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231 終わり方に不安が残る仕事は、終わっていないのと同じ

 朝帰りと聞けば大学生のころはからかわれたりおだてられたりと場を盛り上げたり話題になったりとプラスの方向で働く印象が強い。

 だが、それに反して社会人になるとあまりいい印象は受けない。

 仮に同じ飲み会の朝帰りでも次の日のことを気にしないといけないし、朝帰りするほど飲めば当然体調も崩す。

 それで仮に休むとなれば体調管理や時間管理ができないという烙印が押され、既婚者なら浮気を疑われる可能性すらある。

 ブラック企業なら徹夜仕事などという法律違反の超過残業も疑われる。

 なので基本的に朝帰りと言われそうな行動は避けるべきなのだが。


「ただいま」


 現在朝の七時。

 昨日の夜それこそ新年が明けるタイミングで出かけたことを考えれば、文字通り朝帰りをしたことになる。

 絶賛朝帰りをしている俺はスエラたちがおそらく起きているだろうという時間に帰ってきた。

 もっとやることがあればもっと帰るのが遅くなったのだが。

 事後処理は霧江さんが送ってきた部隊に任せ、外様の俺には帰っていいと報酬の内容の打ち合わせは後日ということで帰宅が認められた。

 事情の方の説明はいいのかとも霧江さんに聞いたが。


『事情は委細承知しておりますのでお気になさらず。ええ、今回の件で非常に詳しい方を見つけましたので』


 と何やら怪しげな笑い声とともに答えてくれたので晴れて俺は年越しの仕事が終わったわけだ。

 強いて不安が残るというのなら。


『それよりも姉さんを連れ帰ってほしいのですが』

『あたしはあんたと話し終えてから帰るよ』


 火花散らした姉妹のあの後の会話が不安だ。

 おそらくはあの鬼女の処置に関しての問題なんだろうなとは思ったが、深くは追及しなかった。

 俺が知っていることなど霧江さんからしたらほんの一部でしかなく、おまけにそのほんの一部分も把握している内容の一部でしかないらしい。

 よって俺がやったことは本当に戦闘のみということ。

 報告書すらお袋が榛名と呼ばれた鬼女の後始末ついでにやっておくの一言で不要になってしまった。

 そんな一抹の不安要素を抱えながらも、俺は寄り道をせずまっすぐに帰宅した。

 事情を説明しないといけないということもあったが、何よりも先に無事を知らせた方がいいかと思ったからだ。


「ずいぶんとのんびりとした帰宅だな」

「おかえりなさい次郎さん」

「あ、ああ、ただいま」


 そう思って帰ってきたのだが、普段なら出迎えてくるヒミクが玄関におらず、まだ寝ているか? と思いつつリビングまで行くとそこには予想していない人がスエラとメモリア、そしてヒミクと対面して座っていた。

 スエラが俺の姿を見てほっと安心したように出迎えてくれ、メモリアとヒミクもおかえりと言ってくれたので同じくただいまと返しておく。

 そして、最後になったが、いつまでも立っているわけにもいかず俺はこの部屋に普段いない悪魔に挨拶をする。


「監督官、おはようございます」

「ああ、良い新年の朝だ」


 監督官は手にはコーヒーを抱え、仕事の時間ではないから白のスエットに黒のタートルネックのセーターというシンプルな恰好だった。

 普段であればそのラインが目立つ格好に色を感じるのだが、あいにくとそんな気持ちにはなれない。


「次郎さん、大方の事前説明はしましたので」

「ああ、わかった」


 スエラたちの表情を見る限りそこまで大ごとになっていないと予想するが、監督官が感情を見せるときは見せてもいいと思った時だけ、そのままの表情を鵜呑みにすると痛い目に遭う。

 ただスエラの声色からして、緊張しすぎるということはしない方がいい。

 そして、下手な隠すような言葉、今回はどのような用件でなど相手を探るような言葉は避けるべきだ。

 監督官は見るからにプライベートだという恰好ではあったが、ここにいる理由は明白。

 俺の今回の行動に関して事実確認だろう。

 今回の行動は明らかに規則違反。

 身内関係からの依頼ではあったのと人命救助というお題目はあったが、手続きを踏まず勝手にやって規則違反をしていいというわけではない。

 言い訳になるが、スエラたちに伝えたら報告はするつもりであった。

 そして然るべき処分も受けるつもりもあった。

 良く言えば逃げる気も隠れる気もないと格好つけることもできるが。

 悪く言えば開き直っているとも言える。

 で、あるのだがまさかのこのタイミングに監督官がいるとは思っていなかった。


「そんな表情をするということは自分のやったことの自覚はあるようだな。全く私も舐められたものだ。自分の領域ダンジョンで何が起きているか悟られないわけでもあるまいし、あんな夜中に出掛かればいやでも目に付く」


