280 他者からの評価は多種多様である
「色々とあったが、どうにかここまでこぎつけたか」
「いやぁ、色々とありすぎたような気もするっすけどねぇ」
ダンジョンテスターで一番重要なことは何かと新人に問いかければ大半の人は戦闘能力と答えるかもしれない。
実際に業務内容的に重要であるのは事実だからそう思うのも仕方ないと言える。
そもそもの話、新人というのは得てして大なり小なり理想をもって入社してくるものだ。
華々しい業務が自分たちを待っていると。
そんな間違っていそうで間違っていない想像を抱いているだろう新人テスターたちが入ってくる。
ダンジョンテスター正社員四十二名。
ダンジョンテスターアルバイト六十三名。
総勢百五名。
それが第二期生の数。
未だ戦いを知らず、想像力だけで業務内容を補填し、無垢なままこの会社に入社してきた卵たちだ。
そんなことを思っていてもおかしくはない。
「ここからさらにいくら残るかが問題だが、エヴィアさんやスエラが何も対策なしだとは思えん。うまいこと加減して、俺の時のようなことにはならないだろうな」
さて、突然だがそんなまだ右も左もわからない新人である彼ら第二期生と俺たちの第一期生の差は何か?
問われればいろいろな部分が明確に出てくる。
一年という時間は短いようで長い。
その間にできることはいろいろと思いつくだろう。
装備しかり人間関係もそうだ。
一年という時間で積める経験も馬鹿にはできない。
だが、そのどれかが一番重要かと問われれば俺は違うと答える。
そして付け加えるのなら、一年というアドバンテージなど絶対と言えるような差でもないと言おう。
「新人研修、今のところうまくいってるって話っすけどねぇ」
では何が重要なのかと言われればと、この考えは一年前もしたような気がするが今は色々と体験している身として俺はこう言わせてもらおう。
この会社で重要なのは総合力だと、まぁ仰々しくは言っているが要は全て大事ってことだ。
ダンジョンに挑めば挑むほど、自分に足りない部分が見えてくる。
戦闘だけができればいいわけではない。
知識だけがあればいいわけではない。
道具だけを揃えればいいわけではない。
心技体すべてを兼ね備えてこの仕事ができるのだと断言できる。
「事前説明会の時にやったことに足が生えた程度の内容だがな。ダンジョンテスターとして出だしの部分だ。やってることは戦う訓練じゃなくて基礎体力作りと座学がメインで、不満の声もあるみたいだがな」
新人からしたらいきなり装備を渡され、さぁ冒険の始まりだと言われるかと思っていたみたいだが、やっていることは合同での体力づくり。
この訓練が会社側からの人間性や身体能力、そして戦闘者として向いているかどうかの見極めテストも入っている。
それは当然新人たちには知らされておらず、言わぬが花ってやつだ。
黙々とその体力作りに勤しんでいることを願っておこう。
なにせダンジョン攻略ではその体力も重要な要素になる。
重ねて言うが、新人たちには根気よく対応してほしいと思う。
そんな、様々な要素が噛み合ってこそ、ダンジョン攻略と改善が両立する。
ただクリアして終了と言うわけではないのがこの仕事の難しいところだ。
攻略し、攻略できないようにするという矛盾した部分が混在する。
「俺たちみたいにいきなり教官にぶっ飛ばされるような訓練じゃないだけいいかもしれないっすけど、地味な訓練とかで文句言う人とか出てきそうっすねぇ」
そんなことを新人たちは考えもしないだろう。
未だ夢を見て、自分の活躍に胸を躍らせていることだろう。
先日の事前説明会の時から多少減ったものの、第一期生と比べれば倍以上の人数を確保していた。
どこかの大手企業かと言いたくなるような入社人数。
海外からも採用し、その陣容は実に豊かだと言える。
日本だけではなく欧州、東南アジア、アメリカ、ロシアetc。
男女人種問わずに集めた成果が第二期生だ。
「体力知識ともに重要なんだけどな。それがわかるのは仕事を始めてからだ」
「いや、リーダーと海堂先輩、上半身裸で両手に壺もって竿の上に立つってどこの漫画の修行場面でござるか」
「何今更なことを言ってるのよ南。私たちもとやかく言えないでしょ、魔力の操作訓練だってはたから見れば漫画の世界よ」
そんな新人たちが頑張っている最中、俺たち『月下の止まり木』は今日はダンジョンテストではなく、日課の基礎訓練をしている。
戦うばかりがうちらの仕事ではなく、定期的にこうやって体づくりをしている。
