11. 田舎つかえねー問題
帰宅した秋山は、父のパソコンを借りて電源を入れた。ブゥン、と音を立ててファンが回る。
父の仕事用ではあるが、家に一台しかないため半ば共用となっており、居間の隣の和室に置かれている。初めて家に届いた時には感動したものだが、最近では立ち上がりにだいぶ時間がかかる気がする。
「あら、調べもの? 十一時以降にしてよ、電話代高いんだから」
「かーちゃん、今はもうダイヤルアップじゃねーのよ。時代はADSLなんです」
廊下を通りかかった母に小言を言われる。
母はいまいち電化製品に疎いが、パソコンを買った当初、家族全員で弄り回して電話代が万を越えた時のことを、いまだに根に持っている。
テンテロテン、と甲高い音を立ててパソコンがやっと立ち上がった。ブラウザを開き、検索窓に「コペンハーゲン」と入力する。地図を選択すると画面に大きく航空写真が映し出された。
今年サービスが開始されたばかりのバーチャル地図サービスだ。
「おお、すげえ」
コペンハーゲンは美しい街だった。意外と緑が多い。太い河が街を通ってケーエ湾に流れ込み、まさに「水の都」という感じだ。星形のような形に刈り取られた庭園。中心部から放射線状にまっすぐ伸びる道。屋根はオレンジ色が多く統一感があるし、水色の大きな建物はまるでお城のようだ。
初めて知った土地の異国情緒に惹かれマウスを動かしていると、陽菜が後ろから首に絡みついてきた。
「兄貴、何見てんの? ここどこ? 外国?」
人の物を借りていて文句は言えないが、この家のプライバシーはどうなっているのか。
「知らねーのかよ、コペンハーゲン。デンマークの首都だよ、北欧の。」
「北欧知ってるし! 葉っぱの模様のカーテンがあるとこでしょ!」
食い下がる陽菜をあしらいながら、遊び心で自分の住所を入力してみた。グルグルと少し考えるそぶりをしてから、ブラウザは町の景色を吐き出した。
「おお、思ってたよりずっと田舎だった」
とにかく緑色が多い。段々畑が面積のほとんどを占め、申し訳程度に民家が点在している。陽菜が「あーちゃんちどこ?」と聞いてくるが、そこまで詳細な写真ではないようだった。
マウスをスライドする。回線が重いのか、歩くようにゆっくりと山道を移動する。駄菓子屋のある分かれ道の所まで来て、秋山は指を止めた。
「ない……」
その先は何もなかった。森はモコモコとした雑な雲のような形のテクスチャで覆われ、桜ヶ丘会館や七堂記念民俗資料館があるはずの場所も、ガビガビした緑色で塗りつぶされていた。
「まさか……田舎すぎて、航空写真が撮られていない……?」
秋山は陽菜と顔を見合わせ、二人そろって畳に倒れこんだ。
「田舎つかえねー!」
パソコンの冷却ファンが、「ゴォーー」と笑い声を立てていた。




