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第二編 第一章 その2 警察からの呼び出し

「私は知らない。でも呼ばれてるんだ。行ってくるんだな」


管理人は僕を睨みつけるなり、周りを見渡して、去っていった。


「病気なのか?」

「昨日から熱があるんだ」

「もう起きるな。病気ならここで寝てな。大丈夫。燃え尽きはしないさ……へえ……ボロ衣ばかり集めてんのか」


僕の腕の中には房の切れ端、爪先、ポケットのぼろ。これらを持ったまま寝落ちしていたみたいだ。

僕はそれらを外套の下に押し込んだ。


「……警察?」

「お茶飲むか? 持ってきてやろうか?」

「いや……行く……」

「階段降りられる?」

「……行く……」

「好きにしろ」


彼女が去った後に、僕は蛾になった。なぜなら光にまとわりついたからだ。


「確かに反転はあるが、擦り切れて色褪せている! 知らなきゃわからないさ! ナスターシャだって気付かなかった。ああ、ありがたき祝福」


召喚状曰く、今日の10時半に地区監視官の事務所に来いとのこと。


「滅びるんなら、さっさと滅んじまえ! ほら爪先履いたぞ! 擦り切れて滲んでしまえ!」


でもすぐに投げ捨てた、でもこれしかなかったのでこいつを履いた。


「これは罠だ! 策略だ! サツは私を混乱させようとしているんだ! 私が熱病に犯されていたら、何か口走るかもしれないとね!」


階段で思いついた。壁紙の穴の中に全部あるんだ。もしかして、私のいない隙に家宅捜索するというんじゃあるまいな。


太陽が明るい晴れた通り。埃と煉瓦と石灰。フィンランドの行商人と半分崩壊した馬車。絶え間なく行き交う酔っ払い。


曲がり角、昨日の通り、婆さんの家、事務所。


「自白しちまうかもなあ」


僕は婆さんの家から目を逸らした。

事務所は僕から四分の一ヴェレスタ(226メートル)

それは新しい住居へ移転したようで、4階にあるそうだ。

門の下。右の階段。当てずっぽうに上がり始める。


「膝をついて、腹を割って……」


勾配は少し高めだった。蒸し暑い。

上へ下へ、管理人たちが本を脇に抱えて。巡査と多様な人々も。


事務所の扉は不用心にも開きっぱなしだ。


蒸し暑さが汚水を蒸発させそうで、その上亜麻仁油で新しく塗りたくられた塗料の香りは腐ってりゃあ。


それでも進むしかなかった。

誰も僕には気が付かなかったようだ。


二番目の部屋で座っている書紀に、僕より幾分かマシな服をまとった奇妙な人々。


「誰だあんたは? 君は学生か?」

「元ですけどね」


書紀は何の興味、関心、意欲もなしだ。僕には彼がよく解らなかった。


「書記長のとこへ行け」


指を前に突き出して、一番最後の部屋を指し示した。


狭く、ギッシリ詰まった公衆だ。

訪問者の中には小綺麗なお二方、御婦人がいらした。

片方は喪服が貧しそうで、もう片方は言葉を選ばないなら華やかなブタだ。


僕は召喚状を書記長に見せつけた。


「待っとれ。こっちの用事を済ましてからな」


僕はやっと自由意志に従って息を吐きだせた。僕に雀の涙程度の勇気が湧き始めた。


ここにはまともな空気がない。理性が吹き飛んじまいそうだ。

僕は僕自身を制御できない。虚しいあの努力にしがみついてばかりだ。


でも書記長に僕は興味を注いだ。推測したいと思った。


彼は22歳くらいで、褐色で生き生きとした顔つきで、僕よりは年寄りそうで、流行を乗りこなし、気取り屋で、後頭部に分け目があって、梳かして油塗って、指輪に金の鎖。フランス語で喋っている。


「ルイーザ・イワーノヴナ、あなたは座ったらどうです?」


華麗なるデブは隣に椅子があるというのに、座る勇気がなかったようだ。

ありがとう、という一言とともに絹の音を立てて腰を下ろした。

白のレースの縁取りが気球みたく椅子の周りを埋め尽くした。

明らかな不安と微笑んでいた臆病。香水のせいだか。


喪服の婦人は肩を揺らしながら帽子を勲章つきのテーブルに投げて、膝掛け椅子に座した。

華麗な婦人(グレート・ピッグ)は僕を見つめて、歓喜で蹲り始めた。

だが士官(地区監視官の助手で赤みがかった口髭が両側に水平に突き出している)は厚かましさ以外何も表現していなかった。


士官は横目で僕を観た。

僕はあまりにも長く彼を観た。士官は侮辱を感じたようだ。


「何のようだ?」


ボロボロの僕が彼の稲妻のような視線から消えようとしないことが彼の琴線に触れたらしい。


「召喚状ですよ」


急いだ書記長は紙切れから目を話して言った。


「金の取り立ての件だよ」


金? 金?! 金!! 


肩の荷がおりたのは言うまでもなかった。



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