26. なつのまもの
資料館に入るつもりはなかった。
自転車を留めて屈伸していると中から佐伯が出てきたが、もの言いたげにこちらを見るだけだった。
「……なんで、好きになったんですか」
予想外の質問だったのか、佐伯は初めて会った時のように小首をかしげて、それから微笑んだ。
「そうね。父の仕事の関係で、時々うちに来てくれることがあって。女の子には、年上の男に憧れる時期がどうしようもなくあるのよ。ちょっと都会っぽくて、陰のある雰囲気で……なんていうか、格好良かったの」
佐伯は、胸ポケットを祈るように押さえた。
「そのうち、父の工場が傾き始めてね。いつの間にか良からぬところに債権が渡っていて、怖い人たちが押しかけてくるようになった。母は泣いてばかりで……。毎日、家に帰るのが怖かった。でも彼が、自分も昔ここに隠れてたんだって、秘密基地を教えてくれたの。ここにいれば大丈夫って。俺が何とかするからって……。そんなの、惚れないわけないじゃない?」
秋山は声をあげて笑った。出来過ぎだ。そんなことをされたら、たぶん自分でも惚れている。
「すげー! 特撮のヒーローみたいっすね、遼さん。でも、俺も十年後は負けてないですよ。佐伯さん後悔するかも」
軽口を叩きながら準備運動を終え、徒競走のようなポーズをとる。森の中に自転車が落ちていたら警察だって気づく。何もなかったということは、きっとここから走ったはずだ。
だったら自分も、走ってみるしかない。携帯電話を開けて時刻を確認してから、ポケットに仕舞う。
よーい
どん。




