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232 仕事終わりの贅沢ってのは格別だな?

 そして今回の件の報告書を書きあげた俺はようやく休日出勤が終わり再度の休日に突入だ。

 仕事をした分、その疲れをいやすために社内のとある施設に来ていた。

 社内施設と聞けば良くてスーパー銭湯のような施設、あるいは軽いレジャー施設、はたまたマッサージチェアがあるような場所を想像するかもしれないが、この会社はその想像を超えてくる。

 カポン

 と温泉の番組を見ていると聞こえるときがあるが、あれは木製の桶を床に置いたときに響く音だということを今の子供は知っているのかと思う。

 そんなことを思いながら目の前の光景を眺める。

 青い空に一面の銀世界、静かな絶景が目の前に広がっている。


「あー、癒される。新年から働きすぎたぁ」


 連戦に次ぐ連戦、長距離移動もして体は思ったよりも疲れていた。

 そんな疲れをどこぞの秘湯と言えるような社内からいける温泉で癒している。

 温泉というのは人間が生み出した文化の中で五本指に入るくらいに素晴らしい文化だと思う。

 魔紋によって肉体を強化されてから疲れにくくはなっていたが疲れないわけではない。

 ほぼ徹夜した俺にとってはこの広々とした温泉施設は体を癒してくれるのに最適な空間だと言える。

 日本の旅館を再現した施設。

 この施設のすごいところは、ホテルのように部屋を連ねているのではなく、ダンジョンの亜空間を利用して大きな山の中にペンションのように小さな旅館をいくつも作り出したのだ。

