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第二編 第五章 その1 成金登場

 家宅捜索を恐れた僕は、壁紙の裏に隠していたお宝の山を、とある建物の重たい石の隙間にねじ込んだ。

 途中で、大学の友人であるラズミーヒンの部屋を訪ねたが僕はそこから逃げ去った。

 帰り道、冷たい川にかかる橋の上で、誰かが僕に一枚の硬貨をくれたけど、僕はそれを川に投げ捨てた。

 そして部屋に戻った後の記憶は途切れている。

 熱病でぶっ倒れていた僕を、親友のラズミーヒンや医者のゾシーモフが看病してくれていたらしい。

 仕送りで新しい服まで買い与えられたとのことだ。なんともお節介なことだ。

 ラズミーヒンたちの口から出たのは、婆さん殺しの犯人として、塗装工のニコライが疑われているという話だった。他人が僕の罪を被らされてるらしい。

 そんな中、とある成り金が僕の家を訪れた。


「私はどこに迷い込んできたんだね?」


おっさん紳士は、堅苦しそうに堂々と警戒心をむき出しにしている。

侮辱と驚きを隠す気もなく僕のいわば船室を見回している。


服も脱いで髪もボサボサで不潔極まりない僕を睨むおじさん紳士を、髭も剃らず櫛も入れてないラズミーヒンは睨んでいた。


そして誰もが予想できるように、この膠着状態に一石が投じられた。厳格なままでは話が進まないと思ったのだろう。


柔らかな物腰で丁寧にゾシーモフ、医者に話しかけた。


「ロージオン・ロマーヌイチ・ラスコーリニコフ、学生いや元学生?」


ゾシーモフはゆっくりと動いた。ラズミーヒンが遮らなければ返事をしていただろう。


「ラスコーリニコフはソファーに横たわってる! なんのようだ?」


この馴れ馴れしい切り口は堅苦しいじいさんを切り倒した。じいさんはラズミーヒンへと足を向けたが、やめてゾシーモフの方へと向けた。ゾシーモフはもごもごと言った。


「おい、ラスコーリニコフ」


ゾシーモフは並外れて大きく口を開けてあくびをした。その口の形はしばらく保たれた。ゆっくりとベストのポケットに手を突っ込んで巨大な凸レンズの蓋がついた金時計を取り出し、開いて、眺めて、仕舞った。


怠惰。怠惰。


僕は仰向けに横たわって、好奇心の花は散っていた。

苦痛極まる手術あるいは拷問から解放されたような気分だ。

僕は突然重たい身体を起こして、途切れ途切れの弱い声で喋った。


「はい? 私がラスコーリニコフですが? あなたは何の用で?」


客は注意深く見て、力強く喋った。


「私の名はピョートル・ペトローヴィチ・ルージン。私は望んでいます。あなたが私を覚えていることを」


僕はぼんやりと彼を見つめて応えなかった。


「ほう。私の名を聞いていないのだね? ショックだなあ。とっくに10日、二週間前くらいに手紙おくったのになあ」


会話を遮ったのはラズミーヒンだった。


「おい、なんでドアのとこにずっと立ってやがる? 説明したいことがあるなら座れ! ほら!」


ラズミーヒンはテーブルと自分の膝の隙間に少し空間を開けて、多少の緊張をごまかしながらも、客が隙間に這い込むのを待った。


「気まずく思うな。俺はラズミーヒン。ロージャ、つまりラスコーリニコフのダチだ。そしてこの医者と一緒にロージャを看病してるんだ。遠慮しないで喋りたいこと喋るんだな」

「ありがとう。だが一医者の私が聞いていいものなのかな?」


ルージンは帽子を既に手に抱えていて、あからさまに好印象を残そうと努力してるように見受けられた。虚栄心が慎重さを圧倒するほどに。


ゾシーモフはもごもごと口走った。そしてまたあくびをした。


「い、いやあ。むしろ、いい気晴らしになるかもしれません」


ルージンは肩をすくめて本題を切り出した。


「私が彼女らのところにいた頃、さっき言った通り手紙を書いた、そしてわざと数日の間を開けてやってきたのだ。あなたに知られたと確信するために」


僕は多分、顔を顰めてたと思う。


「ああ! 妹の婚約者かあ!」


1分ほどの沈黙。


ルージンには婚約者という称号を無遠慮に与えられたことを正当化する何かがあり、首都での数日を利用して花嫁である僕の妹を待つ間に身だしなみ、着飾りを整えることに成功したことを物語る何かがあった。


自惚れが服着て歩いてるってわけだ。


暗い頬髭、髪は白髪交じり、顎髭は濃ゆい。そのまま結婚式に行けるほど美しくて堂々してると言うのに、なんで反発したくなるんだろうか。


そんな僕の分析にルージンは全く気付かなかったらしい。



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