17. 森の宝石箱
+今日は夜にもう一話投稿する予定です+
陽の光を浴びたおかげで、秋山は心が浮き立つのを感じた。沢の上には木々の天井はかかっておらず、降り注ぐ光に温められた心が緩んでいく。
冷たい水は驚くほど澄んで、白銀の光を振りまいている。浅い沢の底に現れた波紋に目をやると、流線型の魚影がひとつ、すり抜けていった。
「冷っ…」
靴を脱いで沢に足を入れてみた。角の取れた石の感触が足裏を刺激する。思わず蹴った石の陰からサワガニが慌てて逃げて行った。
往く川の流れが、さっきまで渦巻いていた心を洗い流していく。秋山は知らず笑みを浮かべた。
ここにはしっかりと生命が息づいている。外側から見えた禍々しい森とは、まるで別世界だ。
水から上がり、秋山は沢沿いに傾斜を上っていく。この森こそ初めてだが、秋山も田舎の子。森の歩き方は心得ている。
晩夏の山は美味の宝庫だ。
目線を上げると、伸びた蔓からヤマブドウが一房、垂れ下がっていた。食べごろは秋だが、何粒か飛び玉が黒紫色に変わっている。これなら熟しているかもしれないと、秋山は思い切り背伸びして一際色づいた粒を毟り、口に放り込んだ。
「すっっっっっ……ぱ!」
駄目だった。思わず震えるほどの酸味が突き抜ける。ペッと酸っぱい唾を吐きながら、秋山は次の獲物を探した。
少し奥まった半日陰に、ゼンマイの葉が揺れている。ゼンマイは祖母の好物だが、この時期では既にとうが立って固そうだ。
「そうだ、帰りにミョウガでも摘んで帰ってやろうか」
きょろきょろとあたりを見回すと、足元の叢に点々と実る赤を見つけた。
「おっ、お宝発見」
クサイチゴだ。ラズベリーのように小さな粒が集まった実を舌で潰すと、じゅわっと蕩けるような果汁が口に広がった。本当なら時期は過ぎているが、獣に見つからずに残っていたらしい。たっぷりと熟した分だけ、濃厚で甘い。
ざぁ……
「あ、ノブドウだ」
ノブドウは一つの房にカラフルな実をつけている。白、紫、碧、藍、エメラルド……。黒い斑点模様も美しく、まるで森の宝石箱のようだが、残念ながら食べられない。秋山はそのひとつをそっと摘むとポケットに落とした。
どぉぉ……
少し前から聞こえていた音が、勾配を進むにつれ大きくなってきた。川辺に転がる岩が大きくなり、空気がほんの少し冷たくなる。水の香りが一帯に広がっている。
「ついた。……行き止まりだ」
冒険のどんづまりには、大きな崖が立ち塞がっていた。
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