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99 火消しは重要!!

田中次郎 二十八歳 彼女有り

彼女 スエラ・ヘンデルバーグ 

   メモリア・トリス

職業 ダンジョンテスター(正社員)

魔力適性九(準魔王級)

役職 戦士



カウンター席で美女と美少女に挟まれて酒を飲むという贅沢な時間が過ぎる。

話している内容が色気の欠片もない内容であったが、それはそれで新鮮で興味深かった。


「信仰という言葉に対してかなり下世話な話になるが、いや…この場合は信仰に反した話になるのか。信仰することによるメリットとデメリットってなんなんだ?」


酒も進み幾分か高揚し始めた頃に俺はふと思ったことを口にした。

本来であれば、宗教にメリットすなわち我欲を混ぜてはいけない。

宗教に携わる人間からすれば、宝くじが当たるとか理想の恋人ができるといった願いなど欲にまみれた願いなのだろうさ。

まぁ、豊作祈願や雨乞い祈願といった信仰はある意味では人間の欲を神仏に叶えてもらおうという形なのだろうが……それは例外だろう。


「そうですね」

「……なんでしょうね」


もしかしたらそういうのは不敬だと注意を受けるかもしれないと頭の片隅で思っていたが、彼女たちは気にした様子もなくゆっくりとお猪口を置くと考え始める。


「メリットで共通するのはやはり加護でしょう」


先にメリットを口にしたメモリアは、そのまま自分の肌を指す。


「私たち吸血鬼は次郎さんの世界の吸血鬼と一緒で太陽に弱いです、それこそ生活に支障が出る程度には。ですが加護を得ることでその体質を軽減できます」


メモリアの指差した肌は、あの陽の沈まないイスアルを一緒に出張したとは思えないくらい白い。

現代の日焼け止めをしっかりと塗りこんでもここまで白さを保てるかと思えるほどに。


「他にも様々な形で加護の効果は現れますが、基本は神の加護によって自分の体を守ってもらうような形に落ち着きます」

「なるほどな」


吸血鬼にとって日光というのは確かにデメリットだ。

それを打ち消してくれる、あるいは軽減してくれるのならそれはかなりいいメリットと言える。


「例外で有名なのは、やはり勇者の加護ですね。神が強く力を与えることで運と魔力適性の性能を大きく上げ、その体を強化していますね。その反動で神の都合が多く組み込まれるので、何かと騒動に巻き込まれる体質になってしまいますよ。ですので運が高くてもメリットばかりではありません」


その話に乗るような形でスエラも加護のメリットを話してくれる。

出てきたのは有名な勇者の加護の話、神に使命を与えられ型破りな人生を送る勇者という職を考えれば納得の話だ。

それを語るスエラも苦笑を一つこぼして日本酒を舐めるように飲む。


「デメリットは……信仰を継続するにあたっては、やはり多少なりとも労力がいることですね。祈りを捧げる。供物を捧げる。使命を果たす。信仰を示す。形は様々ですが加護が強ければ強いほどその質も問われますよ」

「捧げる相手にも好みはありますので一定の共通の方法もありません。ですのでそういった知識も必要になるでしょう。ルイーナ様は試練をもってして加護の質を決めていらっしゃいますね」

「なるほどな」


ただもらってそれからは無料なんておいしい話は当然あるわけがない。

利益を得るには、商品を納品し販売することでようやく得られるのだ。

スエラとメモリアの説明を聞きながらメリットとデメリットを記憶する。

今必要かどうかは置いておき、聞き流すには惜しい情報はしっかりとまとめておかねば。


「あとは加護を受けるときにも返上するときにもしっかりとした手順を踏まないと大変なことになりますね。下手に手順を省略したりすると加護の性質が反転して呪いになってしまいますから」

「神の呪いとかシャレにならんな」


仕事でも契約を一方的に破棄すれば訴訟の種になる。

それと一緒でしっかりと相手を納得させるために段取りの必要があるのは人でも神でも変わりはないということか。

スエラの話を聞いていると加護は持っていると役に立ちそうだが、維持することをしっかりと念頭に入れる必要があるということはわかった。

地球の神話でも呪われて大惨事を引き起こしている英雄の話はいくらでもある。

スエラの話も笑って聞いてはいるが、他人事ならまだしも当事者になってしまっては笑い話にもならない。

やるときはしっかりと考えてやらねばと思いながらクイッと日本酒を呷れば胃のあたりが温かくなるのがわかる。


「そういえばスエラの言っていた精霊との契約もその信仰に入るのか?」

「それも含みますね。精霊との契約は信仰、使役、対等と様々な契約方法がありますから。基本的に最上位精霊になれば信仰対象に、中位精霊なら対等に、下位精霊や妖精なら使役といった形をとりますね。どうぞ次郎さん」

