3. ふたつの洋館
駄菓子屋の先は二股に分かれ、更に勾配がきつくなる。坂道というより最早山道だ。いよいよ人も民家も疎らになってくる。
左手の道のどんづまりには、鹿鳴館を思わせるやけに豪奢な洋館。桜ヶ丘会館と呼ばれる、この町随一の文化会館だ。
昭和末期の地域振興ブームもあって建設当時はかなり話題になり、大臣なども訪れたそうだ。
が、世は既に平成。当時の活気も今は見る影もない。見晴らしはいいが交通の便の悪い山奥に建てたのが災いし、すっかり寂れている。ハコモノ行政の弊害だ。
先日などは文化会館の前で盆踊りが行われていた。重厚な漆喰塗りの洋館と祭りの櫓が強烈なミスマッチを起こしていた。町議会議員がもろ肌脱いで太鼓を叩いていたのが印象的だった。
桜ヶ丘会館に行っても、待っているのは閑古鳥ぐらいだ。学術探求に燃える若者には用がない。
右手の道の先にある民俗資料館には小学校の遠足以来行ったことはないが、簡単にまとめられる自由研究の題材のひとつやふたつ、あるに違いない。秋山は右手に進路を取った。
左右の道の間には、包み込まれるように黒々とした森が横たわっている。
子供の頃は魔の森と呼んでいた、陰鬱な森だ。そのため、二つの洋館へ行くためには、それぞれ大きく迂回していかなければならない。
鬱蒼とした暗い森は、軽率に立ち入ろうとするものを拒絶しているようだ。ここも合わせて開発していれば便利になったはずだとも思うが、この寂れっぷりを見ると費用対効果があるかは疑わしい。
自転車でもすっかり息が上がったあたりで、やっと資料館の屋根が見えてきた。桜ヶ丘会館ほど大きくはないが紺色の西洋瓦が印象的な瀟洒な洋館だ。エントランスの上に大きく張り出したテラスは、ちょっとしたアフタヌーンティでも楽しめそうだ。
「冷房、効いてるといいな」
秋山は、大きく開けた白いエントランスに足を踏み入れた。




