102 先輩や上司に質問しに行くのは勇気がいる
田中次郎 二十八歳 彼女有り
彼女 スエラ・ヘンデルバーグ
メモリア・トリス
職業 ダンジョンテスター(正社員)
魔力適性九(準魔王級)
役職 戦士
「それで? とりあえずは言い訳を聞こうか?」
「次郎さん怖い」
「ああ?」
頭ごなしに叱るのも俺的には筋が通らないと思っている。
事情があるならそれを聞いてから忠告する。
そしてその話を生かすか生かさないか、どんな選択をするかは相手に任せるのが俺のやり方だ。
無闇矢鱈に叱るのは相手のやる気を削ぐことにつながる。
そうなれば仕事の効率は落ちて俺の仕事が増えるという経験に基づく判断だ。
まぁ、教官直伝の笑顔で威圧するくらいは目をつむってほしい。
「え~と」
タバコを一本取り出し、聞く姿勢を取る。
手頃な場所に座りながら休憩を取りたいところだが、あいにくと結界を張れる南と北宮はいない。
だから警戒する必要が出てくるので立ち話と洒落込む。
アメリアは隠し事がバレた小学生のように視線を合わせず言うか言わないかを迷っている。
「次郎さん、怒ってル?」
「怒るかどうかの判断材料をお前に求めているところなんだがな?」
質問に質問を返されてため息を一つこぼすが、その程度で気分を害するほど短気ではない。
今の気分的にはよほどのことがない限り怒るつもりはない。
怒らないと言っても大半の人物は信用しないからこういった言いようになってしまう。
「……その、ネ。私ってパーティーに入って日が短いよネ?」
「まぁな」
アメリアをこの会社でアルバイトさせて一ヶ月と少し、他のメンバーと比べれば圧倒的に経験値は少ない。
だから、スキルと体の動きを踏まえて直接戦闘の少ない情報収集をメインとした斥候ポジションを任せた。
「ダンスも上手くなるにはいっぱい練習しないといけないし、私こっちだと友達少ないからイッパイ時間あるから、あう」
「はいはい、わかったわかった。そういうことね」
アメリアに最後まで言わせず、ポンと頭を押さえるように手を置く。
斥候というのはダンジョンの情報収集において重要なポジションだ。
だが、俺たちのパーティーには南の探索魔法がある。
アメリアの耳が必ず重要だという状況はまずなかった。
それに加えて直接的な戦闘はさせなかった。
ある意味では俺のミスだ。
必要とされないのを気にする人間は少なからずいる。
アメリアはそういうタイプの人間だった。
だからこうやって一人でダンジョンに慣れようと挑んでいた。
「アメリア、俺は言ったよな?」
「えーと、何をかナ次郎さん、それとこの手は?」
「う~ん? 今からゆっくりと力を込める準備だ。さて、俺はお前を指導するときにこう言ったよな。研修が終わるまでは一人で入るなって」
「Oh!? イタイタイイタイ!?」
アメリアの腕前は既に入社した時の俺よりも高い。
魔力適性が八と高い潜在能力と柔軟に吸収できる才能がダンジョンに挑みながらの研修を可能にした。
だが戦闘者としての経験値は少ない。
だからこそ俺は少し過保護になっていたのかもしれない。
失敗失敗と俺の判断ミスを反省しつつ、ぎりぎりと握力を高めながら絶妙な痛みを与える。
「ダンジョンに入りたければ誰かに頼めと俺は言ったけど、俺の勘違いかぁ?」
しかし、それはそれだ。
この失敗は反省せねばならないが、言いつけを守らなかった後輩にはしっかりと指導せねばならない。
「NO! 聞きました!!」
「だったら、守れ。別にお前をいじめるためにそう言っているわけでもないからな」
「うー、痛かった……でも今日は皆、休みだったし」
「遠慮するな。よほどの用事がない限りは言えば付き合ってやるよ。ダンジョンでやられてトラウマ植えつけられたって報告を受ける方が問題だ。次から気をつけろ」
「OK」
「なら説教は終わりだ」
一度目の説教はこんなものだろう。
二度目ならもう少し印象に残るようにやらねばならないが、最初から全力出す必要はない。
パッと手を離したら痛む頭をさするアメリアは、アメリカ気質の明るい部分があると思えば、日本人気質の遠慮する部分も出てくる。
今日はその面が悪く出てしまっただけだろう。
『うーん、アミーにダメージを与えつつ、あとには響かせない。見事な攻撃だ』
「う~、なんで私しかダメージが入らないの?」
『私は居候しているだけの魂だけだからね。君の体の支配権がない代わりに痛みもないわけさ。魔力のない空間では眠るしかない私の特権というわけさ』
