6. 『おこめの できるまで』
階段をあがると視界が明るくなった。
大きく張り出したテラスから午後の日差しが差し込んでいる。先ほど見たミニチュア模型のように、町並みが小さく見えたので、秋山はいそいそとテラスに出ようとしたが、
「あ、テラスは開放してないの。落ちると危ないから」
佐伯にやんわり止められてしまった。
書架は紫外線から書籍を守るように斜めに配置され、パネルやモニュメントがアクセントとなっている。日の当たるスペースには椅子や机が置かれ、ちょっとした集まりや自習ができそうなスペースとなっている。
腰高の棚にはいくつかのトレイが置かれ、藁半紙が入れられていた。
秋山が一枚取ってみると『おこめの できるまで』『めいじじだいの くらし』など、展示されている内容がひらがな多めの丁寧な字で纏められている。資料館を回りながら空欄を埋めていけば、夏休みの宿題ができあがるという寸法のようだ。
この美人、なかなかに有能らしい。
「このプリント、高校生用のってありませんかね?」
「ないわね」
だめもとで聞いてみたが、すげなく肩をすくめられた。
「なあに、高校生にも自由研究ってあるの? それならね、こっちがおすすめよ」
示された書架には『町の歴史』『文化』『地場産業』など、テーマごとにまとめられた文献が収められている。
「戦後の混乱で放棄された荒れ地を買い取ってこの地域で稲作を始めたのが、村長の十和田衛門ね。当時は農地改革の余波で土地を手放す農家も多かったから、比較的安値で広い土地が手に入ったの。それを整備して、職にあぶれた人々を雇い入れて農地を拡大。村長になったのも、彼を慕う住民から乞われたかららしいわ。そこから二度の統廃合を経て町制に移行し、今の形になった」
佐伯がパネルの略年表を示しながら説明してくれるが、どうにもこうにも興味が湧いてこない。欠伸を嚙み殺しながら黄色くなった紙をパラパラめくるも、手が痒くなっただけだった。
書架の端に、ビニール製のファイルがいくつか並んでいる。取り出してみると、画用紙に手書きで書かれたレポートだった。丁寧にクリアポケットに入れて製本されている。クレヨンの色遣いが暖かく、微笑ましい。
「それは、町内の子供たちの自由研究よ。優秀作品は許可を得て保管しているの」
「優秀作品……なるほど?」
急に身を乗り出した秋山に、佐伯は参考程度にしてね、と苦笑いした。




