24. 十五時三十八分
翌日。あとほんの少しのピースが欲しくて、秋山は青柳製作所を再訪した。
あの煮えたぎるような眼差しを思うと腰が引けたが、一夜明けた青柳は意外にも穏やかな顔をしていた。そうしていると誰かに似ているような気がしないでもない。
「昨日は悪かったな。変な話しちまって」
今日は中に他の職人もいるようなので、外で手短に話そうとするが、咥え煙草の青柳が機先を制してきた。
「もしかして、俺のこと疑ってんのか」
「えっ! いえ、滅相もないです」
慌てて否定するも、青柳は気にする様子もなく続けた。
「かまわねえよ。あれを一番憎んでんのも、死んで助かったのも俺だった。そんだらもんで、警察にはいの一番に目をつけられたよ。……あいつの死亡時刻、知ってるか?」
素直に首を横に振る。
「十五時三十八分だ」
青柳はやけに細かい数字をきっぱりと言った。
「あの屋敷、テラスの下に石畳があるだろう。打ち所が良かったらしくてな、腕時計も一緒に割れて止まってた。検死やなんかの結果も合わせて、死亡時刻もそれで決まりってわけだ」
血なまぐさい話に鼻白んだ秋山に気づかず青柳は続けた。
「あの日は反対側の桜ヶ丘会館の方ででっかい催しがあったみてぇでさ、人通りも多かったし、目撃者とかを大々的に探したらしいけどな。俺は恥ずかしながらあの時離婚調停中でね。家庭裁判所にバッチリ記録が残ってたってわけだ。ハナから俺を犯人扱いしてたデカの顔は見ものだったぜ」
ふう、と白い煙を吐いて青柳は続けた。
「ほかの容疑者たちも、あの時計のおかげで無実が証明されたらしい。まあ、もう時効も過ぎたみたいだし。もし犯人が現れても、俺は礼が言いたいぐらいだね」
言いたいことだけ言った青柳は水を張ったペンキ缶に吸いさしを放り込んで作業に戻っていった。
結局、聞きたいことは聞けなかったが、思わぬ情報を手に入れた。
秋山はそれを裏付けるために、平沢写真館へと向かった。
転がるように店に駆け込むと、挨拶もそこそこにバックヤードに踏み込んだ。そこには記憶にある通りの写真が並んでおり、まずはほっと安堵の息をついた。
町制三十周年記念式典のオフショット。
オレンジ色の角張った撮影時間を、壁に張り付くようにして一枚ずつ確認していく。
十二:〇〇 黒縁眼鏡をかけた遼が、準備に奔走している姿。
十四:二八 黒縁眼鏡をかけた遼が、建設大臣に挨拶している姿。
十六:十二 演歌歌手と肩を並べて引き攣った笑顔の、銀縁眼鏡の遼の姿。
「やっぱり、資料館で見かけたサングラスとは違う。けど……眼鏡も、二種類?」
はじめは黒縁眼鏡をかけていた遼が、厳かな式典の最中だけサングラスをかけ、パーティーでは別の銀縁眼鏡をかけていたことになる。
混乱する秋山の背後で黙って見ていた平沢が、口を開いた。
「坊。写真は事実しか写さない。だが、そこから真実を読み取るのはいつだって人だ。……ここで」
筋張った長い指が秋山の胸をとん、と突いた。
「ちゃんと見極めなさい、秋山。真実を。それを知って、どうするのかを」
凸レンズの向こうからまっすぐ見つめられ、無言で頷いた。
足りないピースは、あと僅かだ。