これ以上アメリアに言う必要がないと判断し、あっさりと説教を終える。
アメリアはのんびりと同居人に文句を言う。
さて、説教が終われば次は俺の反省の番だ。
今回は戦力になっていないのではと不安になり、俺たちのいない場所で訓練した。
そんな状況をこのまま放置するのはリーダーとしてできない。
「ずるい」
『ずるくはないさ。それよりアミー、彼の方を見ることを私は勧めるよ?』
「次郎さん? オ、Oh」
ギランと俺の眼光が光ったのをマイクが気づいたのだろう。
そしてそれに合わせるように俺が三日月の笑みを浮かべたタイミングでアメリアは顔を上げてしまった。
アメリアから見た俺の顔はきっと悪いことを企んでいる男の笑顔だろう。
漫画のような冷や汗をアメリアは垂らし、いつものひまわりのような笑みは引き攣る。
「さて、アメリア」
「な、何かナ次郎さん」
「いやな、これでも俺はお前を不安にさせたことを反省しているんだ。ああ、少し過保護にして直接戦わせなかったことは当時の判断で間違っていないと今でも思う。だけど結果だけを見れば俺の判断は間違っていたとも言える」
「そ、そんなことないヨ? 私が勝手にやっただけだかラ」
このまま俺に話し続けられたらまずいと直感的に悟ったのだろう。
話を断とうとアメリアは俺に声をかけてくる。
だが、甘い。
そして遅い。
「というわけで、実地訓練と洒落こもうじゃないかアメリア、なに安心しろ。教材は向こうから来てくれたようだぞ?」
「え?」
ドスンドスンドスンと明確に何が来るか知らせてくれる足音。
そして山の上に見える土煙と
「お~、さすが天然の要害を駆使した砦風のダンジョン。防衛設備は十分か」
「ど、どうしよう次郎さん。あんなにたくさんいたら危ないヨ!」
「こんなんでつまずいてたらこの先に行けねぇよ」
崖の上から後方支援用のバリスタを構えるサイクロプス部隊。
それも一体や二体ではなく少なくとも十体。
テスター二人に大盤振る舞いだな。
「さて残念なことにアメリア、退路はないようだ。後ろを見てみろ」
「え? ええええええ!?」
抜け道でもあるのか、下山ルートからも敵が押し寄せてくる。
おまけに大盾持ちがたくさんいるときた。
俺たちを足止めする気満々だ。
こうなると崖の下も安全ではないかもしれないな。
「いやぁ、組織的に動く敵は厄介だな」
「笑いながら言うことじゃないよ次郎さん!! ど、どうしよう!!」
「何、簡単さ」
アメリアの慌て具合を見て、過去の俺の姿を思いだし懐かしい気持ちになりながら優しくアメリアに俺は微笑む。
「全部倒せばいい」
「……What?」
ああ、俺も教官の影響を多大に受けているなと自覚しつつ、何を言っているかわからないと表情で語るアメリアの意思を意図的に無視する。
タバコの火を消し、マナーとして携帯灰皿に入れる。
そして、地面に突き刺した鉱樹の柄に手をかける。
「準備は素早く的確に、相手の準備が済む前に攻撃を仕掛けるぞ」
「無理無理無理無理!! 逃げようヨ!」
「アメリア」
「何?」
「覚悟を決めろ」
「No!?」
「俺から離れるなよ!!」
「ストップ! ストップ!! 次郎さん!!」
そうして全力で敵軍勢に挑みかかり先頭の集団を一刀の下切り上げる。
宙に舞うサイクロプスたちを演出しながら顔だけ後ろに向け。
「派手に行くぞ?」
「う~、わかったヨ!!」
アメリアに無理やり覚悟を決めさせるのであった。
そして時間は流れ、夕飯時。
「信じられないよ!!」
「悪かったって」
おかげで絶賛ご機嫌ななめのアメリアの機嫌を直すために、俺は地下施設の飲食エリアで夕食を奢っていた。
俺は食後のコーヒーをすすり、アメリアは疲れた体に糖分を補給するといい今ので三皿目のケーキを食べている。
「いくら次郎さんだからってやって良いことと悪いことがあるんだヨ!!」
「食うか、文句を言うかどっちかにしろよ」
「……」
『食べるんだね、アミー』
無理やり敵のど真ん中に放り投げたダンジョン内での戦闘は無事終了。
斥候や援護といったポジションではなく。
俺がサポート役に回ったアメリアメインの戦闘は拙くも才能を見せてくれた。
「ったく、マイクから見てアメリアの戦いはどうだ?」
『改善の余地はまだまだあるけど、及第点かな?』
「あんだけ飛び回れれば十分か、速度の領域なら海堂も上回っているな」
『アミーは耳が優れているからね。音で相手の位置を把握すれば他の感覚がサポートして攻撃が当たることはほとんどない。今のまま伸ばすことが最善だと思うよ』