「ありがとう……っと」


空になったお猪口に酒が注がれ、それに感謝し今度は一気に行くのではなく舐めるように味わう。


「聞いた限りではすぐにどうにかなる代物ではなさそうだな」

「そうですね、今では当たり前の習慣になっていますが私たちも子供の頃から続けてきていますから」

「ですが、この先ダンジョンを攻略するのでしたら加護は必須でしょうね」

「かもな」


今は大丈夫でもこの先はわからない。

もしかしたら剣技一つで進むには限界が来るかもしれない。

その時に加護という手札があるかないかの差が勝敗を分ける日が来るかもしれない。

スエラの言うとおり一朝一夕で身につくものではないかもしれないが、メモリアの言うとおり高い可能性で今後必要性が出てくるであろう。

少なくともやらないという選択肢は選ばないというのが俺の中で結論として出た。

となれば暇なときに資料を漁るかと次の仕事の予定を組み立てていた時に聞こうと思っていたことを思い出す。


「スエラ、監督官が気になることを言っていたんだが」


それを聞こうとしたが、ふとなにか嫌な予感を感じ取りそれに従うように俺もスエラもメモリアも行動を起こした。

それぞれのお猪口とおでんの入った器を持ち立ち上がりそっと席を立つ。


ドガン!


その一秒後扉を突き破りカウンターテーブルを滑るように何かが飛んできた。


「「「おお」」」

「なんだ、喧嘩か?」

「そのようですね」

「迷惑です」


飛んできた破片がそれぞれの器に入らないようにカバーしつつ何が起きたか冷静に分析する。

その何かを壊れた扉の先に見て、慌てるどころか俺は器からちくわを摘み口に放る。

スエラはそっと確保した日本酒を飲み、メモリアは外の喧騒に視線をやりため息を吐く。

次に視線が行くのは飛んできたものの正体だ。

飛んできたのは見覚えのある同僚テスターの男だ。

同じくそれを見ていた店主は眉間に皺を寄せたと思うと呪文を唱え、そうすれば男は浮きカウンターから壁に寄り掛かるように運ばれる。

その流れで扉の破片や埃も掃除するようで、しばらくその席で食事を取るのは難しそうだ。

先に食べていた三人は酔いが回っているのにもかかわらず、しっかりと回避しおでんと酒を片手に店の外に野次馬しに行っている。

そのまま突っ立ていてもやることのない俺たちもそれに倣い、そっと壊れた扉から外を見れば、喧騒の先にテスター同士の喧嘩が見えた。

と言うか。


「海堂? なにやってんだあいつ」


片方は見覚えがあるどころか海堂であった。

四人のテスター相手に大立ち回りしている。

たまに投げ技を披露しているところを見る限りこの店に投げ飛ばしたのは海堂であると推測できる。

周囲は施設の男性職員たちがヤジを飛ばし煽っている。

完全に酔っぱらいどもは楽しんでいる空気で、スエラとメモリアの機嫌は見ないでもわかるくらいに下がり始めている。

幸い武器は使っていないようだが、彼女たちの機嫌を直す意味でも、同僚としてもこのまま放置するわけにはいかない。


「……すまん、ちょっと行ってくる」

「私も行きましょうか?」

「いや、スエラが出るほどじゃない。すぐに戻る」


俺も俺で気分よく飲んでいたのを邪魔されて少々不機嫌になり、早急に原因の解決に乗り出す。

仕事の立場上仲介に入ろうとするスエラをやんわりと押しとどめ、喧騒に割り込むように入っていけば自然と互いに何を言っているか聞こえるようになる。


「避けんなこの卑怯者が!!!!」

「うっせぇっすよ!! いきなりお前らから絡んできてなんで殴られないといけないんっすか!!」

「黙れよ、俺たちの苦労も知らないくせに!!」


酒でも入っているのか互いに顔を赤らめて罵詈雑言を飛ばしながら拳を振るい蹴りを繰り出している。

それを海堂は防御に専念し隙あれば投げて鎮圧するというのを繰り返している。

ステータスの差で一対四でも海堂が有利に進めているのはいいが決定打には程遠い。

このまま見守ればいずれ決着はつく。

だが、このまま見過ごせばヒートアップするのは目に見えている。

なにより、目の届かない場所ならまだしも目の届く場所でこんなことを放置すれば、監督不行届で何らかの罰則が飛んでくるかもしれない。


「はぁ、海堂、なにやってんだ」


それを避けるために俺は間に入り込み海堂と殴りかかろうとした男の拳を止めた。