 そんなことも気づかなかったのか? と聞いているかのように最後はうっすらと目を細めてヒミクが淹れただろうコーヒーを飲む。

 規則違反をしたという罪悪感から俺ができる行動と言えば。


「申し訳ありません」


 素直に頭を下げることだ。

 人の命を救ったのは確かだ。

 日本で起きそうな問題の解決に助力したのも確かだ。

 だが、そのことを全否定されない限りは俺にも非がある。

 その点は筋を通さなければならない。


「素直に自分の非を認めたか、生真面目なのはいいが些か物足りないな……まぁ良しとしよう。私も今はオフだ。コーヒーが飲み終わるまでの間くらいの時間は話は聞いてやる。話してみろ」

「はい」


 前の会社なら頭から何かあったのか聞かず俺の行動を否定するのだが、今の職場は話を聞いてくれるから気分的には気楽でいられる。

 だが、それが認められるかどうかまではわからない。

 俺がやったことはいわゆる、偽善とも取れる行動、慈善活動と言えば聞こえがいいがやっている内容はしりぬぐいだ。

 自分に力があるから人を助けようと、それが社則を破ることになると理解しててやったことだ。

 相応の処罰はあるだろうと踏み覚悟し、年末から今までやったことをすべて報告した。


「なるほど、こちらの世界の組織に接触したか。魔法に近い技術もあったのは本当か?」

「はい、間違いなく」

「そして、うちにいる鬼族と似た鬼か……特徴を聞く限り分類的には大鬼オーガに近いか」


 時折詳細を確認する監督官であったが、テロ行為から鬼族の騒動、そして俺が知る限りの裏事情もすべて流れで聞いてくれた。

 コーヒーを飲んでいる間と言っているのにもかかわらず、そのコーヒーは俺の説明の間はテーブルから離れず、監督官は顎と肘に指を添え話を傾聴していた。

 時折質疑応答を繰り返し気づけばコーヒーは冷め、話し終えたころにヒミクから新しいコーヒーを受け取っていた。


「なかなか面白い話だな。次郎」

「そうですかね?」

「ああ、聞けば聞くほど興味が出る。日本の情報は常に探していたが裏の方になれば簡単にはいかん。組織というのは黒い部分は隠したがるからだ。我々もそこを知りたくて探していたが痕跡はあれど見つからなかった。なるほど、穴倉に隠れられては我々でも簡単には見つからなかったが、こんなところで尻尾を掴めるとはな」


 監督官の言う痕跡というのは魔力的な話ではなく歴史的な部分でということ。

 あからさまにおかしいという部分の話は除き、歴史というのは如実に真実を映し出す。

 その中に垣間見えた裏の存在。

 今では娯楽になり物語となり空想の存在だと言われる存在。

 俺が出会った陰陽師に鬼はもちろん、忍者や神話の神々といった存在だ。


「人間という存在は見たモノしか信じない。空想にしてもそれを想像するための材料がなければその存在を作り出せない生き物だからな」


 今の時代みたいに情報がないならなおのことだとは監督官の話。

 だからこそ、いや、魔王軍だからこそその人間の性質に目が行く。

 普通なら妄想の一言で済ませるような内容を、あると断言し組織的に探すだけの行動力を備え、実際に見つけてしまったのだからすごいとしか言いようがない。

 そして俺の話した内容は問題ではあるが深刻ではないということも分かった。


「なるほど話は分かった。結論から言えば、私は今回の件は報告はするが問題視するつもりはない」

「何故です? 俺の行動は」


 本心からはその言葉が真実であるか否かを問いたかったが、癖でそこまで至った経緯を聞いてしまった。

 第一、もし仮に俺の行動が周囲に知られそれが例外になってしまったら後々問題になる可能性もある。

 だから、自分の行動を規則違反だと言おうとしたが、コーヒーを飲む監督官がそれ以上言うなと視線で止めてきた。


「深夜での行動で今回の件に気づいているのは私を含め少数だ。個人で手を貸したという点も幸いした。外部への情報の漏洩が最小限で済んだ点も大きい。それを評価しない私たちではない。魔王様も同じ意見だろう」


 そんな俺の態度に対して監督官は本当に生真面目な奴めと違反行為に対しての俺の行動に苦笑を一つこぼしてから自分の考えを聞かせてくれた。


「今回の件は仮に漏れたとしても例外中でも特例としての扱いになる。おいそれと同じような状況になる確率など考えるのが無駄になるほどのだ」


 わざわざ厄介ごとに首を突っ込み慈善活動をする奴がどれだけいるだろうかと監督官は面白そうに笑うが、その目元は気のせいではなければ少しだけ普段よりも優し気だった。 


「恐らく今回の件で問題視してくるのはテスターの扱いに対して不満を抱いている輩が文句を言ってくる程度だが、それも問題はないはずだ」

「徴用派のことですか?」

「ああ、先日の件で多少静かになったが、いつもこちらのあら捜しをしているあいつらが黙ることはない。そこの堕天使のときなど、魔導炉の炉心にしてしまえとも言われたくらいだ」

