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自由研究の終わり方  作者: さいべり屋


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18/30

17. 森の宝石箱

+今日は夜にもう一話投稿する予定です+

 陽の光を浴びたおかげで、秋山は心が浮き立つのを感じた。沢の上には木々の天井はかかっておらず、降り注ぐ光に温められた心が緩んでいく。

 冷たい水は驚くほど澄んで、白銀の光を振りまいている。浅い沢の底に現れた波紋に目をやると、流線型の魚影がひとつ、すり抜けていった。


「冷っ…」

 靴を脱いで沢に足を入れてみた。角の取れた石の感触が足裏を刺激する。思わず蹴った石の陰からサワガニが慌てて逃げて行った。

 往く川の流れが、さっきまで渦巻いていた心を洗い流していく。秋山は知らず笑みを浮かべた。

 ここにはしっかりと生命が息づいている。外側から見えた禍々しい森とは、まるで別世界だ。

 水から上がり、秋山は沢沿いに傾斜を上っていく。この森こそ初めてだが、秋山も田舎の子。森の歩き方は心得ている。


 晩夏の山は美味の宝庫だ。

 目線を上げると、伸びた蔓からヤマブドウが一房、垂れ下がっていた。食べごろは秋だが、何粒か飛び玉が黒紫色に変わっている。これなら熟しているかもしれないと、秋山は思い切り背伸びして一際色づいた粒を毟り、口に放り込んだ。

「すっっっっっ……ぱ!」

 駄目だった。思わず震えるほどの酸味が突き抜ける。ペッと酸っぱい唾を吐きながら、秋山は次の獲物を探した。


 少し奥まった半日陰に、ゼンマイの葉が揺れている。ゼンマイは祖母の好物だが、この時期では既にと(・)う(・)が立って固そうだ。

「そうだ、帰りにミョウガでも摘んで帰ってやろうか」

 きょろきょろとあたりを見回すと、足元の叢に点々と実る赤を見つけた。


「おっ、お宝発見」

 クサイチゴだ。ラズベリーのように小さな粒が集まった実を舌で潰すと、じゅわっと蕩けるような果汁が口に広がった。本当なら時期は過ぎているが、獣に見つからずに残っていたらしい。たっぷりと熟した分だけ、濃厚で甘い。


  ざぁ……


「あ、ノブドウだ」

 ノブドウは一つの房にカラフルな実をつけている。白、紫、碧、藍、エメラルド……。黒い斑点模様も美しく、まるで森の宝石箱のようだが、残念ながら食べられない。秋山はそのひとつをそっと摘むとポケットに落とした。


  どぉぉ……

 

 少し前から聞こえていた音が、勾配を進むにつれ大きくなってきた。川辺に転がる岩が大きくなり、空気がほんの少し冷たくなる。水の香りが一帯に広がっている。

「ついた。……行き止まりだ」


 冒険のどんづまりには、大きな崖が立ち塞がっていた。


+今日は夜にもう一話投稿する予定です+


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