前衛である俺と海堂は体力づくりということで、さっき南に言われた通り縦に刺さった全長三メートルほどの竹竿の上に立ち両手を広げその左右の手には水の入った瓶が握られている。
体幹、握力、集中力、体力ともろもろいろんな部位を一気に鍛えられる。
おまけに瓶に入った液体は自身の魔力を吸わせることで重量が変えられる優れものだ。
南からすれば脳筋と言われかねないトレーニングだが、こうやって雑談できる程度には俺も海堂もこのトレーニングに慣れてしまっている。
ただ、慣れているというだけであってきつくないというわけではない。
プルプルと震える腕、そしてその反動で揺れる竹竿、そのすべてを脊髄反射のレベルで制御し体勢を維持しながら雑談できるまでのレベルに持っていくのは大変だった。
それを呆れたように言う南であったが、北宮の言う通り彼女たち魔法職の訓練も似たようなものだと俺は俺で思う
「北宮ちゃんの言う通りっすよ~南ちゃんだってどこの宇宙空間だって言いたくなるっすよ。重力はどうしたんっすか重力は」
「重力もたまには有給申請をしたいらしいでござるよ~特に拙者の周りでは」
「あんたはそれで制御できてるからすごいけど、見てるこっちからしたら頭が痛くなるわよ」
北宮と南は互いに座禅を組み、自身を宙に浮かし、そして周囲に重りを浮かべている。
超能力かと言われてもおかしくない光景だが、これは全て魔力によって制御されている。
自身の魔力を循環させ周囲に分布、その魔力を掌握し重りを浮かし制御するという訓練。
効果は魔力の制御能力の向上、魔力の増幅、そして並列思考の向上だ。
北宮は整然と天体運動のような動きをして時々、複雑な動きを重りに課しているが、南は北宮とは正反対だ。
海堂の言う通りまさに無秩序、重りは南の周囲を縦横無尽に不規則かつ不均等な速度で動き回っているのにもかかわらず重り同士が接触する様子など見えない。
時々接触しそうなやつもあるが、それもすれすれで当たらず交差している。
そのすべてを制御しきっているという南の能力に脱帽する。
「ムー、それだと、私たちの訓練が地味みたイネ!」
「いや、実際に地味なんだけどね」
そんなどこかの漫画かと言われるような訓練内容と比べると、年少組の訓練は地味だと言わざるを得ない。
「仕方ないだろ、アメリアはまだそこまで魔力制御ができていないんだ。前に同じ訓練して重りをクレイモア地雷かと思うくらいにまき散らしたこと忘れたとは言わせないぞ」
「ウッ、それ言われると………」
「あははは、あれはさすがに死ぬかと思ったっす」
アメリアがやっているのは魔力制御の初歩、魔力を一定量魔石に流し込むというアルバイトと言うか内職的な仕事だ。
膨大な魔力を内包してしまった彼女は、大魔法はぶっ放せるのだが、あいにくと逆に初級中級が全く制御できなくなってしまったのだ。
例えて言うなら、今まで家庭用の水道だったのが、今では消火栓のような水道口になってしまったのだ。
その開閉の力加減がなかなか難しいらしく、なので電池に充電するがごとく、小さな魔石にちょっとずつ魔力を流し込んでいるが。
「雑談に混じるのはいいが、油断してると」
「オウ!?」
「砕けるぞって、今ので十二個目だな」
流し込みすぎるとパリンと綺麗な音を立てて魔石は砕け散る。
その様子を苦笑しながら新しい魔石を渡す勝の脇にはアメリアと比べ物にならない数の魔石が箱詰めされている。
勝がやる理由はシンプルに魔力強化、南と北宮の領域に入っていない彼がこうやって魔石を充填する姿は見慣れた光景だ。
「そういえば、新人さんの話ってなんか聞いてるっすか? 新人研修の話はよく聞くっすけど、誰が優秀とか面白いとか俺あんまり聞かないっすよねぇ」
「結構、個性的な人が集まってるって聞いてるけど、詳しい話はまだ聞かないわね」
シクシクと擬音がつきそうなほどにへこみ魔石の残骸を小さな箒で掃除するアメリアを脇目に海堂が話題転換。
内容と言えば最近増えてきた同僚の新人たちだ。
先日の川崎の件で、うちの面々は何かと新人には気を配るようになった。
シンプルに警戒していると言えばまたそうでもなく、今はまだ単純に興味の方が勝っている。
全員が全員川崎のような奴ではないのも事実。
ベニーのように気さくで話しやすい奴もいる。
だからだろうか、どんな後輩がいるのか度々話題に上がる。
ただ、海堂の言った通り、そういった個人情報に上がるほどの個性的な輩が顔を出すにはまだ時間がかかる模様。