「む、そんなのは私はごめんだぞ」

「こちらとしても味方に私のダンジョンで暴れられるのはごめんだ。排除するにしても次郎の心証を悪くする理由はない」


 スエラの言う徴用派というのはテスターの扱いを奴隷のようにするという過激派のこと。

 先日の勇者騒動で被害を受け静かになったが虎視眈々と機会を狙っているらしい。

 実際ヒミクはダンジョンコアにされている経験がある。

 それを再びなんてことはヒミクも避けたいだろうし、俺もいやだ。


「たとえ今回の件を問題に上げられても対処は可能だ。おそらく日本の組織からしたら次郎、貴様にはなんらかの組織の後ろ盾があると思われているだろうな。血筋からしてその潜在能力があるとは思われているかもしれないが、個人の能力だけであれだけの戦果を挙げられると思うほど愚鈍でもあるまい。だが、逆に言えばそこまでしか知られていないともいえる」


 一つ目と指を立て特徴を捉えられなかった点が良かったと監督官が言う。

 もし組織的、メモリアなりヒミクなりテスターの誰かが手を貸していたらもっと深刻な話になっていた。

 そして二つ目と二本目の指を立てる。


「対してこちら側は与えた情報と比べて相手の情報を得られた比は大きい、組織的な話もそうだが技術的な話もそうだ。次郎が使ったのは魔紋による強化だけ、相手は陰陽術に鬼という存在、加えて神具という神と関わる物も確認した。こちらの技術漏出は最小限で相手は非常時で晒したこの差は大きい」


 最後にと監督官は三本目の指を立てる。


「素肌をさらして魔紋を見せているわけでも魔力の発生させる方法を聞かせたわけでもない。武器もそうだ。貴様の武器である鉱樹を持ち出していたのなら問題だが、素手で相手を圧倒したのなら問題はない。おまけに目撃したのは相手の組織では目の上のたん瘤である小娘一人、総合すればこちらとしてはほぼ痛手はない」


 損よりも利益の方が大きいそれが理由だと監督官は締めくくる。

 総評すれば目立った情報漏洩が少なく、そして報告書を書くことになるが相手の情報を多く持ち帰ったことが評価されたようだ。


「だが次郎、このすべては結果論だということを重々承知しておけ。魔王軍は結果が良ければ評価する組織だが過程をないがしろにしているわけではない。勝手な行動はそれ相応に評価される。周囲を敵に回したくないなら次はもう少し考えて行動するのだな」

「わかりました」


 だが、釘を刺す部分はしっかりと刺された。

 好き勝手に動き回ることが許される奴はまれにだがいる。

 だが、その行動すべてが好意的にとらわれるわけではない。

 反感を買うのは最小限にするのが社会の鉄則というわけだ。

 反省しなければと思って今後のことを考える。


「すみません、監督官。今回の件で一つ相談があるんですが」

「なに?」


 そして考えた結果、監督官がいるのならちょうどいいと言わんばかりに鬼女とお袋のことを相談し。


「詳しく聞かせろ」


 面白いものを見つけたという笑みを見せられるのであった。

 その笑顔に頷く形で俺はお袋が鬼女、榛名という名の少女を自分の手元に置こうとしていることを説明した。

 遠からず俺の方にもその結果の連絡、あるいはお袋の思い描いた結果に近づけるべく俺の方に相談が来るのではという話をすると。


「なるほど、それは都合がいい」

「都合がいいですか? 悪いんじゃなくて」


 監督官はさらに嬉しそうに笑った。

 この会社は基本的に守秘的だ。

 だからこうやって外部から接触を受ける話に対して忌避的な反応が出てくるかと思いきや逆に都合がいいと言ってきた。


「今言えることは我々も現状維持がいいとは思っていないということだ。次郎、その話も含めて報告書にまとめろ。まぁ、急がなくてもいいが休みたいのなら早めに仕上げておくことを勧めるぞ」

「監督官は?」

「私か? 私も休暇だよ。そんなに意外か? 私とて休みくらいはとる」


 意味深長にこれ以上は詮索するなと釘を刺してきた監督官は、最後にコーヒーを飲み干し席を立つ。

 もしかしてこのまま仕事に行くのかと思い問い返してみたが、監督官が珍しく表情を崩し久しぶりの休暇を楽しむと言ってきた。

 そんな監督官を見送るために俺は玄関まで来た。


「今回は次郎とスエラの間にできた子供の経過観察とそこの堕天使が大人しくしているか確認しに来たということになっている。ぼろを出すなよ」

「わかりました」


 そんな俺に重ねて忠告をしてきた監督官は転移せず玄関の扉に手をかけたが。


「そうだ次郎」

「はい」

「近々魔王様がお前に面談をしたいと言っていた。時期は追って伝える」

「は? へ?」

「その間抜け面をさらさぬように覚悟だけは決めておけ」


 最後にとんでもない置き土産をしてから監督官は去っていった。


 今日の一言

 自分のやったことは最後まで責任を持って行動すべし。


今回は以上となります。

毎度の誤字の指摘やご感想ありがとうございます。

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