 ランクによって大きさは変わるがすべての旅館に浴場及び露天風呂を設置、転移陣によって料理も運んでくれる。

 元々新年、妊婦のスエラを放って初詣なりどこかに出かけるのもどうか思っていた俺たちだ。

 なので部屋でただのんびりと過ごすよりもこういった施設でたまには過ごそうと年末に予約しておいた。

 グレードも少し高めの物にしておいたからかなり良い景色だ。

 新年早々にあんなことがあっても、監督官から休めと言われれば休んだ方がいい。

 時には開き直ることが重要ということでキャンセルすることなく予定通りスエラたちときたわけだ。


「いいなぁこれ、たまの贅沢ってこういうことを言うんだよなぁ」


 少しグレードの高い旅館を選択したおかげか個人風呂と言う割には小さな旅館の大浴場張りに広く。

 俺が足を伸ばしても平気どころか、大人が十人ぐらいは入れるであろうスペースを持つ内風呂とそれと同等の露天風呂。

 旅館内に従業員はおらず、何かあれば連絡し呼ぶスタイルがプライベートを確保している。

 それに加えて旅館同士は物理的に距離で仕切られているから静かで、こうやってのんびりすることもできる。

 喧噪がうるさい都会では感じることのできない静寂。

 自然の音のみという空間はやはり何かを癒す効果があるのだろう。

 俺は今露天風呂にいるのだが、目の前の雪景色は絶景と言ってもいい。


「この景色を作った奴はすごいなぁ」


 その分値段も張るが、払った甲斐のある内容でむしろまた来ようと思う。

 目の前の絶景もそうだ。

 季節によって景色も変わるとこの旅館に案内してくれた悪魔の従業員の言葉を思いながらこの景色を作り出したセンスを称賛する。

 ダンジョン内ということだから風景も自由自在。

 前に行ったレジャー施設もそうだがダンジョンの力というのはやはりいろいろなことに応用が利く。

 試験的な部分も含めれば、どっかのお偉いさんがウナギにはまって監督官に許可取ってウナギの養殖にも挑戦しているという噂も聞く。

 要はダンジョンという存在は環境を整えるという分野に限って言えば他の追随を許さないほど自由度が高い。

 砂漠だろうが大森林だろうが大海だろうが氷山だろうが用意できる。

 快適な農場の一つや二つ楽に用意できて、悪天候や災害に悩まされない環境を整えるだろう。

 その恩恵にあやかっている身としては、ゆくゆくは日本の食品業界にも革命を引き起こしそうだなと思いつつ一時の憩いを楽しんでいると。


「どうぞ、お酒です」

「おう、わるいな」


 そんなことをのんびりと考えている時に、ゆっくりと湯に浮かぶ桶に乗せられた酒が差し出される。

 それを何の違和感もなく手に取りそっと口の中に含めば、さらっとした舌触りと米の甘味、そして最後に酒独特のアルコールの味が口の中を占める。

 ああ、一度はやって見たかったんだと思ってその酒を舌の上で転がしてから飲む。


「うまい」


 がっつり飲むのではなく時には味わって飲む。

 そんな風情もいいな。

 そしてお猪口に入っていたお酒を飲み干すと白い肌の手が再びそこに酒を注いでくれる。


「おいしいと言っていただけて良かったです。私も飲んでみましたが次郎さんの口に合ってよかった」

「……自然に混浴してるなメモリア、一応言うが俺は男だぞ」

「今更ですね」


 温泉に入る音もしなかったぞと思いつつ、視線は隣で湯に浸かるメモリアに行く。

 おいしい酒に目の前の絶景、そして隣には美女。

 温泉の贅沢をすべて堪能していると言って過言ではない状態。

 濁り湯だから浸かっている部分は見えにくいがタオルで隠しているかいないかくらいはわかる。

 そのことから彼女が何も身に纏っていないのはすぐにわかった。


「確認するが、俺が先に入っていいってさっき言っていなかったか?」

「気にするようなことですか? 互いに見せていない部分はないのですし、少なくとも私は気にしません」

「それもそうだがな」


 俺が気を緩めていたというのもあるが、こうもナチュラルに隣に入られると気を許しているのかそれとも俺の努力が足りないのかと些か不安になる。


「それに、先ほど言ったのは女性は準備に時間がかかるので先に入っていいという意味ですよ?」


 コテリと首を傾げられ、メモリアは何かおかしなことでもと聞いてくるが、俺は内心わかるかと叫びつつ、これも異世界との常識の違いなのかと思いつつもメモリアの扇情的な姿に頬が赤くなるのをそっとごまかすようにお酒を飲み干す。


