ」
「ああ? なんだその笑い、喧嘩売ってんのか?」
「買ってくれんなら、売ってやるぜ?」
「止めんか馬鹿ども」
飛び火に次ぐ飛び火、大体の話は終わっているので今日はもうここまでかとエヴィアは話を閉めようと考え始める。
能力がない者を上に据えるわけにもいかず、かといってこのまま放置するわけにもいかない。
魔王軍の中でも将軍位につける存在は限られている。
そんな存在がいるのなら、もっと話は順調に進み話題にすら上がらなかっただろう。
「ケケケ、まぁ、意外とその人間がいずれこの場所にいるかもしれんがな」
そんなことをエヴィアが考えているのを無視するかのように言ったバスカルの冗談は大半が鼻で笑うような話であったが。
「ふふ、そうなったら面白いかもしれませんね」
「肯定、今日一番面白い冗談だった竜王」
「あいつがかぁ、そうなったら面白いかもな」
『カカカカ、むしろワシは天変地異の前触れかと思うがの』
「………」
将軍たちの反応は様々。
誰もがそれをあり得ないと断じないのが少し気になったが、それを指摘することはなかった。
「ケケ、ああ、確かにそうなれば面白いよなぁ」
そう、いなかった。
何せこの会社は実力主義、何が起きてもおかしくはないからだ。
今日の一言
期待という言葉は華々しいかもしれないが、それだけではない。
毎度の誤字の指摘やご感想ありがとうございます。
今回で今章は終了です。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
※第一巻の書籍がハヤカワ文庫JAより出版されております。
2018年10月18日に発売しました。
同年10月31日に電子書籍版も出ています。
また12月19日に二巻が発売されております。
2019年2月20日に第三巻が発売されました。
内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。
新刊の方も是非ともお願いします!!
講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズが連載されております。
そちらも楽しんでいただければ幸いです。
これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。