乱戦の中ずっしりと構えて、群がる敵を一刀のもと倒していく俺の周りを、アメリアは敵すら足場にして飛び回った。
差し詰め正面から不意を打つ暗殺者といったところだろうか。
正面から攻めようとしたらフェイントを織り込んで視覚を誘導し気づけば切りつけられている。
周囲の把握も乱戦で音が混雑しているのにも関わらず正確に把握している。
「というか、お前だろアメリアにあんな砲撃教えたの」
『まぁ、私が教えたといえば私が教えたことになるのかな? アミーは筋がいいから、つい出来心で』
おまけにナイフという攻撃力が不足がちになりそうな武装にもかかわらず、魔砲という攻撃手段を持つことで攻撃力不足を補っている。
この魔王の魂から聞くところ、ダンジョンに挑んでいたのもこの魔砲を制御するためだったらしい。
手をかざしたら魔力のレーザーが出てくるとは思わなかったよ。
おかげでうちのパーティーには頼れる遊撃要員が誕生したのは嬉しい誤算だ。
「せめて情報くらいは伝えておいてほしかったな」
『少し驚かせたかったんだよ』
「仕事にドッキリはいらねぇよ、俺の労力返せ」
『体がないから無理だね、アミーに頼みたいところだけど、彼女は今ケーキに夢中だ』
「……そのようだ」
だが、その誤算を把握するために戦闘中に割いた労力を考えるとこの魔王には少々文句を言いたい。
戦闘の中で自分だけではなく、仲間に意識を割くのは意外と体力を使う。
いつでも助けられる位置を取り、遠距離からの攻撃を防ごうと思ったら魔力を貯めて魔砲を放ったアメリアを見たときの驚きは今でも思い出せる。
「はぁ」
しかし、自分の仕事はうまくいっているのに周りの仕事がうまくいかないのはどうも締まりが悪い。
コーヒーを一口飲んだあとこぼれたため息は気苦労の表れか。
ひょっこり顔を出した問題は解決し、暴れたおかげで思考もすっきりしたが、最初の問題はまだ解決していない。
「どうすっかねぇ」
「何か悩みがあるノ?」
アメリアの機嫌を自然回復に委ねていたらいつの間にか回復していたのだろう。
ついこぼれた言葉を拾うようにアメリアは会話に入ってきた。
「いや」
それに対してなんでもないと伝えようとしたが、じっとこちらを見るアメリアを見て、今日の反省を思い出す。
頼らなさすぎて不安にさせたばかりという事実の前に、一人で悩んでいてもどうしようもないと自分に言い訳をする。
「少しテスター同士の問題で悩んでいてな」
「海堂さんたち?」
「いや、他のパーティーとだ。基本的に俺たちは他のパーティーと関わりがないだろう? それで今少し問題になっていてな。急ぎではないが、放っておいていいものでもなくてな」
駄目でもともと、先日の喧嘩を少しぼかして説明してやればアメリアは少し悩んだあと
「ならBBQをしよう! テスターのみんなを集めてすればきっと楽しいヨ!」
元気よく案を出してくれる。
発想がアメリカだな。
集まって騒いで楽しもうという発想は悪くはない。
だが、今のテスターのあいだの関係はお世辞にも良くはない。
「悪くはないな、参考にさせてもらう」
「うん! 絶対にやろうヨ!!」
無邪気に提案する彼女の提案を無下に却下するわけにもいかず、少し濁して答える。
実際、アメリアのアイディアは悪くない。
それを基盤にすればいい考えが浮かぶかもしれない。
「うーんでも、BBQだけじゃ物足りないネ。何かイベントをすれば」
「イベント?」
「うん!! きっと一緒にイベントすればBBQも盛り上がると思うヨ!」
イベント、イベントか。
そう何度か頭の中で繰り返すとすっととある考えに至る。
思いついたかもしれない。
「なるほど、イベントか。やってみるのもイイかもな」
「でしょ!」
発想の転換だ。
俺は今まで仕事の括りで物事を考えていた。
その枠を外してやれば、思いのほかいいものが浮かぶものだな。
とりあえず、思いついたアイディアは頭の片隅に留めておいて。
「アメリア」
「何?」
「ケーキ食べるか?」
「いいの?」
「ああ」
「Yes!! 店員さん!!」
今は仕事を解決してくれた仲間に報酬を支払うとしよう。
田中次郎 二十八歳 彼女有り
彼女 スエラ・ヘンデルバーグ
メモリア・トリス
職業 ダンジョンテスター(正社員)
魔力適性九(準魔王級)
役職 戦士
今日の一言
相談はしづらいが、遠慮はしないほうがいい。
今回はこれで以上となります。
これからも本作をよろしくお願いします。