「そこまで深読みできるのが当たり前なのかそっちは?」

「いえ、できませんね。父もこういった話はどちらかと言えば鈍感でしたので」

「できないのかよ、なら」


 一緒に入る必要はないよなと言う前に。


「はい、ですのでこれは私の願望です。次郎さんと一緒に入りたかったので」


 メモリアの素直な言葉が俺の耳に入る。


「ずるいな、女は」

「はい、ずるい生き物ですよ私〝たち〟は」


 ずるいと口にしつつもうれしいことには変わりない。

 照れ隠しがてらクスリと笑うメモリアを横目にお猪口をあおる。

 メモリアも言った通り互いに何もかも見せ合った仲だ。

 今更互いの肌を見せあっても少し気恥しいってだけで居心地が悪いってわけではない。

 その気恥ずかしさも温泉によって少し頬が上気しほんのりと赤くなったメモリアの色に当てられたからだと自分に言い訳してみる。

 さっきも言ったが今の光景は温泉での贅沢だ。

 男として拒否するつもりはない。

 まぁ加えて言うとしたら。


「〝たち〟ねぇ」


 まだ、美女は増えるということだ。

 そのメモリアの言葉と同じタイミングで背後に気配を感じる。

 そして、内風呂から露天風呂に繋がる扉がゆっくりと開かれる。


「本当にずるいなぁ」


 その扉からだれが入ってくるかなど考えるまでもない。

 そしてこれからできる光景を男の俺は断ることなどできない。

 できることと言えば。


「お待たせしました」

「待ったか主よ、む、メモリアよまた抜け駆けか」


 にこやかに入ってきた彼女たちに向けてそっとお猪口を掲げることくらいだろうか。

 まさかこんな光景を目の当たりにする日が来るとは俺自身も露ほども思っていなかった。

 湯煙でうっすらと視界が遮られているが、その程度ですべてを遮ることはできない。

 タオル越しでもわかる豊満な肉体が目の前に飛び込み、そのつややかな光景が俺の頬をさらに熱くさせる。


「お先に入ってます」

「こっちは先に貰っているぞ、体を冷やすと悪い二人もどうだ?」


 現代日本ではお目にかかれない、一種の桃源郷。

 その光景にまだ慣れていないというのはある。

 そしてその現実を受け入れ、俺は支え守らなければならない。

 平等に愛そうとは努力しているが、複数の異性にこうやって好意を向けられたことがない。

 だから手探りで接しているという感覚は否めない。

 それが面倒ということは一切ない。

 むしろ今の時間を愛おしいと思っているのはやはり俺が男だからということだろう。


「ええ、でしたら隣失礼しますね」

「む、それなら私は主の前をもらおうか」


 おなかが目立つスエラではあったがその綺麗さは衰えるどころか、色気と言うより母性と言えばいいのだろうか。

 母としての雰囲気を纏い女性として綺麗になったスエラ。

 そんなスエラにお猪口をお盆に置き、手を差し出し、ゆっくりと温泉に導く。


「気持ちいいですね」

「熱くないか?」

「ええ、大丈夫ですよ」


 そのままメモリアとは反対側の隣に浸かったスエラは素直にその表情を緩める。

 その間にそっと俺の前を通り過ぎ正面に位置するようにヒミクが入る。


「部屋の風呂も大きいが、やはりこれくらいないと翼が広げられないな」


 こっちは翼を広げて温泉に浸かっているさすが堕天使と言えばいいのだろうか。

 神々の創造した肢体は絶妙なバランスを誇り、それを恥ずかしがることなく俺に見せている。

 そのヒミクは丁寧に漆黒の翼の手入れをしている。


「ん? どうした主、私に見惚れたか?」


 その光景は芸術とも言ってもいい。

 写真で納めても、絵画として描いてもその美しさ艶やかさは十全に描き切れないと思わせる。


「ああ、お前に見惚れない日はないよ」


 そんなヒミクが少し照れくさそうに笑い、冗談を言ってくるものだから俺はつい本音で答えてしまった。


「む、そんなに素直に言われると少し、照れるな」


 それがヒミクにも伝わったのだろうか、さらに照れて翼の手入れに力が入ってしまった。

 そんな姿もかわいく、ついつい酒が進む。

 まったく、俺は果報者だよ。

 そして誰だ、美人は三日で飽きるって言った奴。飽きが来るどころか、まだ照れて仕方ないぞ。

 まぁ、こんな美人の嫁さんを三人ももらって飽きたとほざくなら天罰が下るか。

 照れているヒミクは少し顔を逸らしながら羽の手入れに没頭するが、チラチラとこっちを見ている。


「あら、私には言ってくれないんですか次郎さん」

「勘弁、はしてくれないか」

「はい、逃がしません」


 そんな姿にしてしまった俺の言葉をスエラは求めてくれる。

 酔った勢いで言った俺も気障すぎて照れてしまって同じ言葉を言うのはいささか照れくさい。

 だが、期待には応えたい。

 なので。


「え、えっと次郎さん?」

「スエラ、愛してる」


 ここは酔いに任せて、本心をぶつけてみる。

 そっとスエラの髪に手を添え、まっすぐに瞳を見つめシンプルに言ってみた。

 酔っていても意識は正常、顔が赤くなるのは仕方ない。

 だが、目はそらさない。

 いきなりのことに少し嫉妬していたスエラの顔は、褐色の肌でもわかるくらいに赤く染まり、目を潤ませ。


「はい、私も愛してます」


 そのまま体を預けるように俺に寄り添ってきた。

 朝っぱらから温泉で何をやっているんだと、事態が二転三転しすぎて、頭が温泉と酒以外で熱暴走しそうになっている俺を他所に、止めを刺すように反対側にもぴたりと寄り添う存在がいた。


「……」

「メモリア?」

「……」


 このままいけばスエラと口づけの一つでもするのだろう雰囲気に割り込む存在。

 メモリアは無言で俺を見上げ言葉を待つ。

 普段は色白な彼女であるが、頬を上気させ、普段と違った色気を見せ俺の言葉を待っているとわかる、縋るような視線を向けられては男の俺は白旗を揚げるしかない。

 ため息もご法度。

 スエラもそっと微笑み寄り添いながら俺の放つ言葉に耳を傾けていた。

 だが、少々困った。

 見惚れていた、愛してると続いて俺は彼女にかける言葉はなんだ?