「今やっているのは基礎訓練だからな、精々運動神経の良いか悪いかくらいしかわからないところで話題に上がる方が問題だろ」
「ほらこう、あるじゃないっすか、百メートルを三秒で走破とか」
「昔の俺でもそれはできなかったな、できたら教官たちから少しは逃げられたかもな」
「皆だってわかっているでござろう。拙者の運動不足具合を。拙者だったら魔紋を刻んでも十秒以上かかったでござる」
「私だってそうよ、普段よりちょっと速い程度ね」
「ん~、私はそれなりだったカナ? 異世界にいたからよくわかんないけどいつもよりは速かったヨ!」
体力向上訓練で何を期待しているのだと、漫画のような訓練をしている俺たちの話題であったが雑談なのだ流してほしい。
「問題児っていう方面に関して言えば、大なり小なり俺たち全員問題児だからなぁ。人のことは言えん」
「っちょ、先輩と一緒にしないでほしいっすけど! 俺そこまで問題行動起こしてないっすよ」
「私は、ダメね。私も問題児側だったわ」
「拙者はノーコメントでござるよ~」
「アハハハ、それに関して言えば一番私が問題児だったカモ」
「僕は………いえなんでもありません」
そして、奇天烈や変な意味で目立つという話題に変えてやればここにいる面々何かしらやらかしている奴らばかり。
人をとやかく言えるような立場ではなかった。
「となると、こう言っちゃなんっすけど、かわいい子とかそっち方面の話題になるっすねぇ」
「それに関しては俺はパスだ。美人の嫁候補が四人もいる時点で盛り上がれる自信はない」
「私もパスね」
「拙者もでござる~」
「僕もそういう方面ではちょっと」
「私もいいかなぁ」
「え!? 普通こういう方面で盛り上がるっすよねぇ!? なんでみんな乗り気じゃないっすか!?」
そして、男と女が揃ったのなら出てくる容姿の話題になるが、この話題が一番盛り上がらなかった。
様々な国の人が集まるのだから盛り上がるだろうと思って話題を振った海堂は首を左右に振り賛同を求めるも誰もが難色を示した。
それもそうだろ。
俺は言わずもがな、スエラにメモリア、ヒミクそしてエヴィアさんだ。
種類の違う美人四人に囲まれてこれ以上何を求めろというのだ。
北宮と南は現状その話題はタブーに近い。
勝も似たような心境か、あるいは空気を読んで言うのをためらったのだろう。
一番アメリアが気楽な答えだろう。
今は恋よりも優先したいことがあると見た。
「今までの話を総評すると、人数は多いけどパッとしないってことになるでござるが、実際問題どうなんでござろうね?」
「そんな人材を集めて満足するような会社ではないとだけ俺は言っておく」
「お、言うでござるねぇ。リーダーの勘でござるか?」
「経験談だ」
そんな雑談で上がった話をまとめるが、南もわかっているだろう。
今年集まった新人たちが皆平凡ではないことを薄々感じ取っている。
それがなんなのかまではわからない。
ただ一つだけ確実に言えるのは。
「それと、新人ばかり気にしてる暇はないぞ。俺たちも俺たちで越えるべき壁があるってことは忘れんなよ」
「わかってるでござるよ~」
「はぁ、忘れようとしていたっすのに」
「しっかりしなさい。今回ばかりは私たちの実力不足だったんだから」
「う~、本当に勝てるのかなぁ不安にナルヨ」
「頑張るしかないんですよね」
前に進むのなら、いずれ立ち止まる日が来る。
「やらないって選択肢はないんだ。対策考えるために後でミーティングだ」
順調に進められていたダンジョン攻略で喫した敗北を、俺達は受け止めないといけない。
今日の一言
他者の視点は常に変化する。
毎度の誤字の指摘やご感想ありがとうございます。
次回で今回の章は終了の予定です。
面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。
※第一巻の書籍がハヤカワ文庫JAより出版されております。
2018年10月18日に発売しました。
同年10月31日に電子書籍版も出ています。
また12月19日に二巻が発売されております。
2019年2月20日に第三巻が発売されました。
内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。
新刊の方も是非ともお願いします!!
講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズが連載されております。
そちらも楽しんでいただければ幸いです。
これからもどうか本作をよろしくお願いいたします。