「先輩!!」

「ああ? てめぇは」


海堂はいきなり入ってきた俺に驚き、男は男で一瞬驚くもすぐに視線を険しくする。


「これはこれは、卑怯者の依怙贔屓リーダー様じゃないですか」

「誰が卑怯者っすか!?」


ねっとりと嫌味たらしく吐かれた言葉には悪意しか含まれず。

それを援護するかのように他の男たちもニヤニヤと笑い獲物を見つけたように闘気を滾らせてきた。

海堂はその言葉に反発するが、既に男の目には海堂は映っていない。

感覚的にはストレスを発散出来る相手を見つけたといったところか。


「ああ、とりあえず俺のことは知っているようで……それでうちの海堂がなにか問題でも?」


とりあえずここでいきなり感情任せに行動を起こすのは無しだ。

そっと押しのけるように海堂を俺の背に隠し、反対側の掴んでいた手も離し面と向かって男の目を見る。


「問題もなにも、お前らの存在自体が問題だらけじゃないか」

「何?」


鼻にアルコールの匂いが届くことと顔の赤らみから相当量を飲んでいるのは確かだ。

今は酔いに任せて感情を爆発させているだけだ。

こういった輩に正論をぶつけても仕方ない。

反論しても支離滅裂な言葉が返ってくるだけだ。

なら今は聞きに徹し少しでも情報を引き出そう。


「言っていることがわからないんだが」

「とぼけんじゃねぇ!! 俺たちは知ってんだぞ!! お前らだけが上から色々と融通されて金を稼いでるってな!!」


俺の態度が気に食わないのか一気に怒鳴って脅しにかかる男は俺の胸ぐらを掴んでくる。


「なんのことだか、全く心当たりがないんだが」


融通と言われて思い当たる節と言えば命懸けのあのダンジョンツアーのことか?

確かにほかのテスターは参加せず、俺だけが段違いに強化された仕事ではあった。

だが、コイツは金を稼いでいると言った。

生憎とあのツアーは強くはなれたが、命をかけた分と考えるとそこまで儲かっていない。

一般と比べればかなり高額の危険手当は出たが、それだけだ。

あとの報酬はプライスレスの強化されたステータスというわけで。

こいつの思っている融通とは違う気がする。


「先輩先輩、こいつら俺たちがズルしてステータスをあげたって思っているんすよ。俺が絡まれた時にそんなこと言ってたっす」

「はぁ?」


そして俺の考えていた予想は見事に外れた。

こいつらは何か特別な処置を俺たちが受けて寝たら最強になっていたと思っているのだろうか。

だったらとんだ見当違いのことを考えていると言わざるを得ない。

そんなことあるわけがないだろうと海堂の言葉を聞き、ついそう口にしそうになったが。


「俺たちが必死こいてダンジョンに挑んでいるのにてめぇらはヘラヘラ笑いながらやりやがって、それで監督官や他の職員どもはお前らばかり評価しやがる。前からムカつくって思ってたんだよ!!」


海堂の方へよそ見をしていたのがさらに煽ってしまった結果になったのか胸ぐらを引き寄せるように体を揺らされ、次の瞬間には頬に衝撃が走る。


「はぁ、満足か? 満足したのならとっとと失せな」

「な、な、な」


しかし感情に任せた男の放った拳など俺にとっては痛くも痒くもない。

ふらつくこともなく、拳を頬に受けたまま睨みつけてやれば、男は一歩二歩と後ずさる。

ステータスの差は歴然、手を出せば確実に勝てる。

だが、手を出せば面倒事は目に見えている。

平和主義というわけではないが……このまま終わらすのがベストのような気がするが。

さて……どうするかね。




田中次郎 二十八歳 彼女有り

彼女 スエラ・ヘンデルバーグ 

   メモリア・トリス

職業 ダンジョンテスター(正社員)

魔力適性九(準魔王級)

役職 戦士


今日の一言

せっかく気分良く飲んでいたのに……どうしてくれようか。


今回は以上となりますが、もしかしたら再投稿するかもしれません。

これからも本作をよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 違う、手を出されたんだから周りに被害が出ない様に始末すればいい。キオウさんや他のメンツならどうする?
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