4. ようこそ、七堂記念民俗資料館へ
冷気を浴びて、秋山は思わず「おお」と声を漏らした。
エントランスを抜けると、そこは天国だった。エアコンの効いた室内とは、斯くも素晴らしいものか。寒いくらいの室温が火照った肌に気持ちいい。
館内が若干薄暗いのは、展示品を守るためだろうか。天井には古いが豪華なシャンデリアが吊られているが、明かりはつけられていない。白いタイル張りのエントランスでキョロキョロしていると、受付カウンターの内側から女性がひとり、こちらを窺っていた。
歳は二十代の後半だろうか。白いワイシャツに黒のタイトスカート。長い黒髪を後頭部で軽くまとめた、清楚な女性だ。首から名刺大のスタッフカードのようなものを下げている。
「いらっしゃいませ」
カウンター越しに、にこりと微笑まれた。秋山は思わず「おお!」と声を漏らした。こんな美人を拝めただけでも、こんなところまで来た甲斐があったというものだ。ワイシャツを押し上げるボリュームも、大変にすばらしい。
「おお?」
「あっすいません。お会計……」
驚いたように小首をかしげられて、秋山は慌てて受付に駆け寄った。
「当館は、元町長・七堂十藏氏の住居であったものを、没後ご子息から厚意で寄贈いただいたものです。また貴重な文化財なども合わせて譲り受けたため、資料館として改装し、『七堂記念民俗資料館』の名を冠しました。広く町内へ開放するため、運営費は町議会の支援を得ており、入館料は頂戴しておりません」
女性──ネームプレートによれば、佐伯玲子さん──は、低めの静かな声でそう説明した。利用客があるたびに幾度も繰り返してきたのだろう、滑らかで口上に淀みがない。豊かな胸ポケットに挿さったペンが、ゆらゆらと光ったような気がした。
「ごゆっくり、ご覧ください」
声に背中を押されて、秋山はノスタルジックな館内へと足を踏み出した。