 好きだ? いやランクが下がってる。

 純粋にメモリアも愛してると言えばいいのか?

 それだと何か違う気がする。

 自分の語彙力のなさに溜息をつきたくなるが、そこは空気を読みこらえる。

 ……このまま見つめあっても仕方ない。

 時間が経てば経つほど、彼女を不安にさせてしまう。

 なら、勢い任せで言った方がいいのか?

 そんな時、ふと教官たちと飲んでいた時、キオ教官とフシオ教官の会話を思い出す。


『あ? 女を平等に愛す方法だぁ?』

『カカカ。次郎も、女を囲えるようになった。その質問も出てくるのは自然。なれば助言を授けるのも年長者としての責務』


 あれは、スエラだけではなくメモリアと付き合い、そしてヒミクとも関係を持って幾日か経ったある日だ。


『お前は一人しかいないだろうが』

『ワシとて若いころは幾人もの女性を侍らせたものよ』

『それが今じゃ一人の天下ってか?』

『カカカカ、今の妻を除いて皆、骨になってしまったわい』

『シャレになってねぇな!!』


 ハーレムなんぞ持つ予定のなかった俺は、同時に女性を愛すという状況があまりなじみがなかった。

 当然と言えば当然だ。

 昨年までは普通の日本のサラリーマンだったのだ。

 むしろハーレムなんて状況を想定している方がおかしい。

 二人ぐらいならまだどうにか知恵を振り絞ったらなんとかなったかもしれないが三人になるとそうともいかない。

 知識、経験とも不足している俺は、当時恥を忍んでお二方に相談したんだ。

 そんな二人はニヤニヤと笑いながらも、経験談を語り為になることを言ってくれた。


『いいか次郎、こっちの世界の女はな』

『なかなか過激でストレートじゃ』

『そんな女どもにピッタリな言葉を教えてやるよ』

『カカカ、何安心せい。シンプルな言葉じゃよ。ワシもこの言葉で何度救われたか』

『おう、俺もたまに使ってるぜ』


 酒に酔い、俺も二人のペースに合わせながら飲んで、少しおかしなテンションで真剣に聞いていたから咄嗟に思い出せたのだろう。


「メモリア、子供は何人ほしい?」

「では、最低三人ということでお願いします。もちろん男女両方です。ご希望ならそれ以上でもかまいません」

「それでしたら私も後二人は弟か妹が欲しいですね。ただ、次郎さんが望むなら。ええ」

「む、その言葉はずるいぞ主、私は野球チームというのを私の子供で組みたいぞ」


『カカカカカカ、なにせ一番欲しがる言葉が』

『愛した男に子供の人数を聞かれることだからよ』


 だが、言った後に思う。

 俺、もう少し冷静になれ。

 なぜ様々な教えがあったのにもかかわらず、この言葉をチョイスしたと、言った後に思った。

 いや、本心であるから後悔もしていないが、いささか刺激が強すぎた。

 だが


「ご期待には沿えるように努力する」

「でしたら、この後にでも」

「ああ、スエラの子供にも弟か妹は必要だろう」

「頑張ってください次郎さん」


 良しとしよう。

 こんなにも彼女たちが喜んでくれているのだから。

 ただ、この後鍛え上げた体が悲鳴をあげないか少し不安ではあるが。


 今日の一言

 家族計画ってのはしっかり相談してヤろう。


今回は以上となります。

毎度の誤字の指摘やご感想ありがとうございます。

面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等よろしくお願いいたします。

※第一巻の書籍化がハヤカワ文庫JAより決定いたしました。

 2018年10月18日に発売しました。

 同年10月31日に電子書籍版も出ています。

 また12月19日に二巻が発売しました。

 2019年2月20日に第三巻が発売されました。

 内容として、小説家になろうに投稿している内容を修正加筆し、未公開の間章を追加収録いたしました。

 新刊の方も是非ともお願いします!!


また、講談社様の「ヤングマガジンサード」でのコミカライズも決定いたしました。

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